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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第1章 旅立ち

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第12話 メイド喫茶の科学厨房

 

 この異世界に来てだいぶ経つけど、手持ちのゼニーが全く貯まらない。日々の宿泊費や食事代、いつかのための武器防具代を考えると溜息しか出ない。はぁ、何より、(レン)の底なしの爆食が家計に響くのだ。


 明里「あんた、本当に食いすぎなのよ! 私たちの財布が空っぽになるわ!」


 (レン)「はぁ? 俺だってちゃんとモンスター倒して、稼いでるだろ。腹減って力出なきゃ、もっと倒せねえじゃねえか。」


 明里「だって、その稼ぎを全部食べ尽くしてるじゃない! このままじゃ、移動も食事もできなくなって、野宿生活よ!」


 (レン)は、そんなわたしの焦りをどこ吹く風で受け流し、のんびりとした口調で提案してきた。


 (レン)「なら、冒険者ギルドで依頼受けて働けばいいじゃないか。俺たち、冒険者だろ?」


 明里「え?……」


 (レン)に聞くと、この世界には冒険者ギルドがあり、様々な依頼で生計を立てているらしい。これまでわたしたちは旅ばかりで、まともに「仕事」をしていなかったのだ。


 早速ギルドに寄ったが、掲示板の依頼にわたしは現実を突きつけられた。見習いランクのわたしたちには、高収入の危険な依頼は受けられない。

 どれもランク制限に引っかかり、見習いのわたしたちには無理だった。これではいつまで経ってもゼニーは貯まらない。


 諦めかけたその時、掲示板の片隅に、他の依頼とは一線を画す、小さな張り紙を見つけた。


『料理経験者求む』


 わたしの目が、その文字に釘付けになった。


 明里「これだ……! これなら私にもできる! 私が探してた仕事だ。これなら万年幽霊料理部の私もできそうだ。」


 万年幽霊料理部員とはいえ、料理の知識と腕には自信がある。異世界でも自分のスキルを活かせるかもしれない。


 張り紙の住所を控え、早速煉(レン)と向かった。辿り着いたのは、街の一角にある、一見普通のレストランのような建物。しかし、妙に可愛らしい外観で、店の前には可愛らしい制服を着たお姉さんたちが何人か立っていた。


 明里「すいません、ギルドの求人に応募したものですが……ここ、レストランですよね?」


 すると、店のドアが開き、中から人の良さそうなオーナーが出てきた。


 オーナー「あ、いらっしゃい! 求人を見てくれたんだね! 実は最近、この街にメイド喫茶をオープンしたんだけど、料理人が全然いなくて困ってるんだよ! 君たち、料理できるかい?」


 わたしは絶句した。異世界にメイド喫茶があるなんて……! 聞けばゲームユーザーによって店が作られたという。わたしが通っていた学校ではアルバイト厳禁。それがまさか異世界で、しかもメイド喫茶で働くことになろうとは夢にも思わなかった。今更断れない雰囲気だが、メイド服なんて絶対に無理だ……。


 オーナーから説明を受け、わたしはホール係、(レン)はなぜか厨房担当に。ホール係の先輩として、小春という名の明るい笑顔のメイドが紹介された。

 渡されたメイド服に袖を通すと、わたしは不思議な感覚に包まれた。最初は後ろめたい気持ち半分だったが、フリルやエプロンを身につけると、なぜか半分ノリノリな気分になってくる。もう学祭の気分だ。


「ええか?『おかえりなさいませ、ご主人様』は、もっと心を込めて言うんやで。ほんでな、この『萌え萌えキュン』は、こうや!」


 小春は、わたしの隣で、手本を見せるように可愛らしく両手を頬に当て、ウィンクしてみせた。その言葉遣いは、先ほどのオーナーとの会話とは打って変わって、生粋の関西弁だった。


 明里「え、あ、はい…萌え萌えキュンキュン…?」


 ぎこちないながらも小春の指導を受け、わたしは精一杯の笑顔で接客をこなす。


「ほな、(レン)君をご主人様とみなして練習してみようか?ええか?」


(げぇっ、なんで(レン)相手に練習を?)


