ジユウ
自分は不自由だ。核戦争が絶えない世界に生まれ、自分の国も核は落とされてはいないものの、
戦争に参加しており、その影響を受けている。親が愛国主義者のために毎日軍歌を聞かされる。
兵役は嫌だからと親に「賢くなって御国の役に立つんだ!」と思いもしない言葉で説得し、
大学に進学する。兵役や戦争の呪縛から逃れられたと思ったら結局は就職先を弾薬製造会社にしろと大学に指定されてしまう。
朝が来た。いつものように重い足取りで会社へ向かう。会社は好きではない。
何が楽しくて人を殺す手伝いをしないといけない。
今だって、どこのだれかが分からない人を撃つ為の弾丸を開発している。会社の研究室では、たまに怒声とビンタの音が聞こえてくる。
「そこ!しっかり仕事しろ!!!」
時折、監督が怒鳴りつけ、プレッシャーをかけている。そのプレッシャーに耐えつつも、終わりが見えない仕事に嫌気がさしてきていた、その時、
耳を劈くようなサイレンが鳴り始める。国民保護サイレン、核攻撃だ。
会社の上司は「神の加護を得たわが祖国が核なんて落とされるはずがない!訓練だろう!皆は仕事続けるんだ!!!」とあてにならないことを言うが、大半の人々はビルから飛び出していき外に出る。自分もどうしようかと軽いパニックになるが考え直しすぐ外に向かう。
急いで出ると街の人々が軽いパニックに陥っていた。人々は必死にシェルターに駆け込んでいる。
どうするべきかを迷いつつも、身の安全を確保するために近くのシェルターに向かう。入り口に駆け込むと、丁度隔壁が閉じる所だったらしく後ろでは入り切れなった人々の悲鳴が聞こえてきた。
シェルターに入ってから数分後どこからかラジオの放送が聞こえてくる。誰かがスマホで見ているようだ。
それを聞いてみると、地上は焼け野原に、行政も麻痺し、シェルターの配備率の低さから考えるに概算で街の90%以上が死亡したかもしれないと、また降伏の為の準備が進められていると報道されていた。
忌々しい上司や親、さらに言うなら国自体がが死んだ
戦争の呪縛から逃れられる。
そう思い自分は運がいいと。自由になれるんだと喜んだ。でも実際は違った。
そこで運は尽きた。
シェルターで楽に暮らせていたのはシェルターを所有している企業だけだった。
一般人は企業にシェルター維持のためにこき使われる日々。
外は核で焼け落ちているため、逃げることも叶わない。
モノ扱いされるが、それでも働くしかない。備蓄が少ないからと最低限しか食事も食べられず、睡眠時間もほとんどない。
結局自由にはなれなかった。
今日もシェルターの点検だ。5人で軽いチームを作り、一部屋ずつチェックしていく。
軽く壁を叩いて空洞がないか確認していると1つ大きめの空洞を見つけた。
電子機器でどのぐらいの大きさなのか確認したり、聴音機のようなもので地下水が流れていないかの確認をする。すると人声が聞こえた。
「...んで...は...るんですか?」
「最低限の餌を与えて、こき使うのさ。ここは管理に大量に人が必要な割に備蓄が比較的少ないから逃げ込んできたやつを、たまに「ジユウ」という名の追放刑に処して使い潰しつつ外に出られる時まで待つんだよ。」
「なるほど社長は賢いですね。そのおかげで僕たちはその備蓄のほとんどをを食べつつ優雅にくつろぎながら過ごせるわけですか。」
「どうせお国の要望で一般人はある程度入れなきゃいけなかったからな。それなら活用させてもらおうってわけだ。」
まずいな。隠し部屋を見つけてしまったらしい。
「お~い、どうかしたのか?」
一瞬ビクッとする。企業の人間かと思ったらチームの一人だったようだ。
「あ、いやなんでもない。こ、こっちは異常はなかったよ。」
今聞いた内容は言わないでおこう。
今日も今日とてシェルターの維持作業だ。
点検して修理。
点検して点検して修理。
点検して点検して点検して修理。
…?
亀裂を見つけた。地下水が流れ込んでいる。
少し大きい亀裂だが、持ってるもので塞げる大きさだ。
塞ごうと道具を手に取った瞬間、亀裂が一気に部屋全体に広がる。
これは早急に対処しないとかなりまずいかもしれないぞ。
ひとりじゃ対処できない、
いやそれどころか5、6人でも対処できるような規模じゃないぞ。
企業側の人間に報告するか。
「ただでさえ人手が足りないんだ、なんとかしろ。」
無理だった。
近くにいた班員にも手伝ってもらってその部屋を封鎖したりもしたが、地下水は漏れまくってとうとう一帯が水浸しになった。
責任を取らされる。
無理だ。
シェルターの外では生きていけない。逃げる?ここは狭いシェルターの中。1日のうちに見つかるのがオチだ。
無理。
そう考えている内に周りには企業直属の憲兵隊がいた。排水作業が始まり、自分はどこかへ連れてかれた。
「よかったな。ジユウだ。」
皮肉気味に言われる。
プツッ
何かが切れた。
気がつくとシェルターの入り口へ走り出していた。
別に待っていたって結局外に出されるのは変わらない。でも自分で動きたかった。
憲兵隊が鬼のような形相で追いかけてくる。
若干遠回りしつつ逃げながら、シェルターの入口へ向かう。
そろそろ入口だと考えながら角を曲がるとそこには社長がいた。
「おい、おま
殴った。考える前に手が出た。スカッとした気持ちになりつつも我に返り、憲兵隊から逃げる。
とうとう入口に着いた。
開ける。
そこには広い荒野があった。ただ広い。どこまでも広い。自分を遮るものはない
ジユウがあった。
どうしようかと考えつつ、取り敢えず雨風をしのげる建物が残っていないかと探そうと思い至った。
数時間歩いているとまだ原型を留めている建物があった。ここがいいと思い入った。
建物は動物のテリトリーだった。
双頭の変異した犬らしきものが、そこにいた一人の女の子らしきものを無慈悲に襲う。
爪で足を捥ぎ取られ、喰われた。
そいつは美味かったと言わんばかりにおくびした後、建物に入ろうとしていた自分を威嚇してきた。
逃げる、逃げる、逃げる。
外には…
ジユウしかなかった。