47話 雷と砂鉄のレクイエム
夢の中
ピエロの指が軽やかに鳴った。
その瞬間、赤い糸が無数に走り、三人の身体を貫いた。
「くははっ! もっと、もっと見せてよ!」
白い仮面の奥から、狂気じみた声が響く。
「壊れていく顔――それが一番、美しいんだ!」
煉の腕が裂け、血の代わりに光が零れる。
ポルックスの肩口からは火花が散り、放電のたびに身体が痙攣した。
「く……そ、制御が……効かねぇ……!」
その声も、かすれていた。
明里もまた、膝をつき、息を荒げている。
肌を焼くような雷光、冷たく締めつける糸。
どこを見ても、出口はない。
ピエロはゆっくりと近づく。
「君たち、よく頑張ったね。でも、もう終わりだよ。
私の舞台で、私のルールの中で――君たちは、ただ散るだけ 勝ちはいつも美しい」
明里は唇を噛んだ。
その時、ふと……視線の先で何かが揺れた。
足元。
灰に埋もれた地面の中で、細かな黒い粒がかすかに動いていた。
(……砂鉄?)
ほんの一瞬、恐怖が脳裏を掠めた。
でも、立ち止まってる暇なんてない。ここで終わらせなきゃ、みんなが消える。
小さく、静かに。
まるで何かに導かれるように、黒い粒子が渦を巻いている。
明里の瞳が、そこで一瞬だけ光を宿した。
(……そうか。磁力……! この夢は、彼の力と干渉してる……)
ピエロの支配する夢の中でも、ポルックスの雷は磁場を生んでいた。
ならば――それを使えば。
「ポルックス!」
明里が叫んだ。
「地面を見て! 砂鉄よ! あなたの放電が、あれを動かしてるの!」
ポルックスは苦痛に顔を歪めながらも、視線を落とす。
黒い粒が、呼応するように震えていた。
「……まさか、これ……」
「感じて! 磁場を操るの! あの糸を断ち切って!」
ピエロが首をかしげた。
「なにをするつもりだい? 夢の中で、物理法則なんて――」
その瞬間、空気が唸った。
低い振動が地の底から響く。
ポルックスが片腕を地に向け、力を込める。
掌から青い閃光がほとばしり、地表の砂鉄が一斉に渦を巻いた。
――ザザァァッ!
磁場が生まれ、赤い糸がひとつ、プツリと切れる。
ピエロの仮面に、わずかなヒビが走った。
「……な、に……? この干渉は……!」
明里が叫ぶ。
「わたしたちのターンね。あなたの舞台は、完璧なんかじゃない! あなたの“芸術”ゴーレム――わたしたちに壊された!」
ピエロの肩が震えた。
「やめろ……その言葉を……言うな……!」
砂鉄の渦がさらに広がる。
赤い糸が次々と切れ、雷と磁場が交錯する。
光と影が交わる空の下――
ピエロの笑みが、ひとひら崩れ落ちた。
そして、夢の世界が――音を失った。




