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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第1章 旅立ち

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第17話 テラ・ヒュドラの真実、そして科学と炎の反撃

サッガサッガサッ

草むらの隙間から妙に長い滑らかに動く物体が姿を現した。それは、漆黒の体を持つ巨大な蛇のような生物だった。頭部は槍のように尖り、獲物を突き刺すために特化した形をしている。全身を覆う鱗はまるでガラス質のように鈍く光り、その異様な光景に、明里は息をのんだ。





「ヒィッ…!」




(レン)が情けない声を漏らす。その巨体は、倒木や岩をものともせず、滑るように突き進んでくる。地面に転がる倒木を支点にするかのように、その長い体がねじれ、まるで巨大なバネのようにしなった。


狙われたのは、先ほど投げ飛ばされたレックスだ。テラ・ヒュドラは、勢いを加速させ、レックスの巨体を再び容赦なく叩きつけた! 鈍い衝撃音と共に、レックスの体が重力に逆らうように空高く舞い上がり、生い茂る雑草のさらに奥深くに投げ出された。



「レックス!」




明里が叫ぶ。ワームは獲物を追うように、投げ出されたレックスの方向へ、ずるずると体を滑らせていく。その動きは異常に速く、一瞬でレックスの姿は雑草の影へと消えた。


しかし、その場に残された明里と(レン)にとって、安堵する暇はなかった。テラ・ヒュドラの動きが止まったかと思うと、その巨大な頭部が、ゆっくりと、しかし確実に、わたしたちの方へと向き直ったのだ。草むらの奥から、二つの禍々しい赤い光が、暗がりに妖しく瞬いている。



「マズイ…!」




(レン)が青ざめた顔で呟いた。明里は、目の前の絶望的な状況に、思わず背筋が凍りつく。しかし、その刹那、彼女の頭脳は、この未曽有の危機をどう乗り越えるべきか、高速で回転し始めていた。

その時だった。(レン)が震える足を踏み出し、明里の前に立つ。



「明里、離れてろ!」




そう叫ぶと、(レン)の拳に燃え盛る炎が宿った。彼は、まるで火の玉のように回転し始めた。テラ・ヒュドラの周囲を、まるで舞うように駆け巡り、その足跡から燃え盛る炎の軌跡を残していく。それは、砂漠で明里が見せた炎の円陣――バンドウイルカ戦法だった。



瞬く間に、巨大なテラ・ヒュドラの周囲に、高さ数メートルの炎の壁が渦を巻きながら立ち上がった。熱波が周囲の草木を焦がし、あたりには硫黄のような匂いが立ち込める。テラ・ヒュドラは突然の炎の壁に驚き、身をよじらせた。その巨大な体で炎の壁を突き破ろうとするが、炎はまるで生きているかのようにワームの動きに合わせて燃え盛り、進路を阻む。ガラス質の鱗が熱に照らされ、不気味な光を放っていた。



(レン)!…まさか、こんな場所でそれを!」



明里は驚きと同時に、(レン)が作った炎の円陣という状況をどう利用すべきか、再び思考を巡らせ始めた。テラ・ヒュドラは炎の中で身悶え、激しい地響きを立てている。



しかし、炎の円陣を囲む草むらには、所々に**倒木や巨大な石が転がっていた。それらが炎の壁を不完全なものにしていたことに、(レン)は気づいていなかった。



次の瞬間、炎の壁の一部が不自然に揺らめいた。(レン)が円陣に集中する中、その隙間から、別の「何か」が、すっと滑り出てきたのだ。

それは、テラ・ヒュドラ本体とは比べ物にならないほど小さいが、それでも人間の体ほどの太さを持つ、無数の節を持つ巨大なムカデのような生物だった。漆黒の体に、おぞましいほど多くの脚が蠢いている。ムカデは、炎の壁の足元にある倒木と石の間のわずかな隙間を、驚くべき速さで這いずり抜けてきた。



「な、なんだアレ!?」



(レン)が動揺する。彼の炎の円陣は、テラ・ヒュドラ本体を拘束するには十分だったが、その脇から現れた異形のムカデまでは想定していなかったのだ。

ムカデは、炎の円陣を抜けた後、まるでその中心にいる(レン)を嘲笑うかのように、炎の壁の外縁をぐるりと回り込んだ。



「しまっ…た…!」



(レン)が絶望的な声を漏らした。彼のバンドウイルカ戦法は、この森の障害物を利用され、完全に裏をかかれてしまったのだ。炎の円陣は、ワームを捕らえるための檻ではなく、ムカデを解き放つための抜け穴を作り出してしまった。

明里は、目の前の光景に呆然と立ち尽くした。レックスは投げ飛ばされ、(レン)の頼みの綱だった炎の円陣は、まさかの形で失敗に終わった。炎の向こうで身悶える巨大なワーム。そして、こちらへと蠢くムカデ。

 

「そ、そんな…」



明里の顔から、血の気が引いていく。残されたのは、二つの異形なモンスターと、頼みのレックスが倒れたままの状況。絶体絶命の状況に、彼女の心臓は激しく警鐘を鳴らしていた。

