第一話 よくわからない状況です
熱い、痛い、苦しい・・・・。
誰か、助けて・・・・・。
「ヨセラクオ・シレナニクラ・エ・キハミタイ!」
声が聞こえたその瞬間、私の体はとても楽になった。
「良かった、成功した」
目を開けると、底には黒いマントのようなものを身にまとった男がいた。
「今までお力になれず、申し訳ございませんでした」
私はこの人のことを知らない。今まで私の力になれなかったってことは、私のことを知っている人なんじゃないかって思ったけど・・・・。
「・・・・情報が処理しきれていないのも仕方ない、か。ベルア様、わかりますか?」
ベルア、様?
私はそんな名前じゃない。私にはちゃんと、まどかって名前がある。
「ベルア様、申し訳ございませんが、こちらのお洋服に着替えてもらってもよろしいですか?」
き、着替えるってことよね?
「わ、わかった」
正直、私も早く着替えたかった。
今の洋服が気持ち悪いのだ。肌触りがとことん悪い。悪すぎる。
外国の通販サイトの服ですら、こんな質の物はなかったのに。
「私は隣の部屋におります。着替えが終わり次第、声をかけてください」
そう言って、その男の人は私に洋服を持たせ、部屋から出ていった。
「なにこの手触り!今の服とは大違い!こんなの、パーティーとかで着るドレスの生地よりいい!絶対に高いわ!」
受け取った洋服の生地に感動してしまった私は、ブランドが知りたくなり、洋服のタグを見た。
『マシュ・メール』
「え〜、これが本物の『マシュ・メール』!着てみたかった洋服をやっと着れるなんて!どこで売ってるのかしら!さっきの男の人は知ってる・・・・・」
あれ?
私、必死に探したはず。同じ作品のファンと一緒に、ひたすら探しまくった。
それでも、小説の中で主人公が大切に着ていた洋服のブランド、『マシュ・メール』は、存在していなかった。
どうして私は今、『マシュ・メール』の洋服を手に持っているの?
「・・・・考えても、仕方ない。早く着替えて、あの人に聞けばいい」
答えのない問を、ぐるぐる考えていることに気がついて、私は動くことにした。
肌触りの悪い、洋服を脱ぐ。
・・・・脱いだ洋服の、背中側は、真っ赤に染まっていた。