23話 血で目覚める雷
明里に日課の散歩と言って家から出て来た。本当は、ただ独りになって考え事をしていたかったのだ。
町の通りは、行き交う人々や荷物を運ぶ荷車で賑わっていた。
魔法の光が灯る店先、焼き立てのパンの香ばしい匂い。穏やかで、平和な光景だ。
しかし、ぼくの心は、先ほどの明里との会話で激しく揺さぶられていた。
ぼくの雷は、本当に誰かを救う力だったのか?
あの、カストルとの死闘は、いったい何だったのだろう?
失われた記憶の断片が、まるで砂嵐のように頭の中を駆け巡る。
その中に、ぼくは、かすかに残る温かい光の感触を、必死に探した。
ひび割れた大地、そして、誰かの優しい手。
その記憶が、カストルとどう繋がるのか、ぼくにはまだ分からなかった。
ただ、確かなのは、ぼくの胸の中に、破壊とは別の、もう一つの力が眠っているということ。
ぼくは、町の広場にある大きな噴水の前で立ち止まった。
澄んだ水が、キラキラと輝きながら、静かに流れ落ちている。
その水面を、自分の手でそっと掬い上げた。
手のひらで光る水。
この水は、電気を通さない。
だが、そこに塩を溶かせば、電気を通すようになる。
ぼくの力も、きっと同じだ。
使い方次第で、破壊にも、そして救いにもなり得る。
ぼくは、自分の雷の秘密を知った。
だが、それ以上に、ぼくは、自分の記憶の中にある、もう一つの自分と向き合わなければならないと悟った。
ぽたぽたと、手のひらから水が落ちていく。
その水滴は、地面に小さな波紋を作り、すぐに消えていった。
ぼくは、噴水を見つめながら、静かに決意した。
「必ず、全部思い出す…」
そして、本当の自分を、見つけ出す。
風が、ぼくの頬を優しく撫でていった。
それはまるで、誰かが、ぼくを励ましてくれているようだった。
今日は気分を替えて、山のほうに向かう道を歩いて行った。牧歌的な風景の中、時折、山の尾根から伝わってくる風が心地よい。
山に入って行くと、鬱蒼と木々が生い茂り、光が入ってこず少し肌寒い。
山の奥へ進むと、切り株の近くに透明な物体が横たわっていた。それはまるで水が固まったかのように見えたが、よく見ると人間の目のような器官があった。
ぼくは近くの木を拾って、ゆっくりと押してみる。すると、押した分だけ物体は広がり、やがて元の形に戻った。まるで、ぼくの打撃がまったく効いていないように見える。
「これが明里の言ってたスライムか」
ぼくはなにを思ったのか直接スライムを触ってしまった。その瞬間、記憶が流入するような錯覚を覚えた。 カストルの残像が見えたがすぐ消えてしまった。
瞬間、スライムが喉に張り付いてきた。
ぼくは焦ってスライムを掴んでしまった。
弾力のある感触が手に伝わるが、首が締まる感触がどんどん強くなる。
スライムの体温なのか、冷たいのか熱いのか分からない粘液が、肌を這い、耳の奥まで音がこもる。
世界の音が遠ざかる――。
あたまの中に『ヤバイ』と文字と赤いパトランプが浮かんで来た。
徐々に、首に力が伝わり、息が出来なくなってきた。