(レン)は、目の前のムカデを睨みつけながらも、まずは主戦力であるワームを倒そうと判断したのか、拳に炎を纏い、巨大なワームの鱗目掛けて渾身の一撃を放った。



炎の塊が、唸りを上げてワームへと飛ぶ。しかし、その瞬間、ムカデが驚くべき敏捷さでワームの前に飛び出した。そして、その漆黒の体で炎の塊を弾き飛ばしたのだ。炎は草むらに散り、ジュッと音を立てて消える。(レン)の攻撃は、ムカデに阻まれ、テラ・ヒュドラには届かない。



「なっ…!?」

 

(レン)が、信じられないものを見るように目を見開く。もう一度、炎の拳を放つが、やはりムカデが素早くワームの体を覆い、その攻撃を全て受け止めては、巧妙に逸らしていく。まるで、テラ・ヒュドラを守る盾のようだった。

その光景を見た明里の脳裏に、ある仮説が閃いた。 


(まさか、あのムカデが…宿主…!?)



明里は、(レン)がワームを攻撃するたびに、ムカデがその前に飛び出して庇う様子を冷静に観察した。(レン)はただテラ・ヒュドラを倒そうと必死に攻撃を続けているが、その度にムカデが身を挺してテラ・ヒュドラを守る。その動きはあまりに的確で、まるでテラ・ヒュドラの「意思」そのものがムカデにあるかのようだった。

(レン)が放つ次の一撃も、やはりムカデに阻まれる。その確信めいた動きに、明里の仮説は一気に確信へと変わっていった。

(やはり…! 宿主は、あのムカデ…! テラ・ヒュドラは…テラ・ヒュドラは寄生虫で司令塔…!?)



「まさか…テラ・ヒュドラが寄生虫!? じゃあ、ムカデが宿主ってこと…!

それなら…宿主を倒せば、あいつも動けなくなる…!」



絶望的な状況の中、明里の科学的な頭脳は、この生物の真の生態を突き止め、反撃の糸口を見出していた。

その時、草むらの奥から、呻き声が聞こえた。レックスだ。彼は意識を取り戻し、体を起こそうと藻掻いている。



「レックス! 無事なの!?」



明里が叫ぶと、レックスは顔を歪めながらも、何とか上半身を起こした。そして、目の前のテラ・ヒュドラとムカデを見て、苦しげな声で忠告した。



「そ…そいつらは…腹が…腹が弱点だ…!」



「腹…!?」



明里は、テラ・ヒュドラの巨大な体を見て、はっとした。テラ・ヒュドラの腹部には、他のガラス質の鱗とは異なり、わずかに柔らかそうな、光沢の薄い部分があったのだ。ムカデがテラ・ヒュドラの前に飛び出して庇うのは、その腹部を守るため――明里の仮説が、レックスの言葉によって完全に裏付けられた。

(腹が弱点…でも、あんな巨体をどうやって持ち上げて…?)



明里は、すぐに水魔法で強化した水の糸を生成し、ムカデの体に巻き付けた。必死に持ち上げようとするが、ムカデの体は想像以上に重く、あるいはテラ・ヒュドラと繋がっている力が強固なのか、糸はきしみ、今にも切れそうだ。明里の力では、ムカデを宙に引き上げることはできなかった。



「くそっ…!力が足りない!」



明里が焦る中、(レン)が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「明里、俺に案があるぜ!」

 

(レン)は、両の拳に炎を集中させ始めた。その炎はただ熱いだけでなく、まるで空気中の湿気を吸い込むように、周囲の空間から何かを凝縮させているかのようだ。明里の科学的な知識が、その現象の正体に薄々気づき始める。



(レン)…まさか、それを…!?」



(レン)は、凝縮させた炎の塊をテラ・ヒュドラの腹部、つまりムカデがいると確信したその一点に投げつけた。直後、轟音と共にテラ・ヒュドラの腹部で大爆発が巻き起こった! まるで酸素と水素を混ぜたような、圧倒的な爆発力だ。熱波と衝撃波が周囲の草木を吹き飛ばし、テラ・ヒュドラの巨大な体は炎と土煙に包まれた。

 

「うおおおおおおおお!」



その爆発の中から、(レン)が猛然と飛び出した。爆炎を纏った刀を低く構え、テラ・ヒュドラの無防備になった腹部へと一直線に突き進む。テラ・ヒュドラは爆発の衝撃でのたうち回り、ムカデも混乱してテラ・ヒュドラの体を完全に庇いきれていない。

(レン)は、迷わず刀をテラ・ヒュドラの腹部の柔らかい部分に深く突き刺した。そして、そのまま刀身に炎の魔力を叩き込む。炎の激流がワームの体内で暴れ回り、内部から焼き尽くしていく。



「グギャアアアアアアアアァァァァッ!!」




テラ・ヒュドラは、断末魔の叫びを上げ、痙攣するように体をくねらせた。その巨大な体は、激しい炎に包まれながら、やがて動きを止める。テラ・ヒュドラの体は動かなくなり、その中にいたムカデの活動も停止したようだった。

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