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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第1章 旅立ち

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第21話 雷の律


激しい雨はまだ降り続いていた。雷鳴士カストルを倒し、安堵に包まれたわたしたちは、倒れ伏すカストルの傍らに、雨に濡れた小さな人影が横たわっているのを見つけた。それは、まだ幼い少年のようだった。その身にはわずかな魔力が残っているが、ひどく衰弱しており、意識は完全に失われている。そして何より、その子の目には、雷鳴士カストルのような力は感じられず、記憶の欠片すら宿っていないかのように、虚ろな光を湛えていた。



明里「この子……まさか……」



雨音だけが響く中、わたしたちは新たな謎と、運命の出会いを前に立ち尽くした。


雷鳴は遠ざかったものの、雨は相変わらず激しく降り続いていた。わたしたちは、ずぶ濡れになりながらも、近くにあった朽ちた建物の壁際で雨をしのぎ、倒れている少年の今後について話し合った。



明里「この子、どこかで保護してあげないと……このままじゃ危険すぎるわ。」



(レン)「ったく、また厄介なモン拾ってきやがって!見ただろ、あいつの雷。半端じゃねえんだぞ?拾ったところで、またとんでもねえ化け物になるかもしれねえだろ!」



(レン)は警戒心を露わに、少年に敵意の視線を向ける。彼の言うことももっともだ。この子から感じられる微かな魔力は、たしかに雷の属性と呼ぶべきものだった。



明里「でも、記憶がないみたいだし、すごく衰弱してるわ。放っておけないよ!」



わたしたちの口論を聞いていたのか、レックスは腕を組み、静かにコインロールを始めた。カストルを倒してからというもの、レックスは何か深く考えているときにこの癖を出すようになった。彼の指先で古い銀貨がくるくると回る。チャリン、チャリンと、雨音に混じって規則的な金属音が響く。その音は、彼が深く思案している証拠だった。



レックス「……こいつの魔力は、カストルのそれとは少し性質が違う。もっと……純粋な、原始的なものを感じる。だが、その力の大きさは未知数だ。それに、記憶がないというのも厄介だな。」



明里「だからこそ、私たちが力になってあげなくちゃいけないのよ!もし、この子が雷の力を制御できるようになったら、カストルみたいな悲劇は繰り返さないはずだわ。」



(レン)「甘いこと言ってんじゃねえぞ、明里!俺たちゃ旅の途中だ。そんな悠長なことしてる暇はねえんだよ!」



意見は真っ向から対立した。(レン)は現実的で、新たなリスクを負うことに強く反対している。レックスはどちらかといえば中立だが、その表情は険しかった。



わたしたちが激しく言い争っている最中、静かに横たわっていた少年が、わずかに身じろぎした。そして、何も言わずに、ゆっくりと立ち上がると、そのままわたしたちから離れるように、闇の中へと歩き出そうとした。まるで、これ以上わたしたちに迷惑をかけまいとするかのように。



明里「待って!どこに行くの!?」



わたしが慌てて声をかけるも、少年は振り返らず、一歩、また一歩と、雨の森の奥へと足を進めていく。


その時だった。

ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!

深い森の奥から、大地を揺るがすような、おぞましい咆哮が響き渡った。雨音がその声にかき消され、空気がビリビリと震える。



雷がまた一つ、夜空を裂いた。その光の中に、わたしたちの目に映ったのは、巨大な影だった。

それは、禍々しい雷の魔力を纏った雷獣らいじゅうだった。体毛は電気を帯び、鋭い牙と爪を持つ、狼に似た巨大な獣。雨で濡れた体は、雷光を反射して青白く輝き、目がギラギラと不気味に光る。

 


雷獣は、わたしたちに向かって、地を這うような低い唸り声を上げながら、ゆっくりと近づいてきた。雷の属性を持つモンスターだ。この雨の中では、その力はさらに増しているに違いない。



(レン)「くそっ、厄介な奴が来たな!あれは…雷獣か!この雨じゃ分が悪すぎる!」



(レン)は短剣を構え、警戒する。レックスもまた、静かに構えを取り、雷獣を睨みつけていた。明里は、再び科学の知識を総動員して、この強敵にどう立ち向かうべきか、必死に思考を巡らせる。

しかし、その雷獣が真っ直ぐに向かっていったのは、わたしたちではなく――

数歩先にいた、あの記憶を失った少年だった。



雷獣は、少年を獲物と見定めたかのように、低い姿勢で突進してきた。少年は、まだ意識がはっきりしないのか、その場に立ち尽くしたまま動かない。



明里「危ない!逃げて!!」



(レン)「おい、あいつ食われるぞ!」



わたしたちの叫びも虚しく、雷獣の鋭い爪が、少年に迫る。その瞬間、雷獣の体から放たれた強烈な電撃が、少年を直撃した。

しかし、少年の体は、その電撃を弾くどころか、まるで水を吸い込むかのように、雷光をその身に吸収し始めたのだ。




少年の体が青白い光を放ち始める。雷獣の電撃が、まるで栄養のようにその身に流れ込み、少年の表情には、衰弱していたはずの生命力が満ちていく。虚ろだった瞳に、微かな光が宿り始めた。



