38話 焦土の代償
パァァァンッ――
世界が再び白く光り、全ての音が消えた。
――キン、と高い耳鳴りが去ると、砂塵をはらんだ乾いた風の音が、遠くから聞こえてきた。
わたしは震える体で両耳を覆う手を下ろした。急いで動かした全身が痛む。
視界を覆っていた土煙が薄れ、ゴーレムの姿が消えた場所が露わになる。そこには、針状の腕も、笑う口も、もうなかった。あるのは、風が運ぶ塵よりも重く、黒い砂鉄の塊と、それが熱で焼かれてできた地面の焦げ跡だけだ。
わたしは、まだ立ち上がれずにいる煉の元へ、砂に足を取られながらも必死に駆け寄った。
「煉!ポルックス!大丈夫!?」
煉は血が滲んだ左肩を押さえ、深く息を吐き出す。
「ああ。ポルックスが間に合った。……まさか、地磁気まで操るとはな」
ポルックスは、両手を地面についたまま、激しく肩で息をしていた。魔力を放出しすぎたのだろう、その体は小刻みに震え、瞳の金色の光は完全に消えていた。立っているのもやっと、という状態なのは明らかだ。
ポルックスは、その疲労しきった体で、砂鉄の残骸を一瞥したあと、素早く周囲を見渡した。そして、鋭い視線が岩陰の奥で止まる。
「……逃げた」
彼は、悔しさを滲ませた低い声で言った。
わたしと煉が慌ててそちらを見たが、そこにあるのは、風に揺れる雑草と、ピエロが身につけていたような赤と青の鮮やかな布きれの残骸だけだ。
「あの男、ゴーレムが崩壊する直前に、あらかじめ作っておいた転移の術で」煉が呻き声混じりに続けた。「……くそっ、最後まで楽しんでやがったか」
ピエロの「お代はまだ、もらってないよォ……救世主サマァ……?」という声が、耳鳴りのようにわたしの脳裏に響く。
わたしは、自分の無力さと、戦いに勝ったにも関わらず残った不気味な敗北感に奥歯を噛みしめた。
ゴーレムは倒した。けれど、黒幕は逃げた。そして、この戦いのために、二人は深く傷ついた。
わたしは煉の肩に手を添えた。彼の傷は深い。そして、ポルックスも限界だ。
「休んでる暇はない。早くここを離れよう。この場所から、遠くへ……!」
辺りには、重い静寂と、敵がまだ近くにいるのではないかという薄い恐怖だけが残されていた。




