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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第2章 絆

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29話 霧の決着


霧が濃く、肌にまとわりついてくる。

冷えた水滴が頬を伝い、まるで汗のように垂れた。

 指先がじんじんと痺れ、かじかんで動かしづらい。


 ――雪だ。

 頭上から、白いものがはらはらと舞い降りる。


 「ちっ、マジで降ってきやがったか……」


 俺は息を荒く吐き、足元のぬかるみに爪を立てる。

 この冷気は、あいつの仕業だ。

 動きが鈍る前に、決着をつける――!

 (ここで終わらせる。明里たちを、これ以上苦しませないために……!)


 霧の中から、ゆらりと人影が近づいてくる。

 シルフィアだ。勝利を確信したようにゆっくりと歩み寄り、唇の端に笑みを浮かべる。

 ぬかるみを踏むブーツの音が、妙に大きく耳に響く。


 俺はポケットに手を突っ込み、指先で一枚の鱗を探り当てる。

 (ここで止める……!)


 次の瞬間、爪の間から弾かれた鱗が一直線に飛んだ。

 霧を裂き、シルフィアの頬を掠める――。


 ぱしゅ、と生々しい音を立てて血が滲む。

 シルフィアの表情から笑みが消えた。


 「……や、やめろ……!」


 声は震えていた。

 俺は無言で低く唸る。喉の奥から、獣の音が響く。


 「どんな攻撃かと思ったら……セコいわね」

 強がるように笑い返すが、その声は先ほどより僅かに高い。


 俺はきびすを返し、泥を蹴り上げて走り出した。


 「逃げても無駄よ!」

 背後から風の唸りが追ってくる。

 「わたしは風の魔法使い。あなたの逃げ足くらい、すぐに――」


 次の瞬間、前方の霧が裂け、シルフィアが先回りして立ちはだかった。

 逃げ道は、もうどこにもない。


 「これで終わりね」

 指先に魔力を集める。霧が渦を巻き、風の刃が生まれかけ――


 ――ふらり。


 シルフィアの肩が揺れた。

 指先がわずかに震え、集めた魔力が霧散する。


 「……っ、なに、これ……」


 彼女は唇を噛み、片膝をついた。

 白い霧の中で、赤い血が頬からぽたりと落ちる。


  俺は息を吐き、低く言い放った。

 「だから、やめろって言ったんだよ」


 シルフィアは苦しげに肩で息をし、血に濡れた頬に手を当てる。

 その指先が、赤く染まって震えている。


 「……なにを……した……?」

 声が掠れていた。いつもの余裕は、もうそこにはない。


 俺は彼女から目を逸らさず、ゆっくり近づく。

 「教えてやるよ。だが、よく聞け」


 霧の中、俺は腰のポーチからもう一枚の鱗を取り出して見せた。

 「これは俺の鱗だ。俺たちリザードマンの先祖は、コモドドラゴンって言ってな……噛みつきじゃなく、血を止めさせて獲物を弱らせて狩ってきたんだ」


 シルフィアの目が見開かれる。

 「……血液……?」


 「そうだ。おまえの頬に刺さった鱗には、血液凝固阻害の毒が塗ってある。

 ここまで魔法で暴れれば、心臓も早く打つ。毒が回るのも早い」


 シルフィアは唇を噛み、苦笑した。

 「……ずるい子……ね……」


 霧の向こうで雪が降りしきる。

 俺は彼女から目を逸らさず、低く言った。

 「動くな。毒が回りきる前に、話がしたい」

白い霧の中で、シルフィアが片膝をついていた。

 血は止まらず、頬から顎へと伝い、泥の上に赤い点をつくる。


 「……はぁ、はぁ……くそっ……!」


 シルフィアの肩が上下する。指先から風が生まれかけては、すぐに掻き消えた。

 もう魔法を維持する余裕もないらしい。


 俺は一歩近づくと、腰のポーチから小瓶を取り出した。

 濃い緑色の液体がとろりと揺れる。


 「じっとしてろ」


 シルフィアが顔を上げる。睨むでもなく、ただ驚いた目で俺を見た。

 「……なにを……」


 「死にたいなら勝手にしろ。ただ、明里たちの前で死体を転がされるのは後味が悪い」


 言いながら、瓶の栓を歯で抜き、指先で液体を掬って彼女の頬に塗る。

 同時に、もう一枚の鱗を爪で削り、粉にして傷口に押し当てた。


 シルフィアが小さくうめく。

 「っ……!」


 「黙ってろ。すぐに血は止まる」


 数十秒後、彼女の呼吸が落ち着き、頬の血もにじまなくなった。

 シルフィアは呆然と自分の手を見下ろし、それからゆっくり俺を見た。


 「……助けたのね。どうして?」


 俺は短く答えた。

 「借りは作らせてもらう。次はこっちの番だ」


 シルフィアはしばらく黙っていたが、やがて唇の端を上げた。

 「……ふふ。やっぱり合格だわ。あなた、気に入った」


 「合格?」


 「ええ。私の運命は、あなたたちの実力を測ること。」

 


 立ち上がった彼女は、まだ足取りが覚束ないのに、無理やり笑って見せた。

 

シルフィアは無理でも動こうとする。


俺は見かねて。


「少しの間じっとしとかないと駄目だ。それと身体も温めないと」


シルフィアは無言で俯く。俺は彼女をおぶって明里たちがいる小屋を目指した。


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