「お、お、おかえりなさい ませ ご主人様」


 小春は呆れたように「明里、硬ったいわ。もう少しリラックスしいや。ほな、うちがオムライスに魔法かけるからよー見とき」


「ご主人様、オムライスに猫ちゃん書きますね。それとオムライスに魔法かけますから。美味しくなーれ、萌え萌えキュン」


 (レン)(こいつら何してんだ?魔法ってブワッとするもんじゃ?)


 ホールに出ると、小春は一転して「おかえりなさいませ、ご主人様」と流暢な標準語で優雅に客を迎えていた。わたしはそのプロ意識に感心しつつ、オーダーを受けたオムライスを伝えるためバックヤードへ戻ってきた。厨房を覗き込むと、(レン)が他のお客様のオムライスを調理していた。だが、フライパンの火は猛火の域に達し、卵は見るも無残にカチカチに焦げ付いていた。


「あちゃー、またやってるわ、(レン)くん」

 バックヤードに戻ってきた小春が、呆れたように呟いた。


 明里「あんた、なにしてんの!? オムライスはゆるフワトロが基本でしょ!?」


 (レン)は、明里の剣幕に驚きもせず、得意げに答える。


 (レン)「いいんだよ。こんなのブワッと焼けば。」


 わたしは、その言葉に今までの鬱憤と異世界でのストレスが爆発したかのように、口から科学的な持論をズバズバと飛び出した。


 明里「なに言ってるの!? 料理は科学よ! 味加減は匙加減、火加減は繊細な温度管理が命なの! 卵のタンパク質が凝固する温度は決まっているし、茹でるにしても、食材の特性に合わせて色々なやり方があるのよ! 茹ですぎれば栄養素が壊れるし、茹で足りなければ食中毒の危険が……!」


 わたしの勢いに、(レン)は思わず後ずさる。小春も、わたしの剣幕と専門用語の羅列に、口をあんぐり開けていた。


 (レン)「わ、わかったよ……怖いな、おまえ……」


 わたしは、(レン)の「怖いな」という声にハッと我に返った。確かに少し言いすぎたかもしれない。異世界でのストレスや(レン)のマイペースさに溜まっていたものが、つい爆発してしまったようだ。


 明里「ご、ごめんなさい。でも、本当に料理は奥が深いのよ。特にオムライスは、卵のタンパク質が固まる温度を正確にコントロールしないと、あのトロトロの食感は出せないの。火加減は、魔法の出力調整と同じくらい繊細なものなのよ。」


 (レン)はまだ少し引きつった顔で、「ふーん…」と曖昧に頷く。わたしの熱弁は半分も理解できていないようだが、とりあえず言うことを聞く気にはなったらしい。小春は感心したように明里を見ていた。


「へぇ、あんた、料理の腕は確かみたいやな。」


 わたしは気を取り直し、厨房全体を見回した。ゲームユーザーが作っただけあって調理器具は揃っているものの、使いこなされている様子がない。異世界ならではの珍しい食材も、どう扱えばいいのか誰も理解していないようだった。


「よし、(レン)! 今日からこの厨房は、私の実験室よ!」


 わたしは、メイド服のフリルを揺らしながら、まるで白衣を着た科学者のように目を輝かせた。


 (レン)「はあ? 実験室って…」


 小春は、わたしの言葉に目を丸くしていた。「実験室て…なんやそれ…」


 明里「まずは、この魔物の卵ね。」


 わたしは、通常の鶏卵より一回り大きく、少し青みがかった卵を手に取った。「見た目は大差ないけど、きっとタンパク質の構造が違うはず。まずは少量で加熱実験よ。」

 小さなフライパンに卵を割り入れ、(レン)に指示を出した。


 明里「(レン)! 火魔法の出力を、この卵が焦げ付かないギリギリの低温で、かつ一定に保って!」


 (レン)は不満そうな顔をしながらも、言われた通り掌から微量の炎を放つ。その炎は、まるでガスコンロの弱火のように細く、安定してフライパンを温め始めた。

 わたしは卵の様子をじっと観察する。通常の卵ならすぐに固まるはずが、この魔物の卵はなかなか固まらない。しかし、ゆっくり熱が伝わるにつれて、卵白が透明から白濁し、黄身がじんわり色を変えていく。


