第10話 静寂の砂漠と科学の閃き
リザードマン旅団長レックスの奇策によって、ワームの一匹は盾に絡め取られ、遠くへ運ばれていった。
しかし、残りのワームがわたしたちの方へと向きを変えようとしている。広大な砂漠の真ん中に、私たち二人は取り残された。先ほどまでリザードマンたちの怒号と馬の蹄の音が響いていたが、今はもう誰もいない。散り散りになった兵士たちの姿は、砂丘の彼方に消え、旅団長レックスも遠くへと去ってしまった。
周囲に広がるのは、ただ果てしない砂の海と、灼熱の太陽が照りつける静寂だけだった。その静寂が、かえって耳鳴りのように痛く感じられる。
わたしは、隣に立つ煉を見た。彼の額からは、冷たい汗が止めどなく流れ落ち、顎を伝って、ポタリと砂の上に一滴、落ちた。
その瞬間だった。
ドゴォッ!
汗が落ちたあたりから、砂が大きく盛り上がり、巨大なワームが猛然と煉に向かって近づいてきた!(汗の匂い? いや、それだけじゃない。このわずかな振動に反応したのか。でも、正確な位置は掴めていない。奴らは振動には極めて敏感だけど、嗅覚は鈍いのかもしれない。そうだ、あの時のワームも、振動にはすぐに反応したけれど……)
煉は反射的に足を上げようとしたが、わたしは素早く彼の袖を引っ張り、その動きを寸前で引き止めた。煉の足が、ゆっくり再び砂から離れた。
ワームは、汗が落ちた場所に出てくると、その巨大な頭部を左右に振り、まるで何かを探るかのように砂の表面を嗅いでいる。しかし、獲物の正確な位置を特定できないのか、出てきてもすぐに襲いかかってはこない。
わたしは、恐怖で強張っている煉の顔をじっと見つめ、アイコンタクトで『ゆっくり、落ち着いて』と静かに促した。煉は、わたしの視線を受け、ゆっくりと深呼吸をする。
ワームは、しばらく砂の上を探っていたが、獲物がいないと判断したのか、やがて不満そうに頭部を砂の中に引っ込め、ゆっくりと離れていった。
再び、静寂が戻る。しかし、わたしの顔には、恐怖の色はなかった。むしろ、何かを閃いたかのような、確信に満ちた表情をしていた。わたしは煉に小さく頷き、アイコンタクトで『任せて、策がある』と合図を送った。
わたしは懐から小型の装置を取り出した。それは、以前の冒険で手に入れた、伸縮自在の「マジックハンド」だ。しかし、このマジックハンドは、特殊な魔力回路が組み込まれており、残された使用回数は「残り一回」だった。
わたしは、そのマジックハンドをまるで釣り竿のように構え、狙いを定めた。そして一気に腕を振り抜き、マジックハンドを砂漠の遥か向こうへと投げ飛ばした!
ヒューーーンッ!
マジックハンドは、空気を裂くような鋭い音を立て、ものすごいスピードで青空の向こうへと飛んでいく。その音を聞きつけたワームが、一匹……いや、二匹! 砂を盛り上げながら、その音を追うように猛スピードでマジックハンドへと向かって行く。
ワームたちがマジックハンドの落下地点に到達し、それが砂に降り立ったか、降り立っていないかの、ほんの一瞬の出来事だった。明里は、まるで熟練の鰹漁師のように、素早く竿を引いた!
ズンッ!
砂に落ちた瞬間、空中に勢いよく引き上げられたマジックハンドの先端に、二匹のワームが、まるで絡みつくように巻き付いていた! ワームたちは空中で身悶え、必死にマジックハンドから逃れようともがく。
明里『今よ、煉! 火魔法を撃って!』
わたしは心の中で叫んだ。煉は、わたしの指示と、空中で身悶えるワームの姿を見て、一瞬の躊躇もなく、最大出力の炎魔法を放った。
ゴオオオオオオオッ!
煉の放った炎は、空中で絡みつく二匹のワームを瞬く間に包み込んだ。ワームたちは、熱さに耐えきれず、見る見るうちに火達磨となり、ゴウゴウと炎を上げ、やがて力尽きて砂漠へと落下していった。




