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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第2章 絆

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37話 磁界の牢獄



「お代はまだ、もらってないよォ……救世主サマァ……?」


その瞬間、砂鉄の巨体が、金属の悲鳴をあげながら動き出した。


ぎゃららららッ!


針のように尖った砂鉄の腕が、地面を叩き割るような速度で振り下ろされる。


煉が叫んだ。「危ない、明里!」


彼は咄嗟にわたしの体を突き飛ばし、砂の飛沫しぶきから守ってくれた。その間に、ポルックスが動く。


「させるか!」


彼の手から、再び雷光が走った。今度は連続する高圧電流。ゴーレムの全身を覆うように、青白い電撃が襲いかかる。


けれど、異形のゴーレムはひるまない。いや、ひるむことができない。


「フフフ……ポルックス君。同じ手は効かないよォ」ピエロが楽しげに声を上げる。

「私の傑作は、キミの電撃で磁化した。全身が磁石になった身体に、いくら電気を流しても、すぐに電流を制御してしまうのさァ!」


ゴーレムの黒い体表に走った電撃は、一瞬で熱となり、赤い磁力線となってその体全体を走った。

「ギィン!」

という金属質の甲高い音が響き、電撃は消滅する。


「なっ……」ポルックスの顔が、驚愕に歪んだ。


「磁場を制御して、電気エネルギーを熱と磁力に変換したのか……!」


その隙に、ゴーレムの逆関節の脚が地を蹴った。獣のような跳躍力。その巨体が、ポルックスめがけて一直線に迫る。


「逃げろ、ポルックス!」


煉の叫びが届くよりも早く、ゴーレムは宙で体を捻った。長く異様に伸びた左腕が、まるで巨大な鞭のようにしなる。


ズシャァァア!


砂鉄の束が、地面を深くえぐり、ポルックスを庇うように飛び出した煉の左肩を、横から叩きつけた。


「ぐっ!」


煉の体が、木の葉のように吹き飛んだ。土煙の向こうで、彼はうめき声を上げ、左腕を押さえている。

わたしは、自分の無力さに奥歯を噛みしめた。体はまだ砂に半分埋まったまま。

「ウォーター・ボール!」わたしは立ち上がり、残された魔力の全てを込めて、再び水の円盤を放った。


しかし、ゴーレムは避けない。


パァン!


水の円盤は、ゴーレムの腹部を叩いたが、それはまるで液体が網戸に当たるように、バラバラになった砂鉄の隙間をすり抜けて、地面に染み込んでいくだけだった。


「無駄だよォ、明里ちゃん」ピエロが心底楽しそうに言う。

「いまのこの体は、磁力で形を保ってるんだ。隙間だらけ。物理的な攻撃なんて、ほとんど効かないんだよォ!」


ゴーレムは笑う口をさらに歪ませ、わたしに向かって針の腕を突き出した。


「おしまいだァ……!」


その瞬間、ポルックスが立ち上がった。全身が震え、その両の瞳が金色の光を放つ。焦げた髪から、微かに火花が散っている。


「……確かに、お前は雷撃を制御した」ポルックスが低く唸る。「だがな、俺の魔力は、ただの電気じゃない」


彼は、両手を砂鉄の巨体に向けて突き出した。

「大地に帰れ。――アース・ブレイク!」

地面が、うねった。


ゴーレムの足元から、マグマのように赤く熱した大地の磁力が、巨大な地磁気の壁となって噴き出した。それは、ゴーレムを閉じ込める檻のように、ぐるりと円を描いた。


ゴオオオオオォォォ……!


「な……!?」ピエロの声が、初めて動揺に震えた。


「地磁気だと……!そんな馬鹿な!」

大地から逆巻く磁気の力が、ゴーレムの体を、文字通り引き裂き始めた。ゴーレムの体が構成している砂鉄の粒子一つ一つが、ポルックスが作り出した強力な磁界によって、バラバラの方向に引き寄せられていく。


ギチギチ……ギリリリリィィ……!


「構造をバラバラにしても、磁場がある限り、再び集まる……!」ポルックスは、血を吐くような声で叫んだ。

「だったら、磁場そのものを打ち消す!」


赤く燃える地磁気の壁の中で、ゴーレムの異形の体が、原型を保てなくなり始めた。針状の腕が崩れ、獣のような脚が溶けていく。


ピエロは、狂ったように叫び続けた。

「やめろォ!やめろォ!私の芸術を壊すなァァアッ!」


ゴーレムは、最後の力を振り絞り、笑う口の奥から、高周波の金属音を放った。


キィィィィィィィィィンッ!


その音は、鼓膜を突き破り、脳を揺らす。わたしは思わず両手で耳を塞いだ。

ゴーレムが放った磁気エネルギーの波紋が、ポルックスの作った地磁気の檻と衝突する。


パァァァンッ――


世界が再び白く光り、全ての音が消えた。






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