42話 創世の残響
――どこかで、金属の擦れる音がした。
煉は目を開けた。
闇。いや、闇というよりも、“色のない世界”だった。
地面も空もない。ただ、灰色の靄が果てしなく広がっている。
(……ここは、どこだ?)
立ち上がろうとしても、足の裏に“地面”の感触がない。
それでも、なぜか歩ける。
まるで水面の上に立っているような、奇妙な浮遊感。
遠くに、ぼんやりと光が見えた。
その中心に、誰かが立っている。
「……ポルックス?」
声に反応するように、その人影が振り向く。
金色の髪が、夢の光にゆらめいた。
彼だった。
「煉……お前も、ここに?」
「どういうことだ? 気づいたら……真っ白な場所に立ってた。
明里は……どこにいる?」
ポルックスは、言葉を詰まらせた。
何かを思い出そうとしているようで――
だが、その“記憶”が靄に飲み込まれていくように、掴めない。
「さっきまで……明里の声が、聞こえた気がする。
でも、すぐに消えた。まるで、誰かに――“消された”みたいに」
(消された?)
煉は辺りを見回す。
灰色の空間が、まるで生き物のように“呼吸”していた。
霧が、心臓の鼓動に合わせて脈打っている。
そのとき。
――カラン。
どこかで、小瓶が倒れるような音が響いた。
その音に、二人は同時に振り向く。
そこにあったのは、赤い液体を満たしたガラス瓶。
――あの、エリクサーだった。
「……夢の中、なのか?」
煉の問いに、ポルックスは首を横に振った。
「違う。
これは、“夢”を装った……干渉領域だ。
俺たちの記憶と魔力を繋いで、誰かが――再構成してる」
その言葉の直後、
赤い瓶の中で、ぷくりと泡が弾けた。
――トクン。
音が、世界全体に響き渡る。
靄が揺れ、空が割れた。
そこから現れたのは、巨大な影。
双三角錐状の透明なクリスタル。
それは、以前に倒したはずの“クリスタルビースト”だった。
だが、その核の中には、見たことのない赤い光が脈打っている。
「まさか……蘇ったのか?」
「違う。これは――“記憶の再演”。」
ポルックスの声が震える。
「誰かが、俺たちの記憶を再生して、そこに別の意志を混ぜている。
まるで、夢の中で再び創世を試みているように……」
そして、声がした。
「目覚めなさい。まだ終わっていない。
創世の術式は……ここからが始まりだよ」
その声に、二人は凍りついた。
聞き覚えがあった。
――ピエロの声。
靄が震え、月の光が差し込む。
天上に浮かぶ月が、赤く染まり、ゆっくりと割れ始める。
そこから漏れた光が、世界を呑み込みながら――
二人を再び、深い夢の底へと引きずり込んでいった。




