心に決めた人がいるから結婚は無理?舐めてます?
なんでも許せる方だけご覧ください。
「すまない、僕は君と婚約も結婚もできない」
「はぁ…」
ならばどんなつもりで見合いの席に来たのか。
「もしよろしければ、理由だけお聞かせ願えます?」
「心に決めた人がいる」
「はぁ…」
心に決めた人がいるから結婚は無理?舐めてます?
「あの、この結婚における双方の利益は把握されてます?」
「君の家は歴史ある我が家との繋がりを持てる。僕の家は君の持参金を目当てにしている」
「そうですね。それでも断るほど、お相手の女性がお好きなんですか?」
「………」
俯く彼。
言いすぎた?
でも、この結婚はお互いの利益になる。
心に決めた人がいる程度の理由で断られたくは…
「女性じゃない」
「え」
「男性、なんだ…だから、だから!」
「ああ、おーけーおーけー、私そういう差別はしないから大丈夫ですよ」
「え」
腐った趣味は持っていないが、差別意識もない。
結婚相手がそういう趣味なら、それはそれでよろしかろうと思う。
「ねえ、貴方様。それならばなおのこと私と結婚した方がマシかと。私、貴方様が男性を囲っても文句も言いませんし誰にも告げ口しません」
「………マジ?」
「マジです」
「女神じゃん!ごめん、俺君のことみくびってたわ!ありがとう!」
「急にフランクになるじゃん…いいけど」
ということで、この軽薄そうで実は愛の重い男…ナゼールと婚約した。
婚約してすぐに、ネイというナゼールの彼氏と会って話し合いをした。
話し合った結果、やはり私…ミストとナゼールは婚約し、ナゼールがネイを囲うこととなった。
その話し合いの席で思ったが…ナゼールは愛が重い。
ネイと両想いなのに間違いはないが、愛の重さが桁違いだ。
ネイが一般的な熱量の愛をナゼールに持ち、ナゼールは重過ぎる熱量の愛をネイに向けていた。
だがネイは孤児院出身の平民らしく、その重い愛が心地いいという。
だからこそ私たちは、お互いに納得のいく契約を結べた。
「じゃあ最終確認。まず、私ミストとナゼールは結婚します」
「そ、それで…僕は、ナゼールの用意してくれる別邸に住む」
「俺はネイを存分に愛して、その上でミストとの間にも子供を作る」
「性液さえくれればなんとでもなるので、自慰でもしてコンドームに出して寄越してくださいな」
自分で言っててもやべぇセリフだなとは思うが、まあ仕方ない。
「ミスト頼りになるぅ!!!」
「でしょう。あとは私が出産したら、生まれた子供の貴方と私との血縁を魔術で調べて正式に跡取りに。養育は私が責任を持ってして、あなた方は関わらなくてよろしい、と」
「めちゃくちゃこっちに都合いい契約だけど大丈夫そ?」
「ナゼールがそんな方なので逆にこの契約結婚の方が気が楽ですわ」
「だよねー!あ・り・が・と♡」
と、話し合いがまとまったところで最後の確認。
「私も好きな人が出来たら囲っていいんですよね?」
「もちろんおっけー!」
「む、むしろその方が僕としては安心…」
「ですよねネイ。すぐ見繕ってきますから安心してくださいね」
「う、うん」
私は決して腐の者ではない。
決して貴腐人ではないが、ヤンデレ×気弱が大好物だ。
目の前の二人を精神的に搾取…もとい創作意欲を高めさせてもらうくらいは許されるだろう。
だが私は決して腐の者ではない。
ただ、この二人の関係性があまりにも理想的過ぎるだけだ。
ということで家に帰ったら、ナゼール×ネイがモデルの…けど見る人が見ても二人のことだとバレない程度に脚色した…小説を書き殴りまくった。
結果、本にして出したら売れに売れて…私のナゼールの家に出す持参金は当初の予定の五倍に増えた。
私の個人的貯金も五倍に増えている。
結果ナゼールは金銭面で、ネイを囲いやすくなったという。
そして私も、まだ見ぬ将来の愛人を囲いやすくなった。
ということで順調に契約結婚は進み、実際結婚して出産するところまで行った。
出産した子は私とナゼールの子で間違いなく、健康な子だったので後継として十分と判断された。
妊娠方法?私がおもちゃで処女を捨てて、コンドームに出された性液を中に塗りたくるというやべぇやり方でちゃんと妊娠しました。
ナゼールの精子が元気で助かった。
さてそんなわけで、私は可愛いたった一人の後継ちゃんを立派に育て上げることが使命となりました。
一方であっちのカップルはこれで憂いなくイチャイチャできるようになりました。
当初の予定通りなので、誰も文句もありません。
…というわけで、私も当初の予定通り愛人を見繕ってこようと思います。
ネイにも安心して欲しいしね。
ネイはいつか私がナゼールを好きになるのではないかと不安がっているから。
ナゼール、好みじゃないから大丈夫なのに。
どっちかと言えば、ネイの方が好みだ。
ということでいざ愛人探しに。
理想の愛人を探しているが、一向に見つからないまま二十年が経った。
可愛い可愛いたった一人の我が子もナゼールから家を継いで、婚約者と結婚して、孫もいる。
ナゼールも隠居してからますますネイを愛し、ネイもそんなナゼールからの重い愛に安心して身を任せている。
いつのまにかネイは、私にナゼールを取られるのではないかと心配することがなくなった。
よかった、ようやく本当の意味で愛し合えたんだね。
私は私で理想の愛人を見つけられてはいないものの、ナゼールとネイをモデルにした小説を相変わらず書き殴りまくっていて生活は充実している。
創作意欲が湧きに湧いて仕方がない、楽しい。
そしてその本は売れに売れて、結果的に私個人の貯金は爆増して、実家とナゼールの家にも援助、ネイ様にも個人的にお礼の気持ちで名乗りはせず援助、ナゼールの治める領内…今は我が子の治める領内の孤児院や養老院にも寄付。
そしてここが重要、私は私の美貌を保つためのエステや化粧水やらなんやかやにもたくさんのお金を出した。
結果今年四十歳になった私だけど、自分で言うのもなんだが美魔女になった!!!