雷獣は、自らの電撃が効かないばかりか、吸収されていることに戸惑った様子で、再び電撃を放つが、結果は同じだった。少年の体は、際限なく雷の力を吸い上げていく。



明里「まさか……この子、雷の魔力を……吸収してる!?」



わたしは驚愕に目を見開いた。レックスの「地の属性」による「接地アース」とは違う。この子は、まるで雷そのものを受け止める器のように、その力を自らの内に取り込んでいる。



雷獣が混乱する隙を見逃さず、少年の全身から、吸収した雷のエネルギーが逆流するように溢れ出した。



雷獣「グギィイイイイ!!!」



雷獣は断末魔の叫びを上げ、その体毛が逆立ち、内部から激しく発光し始める。刹那、巨大な雷獣の体が、まるで風船が破裂するように「ドォォン!!」と音を立てて爆発した。四散した肉片と、雷の残滓が雨の中に消えていく。



少年は、雷獣を倒した後も、しばらく青白い光を纏ったまま、静かに立ち尽くしていた。その姿は、まるで嵐の核のようだった。



(レン)「なんだよ、あれ……!あいつ、雷獣を…食っちまったのか!?」



(レン)は呆然とした顔で呟く。レックスはコインロールを止め、じっと少年を見つめていた。その表情は、先ほどまでの警戒とは違う、何かを探るような視線だ。



明里(この子……雷の属性を持つ人間?それとも、雷そのもの……? 雷を操るだけじゃない、雷を吸収し、利用する……。カストルの力とは次元が違う……)



明里は、雷獣の消滅地点から少年へと意識を移す。確かにその子からは、雷の魔力が依然として感じられるが、先ほどのような暴力的で破壊的な気配は薄れ、どこか穏やかな、しかし圧倒的な「本質」のようなものが漂っていた。

少年はゆっくりと振り向いた。虚ろだった瞳は、わずかながら好奇心と、かすかな知性を宿しているように見えた。



明里「……ねえ、(レン)。レックス。」



わたしは二人に呼びかけた。わたしの声は、雨音の中に吸い込まれることなく、はっきりと響いた。 


明里「この子を、わたしたちの仲間にしましょう。」



(レン)「はあ!?何を言ってやがる!?」



(レン)は驚きと戸惑いを隠せない。しかし、わたしは(レン)の言葉を遮り、決意を込めた瞳で彼らを真っ直ぐに見つめた。


明里「この子を理解して、正しい道に導くには、私たちしかいないわ。それに、この子には、カストルとは違う、もっと大きな可能性がある……。私たちが、その可能性を引き出すのよ。」



レックスは、しばらく何も言わずにわたしの顔を見ていたが、やがてコインロールを再開した。チャリン、チャリンという音が数回響いた後、彼の手の中でコインがピタリと止まる。



レックス「……そうだな。面白い。こいつが、俺たちにとって『雷の律』となるか、『知の剣』となるか……。見てやるのも悪くねえ。」



レックスの言葉に、(レン)はまだ納得しきれない顔をしていたが、最終的にはため息をついて肩をすくめた。



(レン)「ったく、明里が決めたなら仕方ねえな……。ただし、なんか変なことしやがったら、真っ先に俺がぶっ飛ばしてやるからな!」



明里は、(レン)とレックスの承諾を得て、そっと少年に歩み寄った。少年は、警戒する様子もなく、ただじっと明里を見つめ返している。



明里「大丈夫だよ。私たちが、あなたを助けるから。」



明里は、目の前の少年の無垢な瞳を見つめ、彼に呼びかける名前がないことに気づいた。地球の神話が、ふと頭をよぎる。雷鳴士カストルと対になる双子の神――ポルックス。雷を操るカストルと、雷を吸収するこの子。まるで二つの側面を持つ雷のようだと、明里は直感した。



明里「あなたに、名前をあげるわ。……ポルックス。今日から、それがあなたの名前よ。」



少年は、その新しい響きを確かめるように、小さく口を動かした。「ポルックス……」彼の顔に、初めて微かな感情の兆しが浮かんだように見えた。それは、新しい始まりの光であり、同時に、明里が知らぬ未来の悲劇を孕んだ、静かな予兆だった。

わたしたちの旅は、嵐の中で、新たな局面へと突入するのだった。




一部完


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