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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第2章 絆

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39話 深紅の脈動

 わたしたちは命からがら小屋に戻ってきた。わたしたち見るなりレックス、シルフィアが真っ青な顔して介抱してくれた。



レックスの手から渡された小瓶を、わたしはぼんやりと見つめていた。

 深紅――それは、ただの薬とは思えないほど濃く、どこか生き物の血のように、ゆっくりと瓶の中で脈打っている。


「……飲め。体の再生を早める。すぐに効くはずだ」

 レックスの声は、どこか遠くで響いているように聞こえた。

 隣では、煉が壁にもたれたままぐったりと目を閉じている。ポルックスも、椅子に腰掛けたまま息を荒げていた。

 戦いの傷は深い。今はただ、生きていることだけを確かめるような沈黙が、部屋を包んでいた。


 わたしは震える手で瓶の栓を外した。

 ――とくん。

 液体の中で、泡がひとつ、心臓のように弾けた。


(……何、この音)


 耳を澄ますと、ほんの一瞬、誰かの笑い声が混じった気がした。けれど、それもすぐに消える。疲れすぎて幻聴でも聞こえたんだろう。

 気にせず、わたしは一気に口へ運んだ。


 舌に触れた瞬間、鉄の味がした。

 それは血のように温かく、喉を通るたびに体の奥が熱くなる。

 飲み干すと同時に、まるで全身に灯がともるように、感覚が戻ってくる。


「……大丈夫か、明里」

 レックスの声。

「うん……なんか、体が……軽く、なって……」


 言葉を出しきる前に、世界がゆらりと揺れた。

 視界の端が溶けるようにぼやけていく。

 壁の明かりが波打ち、ランプの光が滲む。


 眠気ではない。

 落ちていく感覚。


(……これ、眠って……るの?)


 レックスの声が、もう遠い。

 煉のうめき声も、ポルックスの息づかいも、だんだんと水の中に沈んでいくみたいに遠ざかっていった。

 気づけば、わたしは自分の手を見つめていた。

 手のひらが、月明かりに照らされている。


 ――月?


 部屋の中のはずなのに。

 いつの間にか、天井がなくなっていた。

 夜空が広がり、赤く滲んだ月がこちらを見下ろしている。


 その月が、ゆっくりと――降りてきていた。


 音もなく、ただ、確実に近づいてくる。

 息が詰まる。立ち上がろうとしても、足が動かない。

 空気が重く、世界が歪む。


 赤い光の中で、月の輪郭が溶け、誰かの顔に変わった。

 白い仮面。赤い唇。歪んだ笑み。


「……やあ、救世主サマ。ようやく来たねぇ……」


 ピエロの声が、月の中から降ってきた。

 笑いながら、泣いているような声。

 その声を聞いた瞬間、ようやくわかった。


(これ……夢だ……?)


 でも、その気づきも、すぐに霞んでいく。

 現実の記憶が遠ざかり、夢がすべてを塗りつぶしていく。

 そして、わたしは――月の光に包まれたまま、深い闇へと落ちていった。

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