今は人生百年時代、その中で四十代の美魔女というのは、貴婦人の間でもっとも輝く。
美魔女の秘訣の本を出したらそれも飛ぶように売れた。
なのでその印税は私の理想の愛人探しに使わせてもらおう。
と、思ったのだが。
「美少女が、雪の降る中で倒れている…」
これはこれで絵になるなと心の中のアルバムに素早く念写して、少女を助け起こす。
どうやらお腹が減ったらしい。
しばらくの間、飲まず食わずでここまで歩いてきたそうだ。
…どこから、とかの問題はあとで聞こう。
「とりあえず、うちの屋敷においで。温かくして、美味しいものを食べよう?」
美少女、確保。
美少女の名前はゼリー。
エルフの女の子、美少女、エルフ狩りから逃げてきたらしい。
最近エルフ狩りが横行してるからなぁ。
美人ばかりだから奴隷に欲しい気持ちは正直わかるが、節操がないのはどうかと思う。
ゼリーはエルフ狩りで親も失い、行く当てもないらしい。
ならばと私が保護を申し出た。
俺の妻は、俺の最大の理解者だ。
俺が恋人を想う気持ちを理解し尊重した上で、契約結婚してくれた。
そんな妻が、最近エルフの美少女を囲い始めた。
いや、めでたい。
恋人をいつになったら作るのかと余計な心配をしていたが、妻にも良い人ができて良かった。
僕の恋人の妻は、優しい人です。
素敵な人で、優しくて、お金持ちで、僕から恋人を取り上げたりしない。
むしろ僕たちが長く愛し合えるよう環境を整えてくれた。
恋人とその妻の子供も、僕の存在を黙認してくれている。
恋人の妻…ミスト様の口添えのおかげ。
おまけに名乗りもせずに、僕にお金を援助してくださった。
僕の出身の孤児院にも寄付をしてくださった。
そんな彼女が、最近エルフの美少女を囲い始めた。
よかった、彼女にも良い人が出来て。
ご主人様は、優しい人です。
私を助けてくれました。
私を保護してくれました。
でもお礼に身体を差し出そうとしたら、そんなことしなくていいと断られてしまいました。
私はご主人様とそういうことがしたいのに。
寂しいです。
でもご主人様は、デートにも連れて行ってくれるし贈り物もくれます。
ご主人様の夫とその恋人も、私を気遣ってくれる良い人ばかりです。
ご主人様とその夫の間にできたというお子さんも、もう大人で侯爵様で、優しい方です。
「母上にもやっと良い人ができた…」
と仰ってくれました。
ご主人様にとって良い人であれるよう、頑張ります!
なんか、ゼリーを保護してから周りの目線が生ぬるい。
違うんだよ、そういうつもりで保護したんじゃないんだよ…とはいえ。
ゼリーもその気になってるし、なにより私自身満更でもない。
これはもう、覚悟を決めるべきか。
「ゼリー」
「はい、ご主人様」
「私と付き合ってくれる?」
私がそう言ったら、ゼリーはぼろぼろ泣いて頷いた。
「もちろんです、ご主人様!」
夫との間に生まれた子供は妻との相性ばっちりで、私は今夫にもその恋人にも、私の恋人にも、子供にも嫁にも孫にも恵まれている。
幸い私たちの一見するとドロドロの関係は家族以外には露呈していないし、見た目ほどドロドロした関係性でもない。
そして私たちは、みんなそれぞれ愛し合い幸せを勝ち取っている。
だからまあ、こんな関係性も有りだろう。
私はみんなに看取られながら、最後にそう思った。
ご主人様が先に逝ってしまった。
ご主人様の夫よりも、その恋人よりも、私よりも。
誰よりも先に逝ってしまったご主人様。
私はエルフ、いつか寿命の違いから別れが来るのはわかっていたが…三十年しかご主人様と居られなかったのが、私は悲しい。
エルフにとっては三十年など、あっという間に忘れてしまうほどの時間だ。
でも、ご主人様は最後に笑っていた。
「こんな関係性もありだよね」
そう言って、逝ってしまった。
ご主人様の夫とその恋人は、相変わらず。
ご主人様の産んだ彼とその妻、ご主人様の孫たちも、相変わらず。
ご主人様の愛した「家族」を、そのまま残していた。
では、私は?
私はご主人様を失ってしまった。
もう、ご主人様の愛した「家族」を表すことはできない。
だったら。
「一緒に旅に出ましょう、ご主人様」
私はご主人様の家族全員に許可を得て、ご主人様の肖像画を一枚持って旅に出た。
旅の資金は、ご主人様が私に遺してくれた個人的なお金。
世界を、ご主人様と見て回る。
そして、いつか。
ご主人様とまた…冥界でも来世でもなんでもいいから出会えたなら。
今度は肖像画じゃなくて本物と、二人で旅をしたい。
ということで如何でしたでしょうか。
このお話では後書きにはあえて多くは語るまい…でもハッピーエンドにできてよかったです。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
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