第二十一話 少し前、親父に問い詰められてました
「ヴェルト」
「はい」
「お前が彼女を召喚したんだな?」
「何のことでしょう?」
時は少しだけ、遡る。王子からの花があんなふうにアレンジされていると知る前。
僕は親父に呼ばれて、マドカのことで問い詰められていた。
処刑されたベルアを蘇らせたことは、親父にだけは伝えていなかったのだ。
「どうせお前が闇魔法なんかで聖女を召喚したんだろ」
「違いますよ。俺がわざわざそんなことするとお思いで?」
言ってることは近いけど、まだ真実には遠いんだよな。俺は召喚したんじゃない、蘇らせたわけだから。
「・・・・妻の次に、ベルア嬢のことを心配していたお前のことだ。世界ごと変えようとしてるんじゃないかと思ったまでだ」
心配、ねえ。違うよ、親父。俺は心配してたんじゃない。守りたかったんだ、頼まれたから。
「今、お前の魔術は、我が家の者以外知られていない。だからといって気を抜くな。お前の番もないとはいえないことを、肝の銘じておけ」
「・・・・分かってます」
そう答えると、親父は不満そうな顔をした。
わかってるよ。痛いほど分かってるよ。・・・・母さんが、苦しんでたから。
母さんは、俺の事で苦しんでいた。そして、『月光姫』の事件が大々的に公になった時、母さんはとうとう壊れた。
俺を部屋から出さなくなった。反抗する度、『普通に生きなさい』と泣きながら言われた。そして、ある日俺を呼んで、話してくれた。
妹の事、俺の事、それからベルアのこと。全部全部自分には守れないのだと、苦しそうに泣いていた。俺はその時初めて、母さんの過去の話を聞いた。
『・・・・大好きな息子の貴方にお願いがあるの。貴方はベルアちゃんの味方でいてあげて。それと、何があっても自分の身は自分で守りなさい。力がバレて死ぬことだけは、あってはなりませんよ』
その言葉の意味を深く考えることもなく、俺は母さんと約束をした。
そしてそれから一週間後、母さんは死んだ。死因は、精神的ショック死。
最後の最後まで、母さんは自分の家族のことを考えていた。大切にしていた。そのことを、よくわかった瞬間だった。
「それで、マドカさんのこと、どうするんだ?」
「どうって聞かれましても」
「言い方を変えようか。王子との婚約、お前は認めるつもりなのか」
・・・・認めるわけ、ないだろ。
認めたところで、蘇らせた人間のマドカがそんなに長く生きれるはずもない。聖女が短命という話はよく聞くことだが、そうは言っても本来ならば死者であるマドカを他の家に行かせる訳にはいかない。
・・・・それに、あんな結婚なんて、嫌だろう。愛のありすぎる結婚も、マドカは嫌だろうが。
「俺は認めない。王子が本気で惚れていて、マドカもそれを望むなら別だが、今の段階では認めることは出来ない」
「・・・・そうか、良かった」
親父は、安心したかのように、少し笑った。
それが俺には凄く怖く思えた。
『あんな花束、毎日貰っても飽きるわよ』
そう平然と言い放った彼女の様子が、数時間経った今でも忘れられない。あれほど腹を抱えて笑ったのはいつぶりだろう。生まれて初めてかもしれない。
・・・・俺のわがまま、なのかもな。
そんなふうに思いながら、俺は手紙を書く。この手紙が届いた先の未来で、彼女はどんな表情を見せるだろう。
彼女のことを考えながら、マドカの婚約者候補に手紙を書く俺だった。