「なるほど…この卵は、熱伝導率が低いか、凝固点が高いか…あるいは、特殊な結合を持つタンパク質が多いのかもしれないわね。」


 わたしはブツブツと独り言を言いながら、まるで論文でも書くかのように真剣な表情で記録を取り始めた。小春はその様子を興味津々といった顔で見つめていた。


 (レン)「おいおい、そんな真剣な顔で何やってんだよ。早くオムライス作ろうぜ。」


 明里「黙って見てなさい! 最高のオムライスを作るには、まず食材の特性を理解することが不可欠なのよ!」


 数度の実験を繰り返し、わたしは魔物の卵の最適な加熱温度と時間を割り出した。次に目を向けたのは、オムライスに使うご飯だった。


 明里「この米、少しパサつきやすいわね。炊き方にも工夫が必要だわ。(レン)、水魔法でこの米の表面を、均一に湿らせてみて。ただし、吸水させすぎないように、ごく微量の霧で!」


 (レン)はまたも「はあ?」という顔をしたが、わたしの有無を言わさない雰囲気に押され、言われた通り水魔法を操る。彼の指先から、まるで加湿器のように微細な水の粒が放出され、米粒一つ一つを優しく包み込んでいく。


 明里「そうよ! その調子! これで米の表面が適度に潤い、炊き上がりがふっくらするはずよ!」


 わたしの指導のもと、(レン)も少しずつ魔法の繊細なコントロールを学び始めた。厨房には、わたしの科学的な指示と、(レン)の戸惑いつつも従う声、食材が調理されていく心地よい音が響き渡る。小春も、わたしの指示と(レン)の魔法が融合していく様子に感嘆の声を上げていた。

 二人の協力によって、メイド喫茶の厨房は少しずつ「科学の実験室」へと変貌を遂げていく。わたしの科学的なアプローチで、誰も扱いきれなかった異世界の食材が最高の料理へと生まれ変わっていくのだ。

 そして、その日の営業が始まった。わたしがホールで「おかえりなさいませ、ご主人様」と笑顔を振りまき、(レン)がわたしの指示通りに調理したオムライスを客に出す。一口食べた客たちはその味に驚き、次々と絶賛の声を上げた。


 客A「なんだこれ!? このオムライス、今まで食べた中で一番美味いぞ!」


 客B「卵がトロットロで、ご飯もふっくらしてる! まるで魔法みたいだ!」


 客C「この店、こんなに美味かったっけ!? 毎日来るしかないな!」


 メイド喫茶はあっという間に満席となり、明里と(レン)は慣れないながらも協力し、次々と料理を提供していく。オーナーも予想外の繁盛ぶりに目を丸くして喜んでいた。


 日が暮れ、営業が終了した。へとへとになりながらも、わたしと(レン)は今日の成功に満足感を覚えていた。

 小春が、笑顔でわたしと(レン)に近づいてきた。


「あんたら、ほんまにすごいで!今日のお客さん、みんな大満足やったわ!これでうちの店も安泰や!」


 (レン)「まさか、俺の魔法が料理に役立つとはな。お前も、なんか楽しそうだったじゃねえか。」


 明里「ええ、とても良い実験になったわ。料理も、突き詰めれば科学の奥深さを感じられる最高の研究対象ね。それに、みんなが美味しいって喜んでくれるのは、やっぱり嬉しいわ。」


 メイド喫茶での一日を通して、わたしは科学の新たな応用分野を発見し、(レン)もまた、自分の魔法の新たな可能性を知った。二人の間には、戦闘とは異なる形での確かな信頼と絆が育まれていた。

 報酬を受け取り、メイド喫茶を後にする二人。わたしの科学料理のスキルが今後の旅で思わぬ形で役立つ可能性を秘め、彼らの異世界での冒険は続いていく。



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