砂漠の真ん中で見つけた自動販売機にあったかい缶コーヒーしか売ってなかった
旅人は砂漠をさまよっていた。
たぶんこっちに歩けば町があるはずだ。太陽の方角からすると、こっちのはずだ。
ギラギラと太陽は照りつけ、すべてのものから水分を奪い取っていく。旅人のからだも乾涸びる寸前であった。
そんな時、旅人は見つけた。
「オアシスだ! いや、違う……!」
なぜこんなところにこんなものが?
「自動販売機だ!」
見渡す限り砂漠の、そのど真ん中に、涼しげな青色の自動販売機がブウぅーんと音を立てて、まっすぐに立っていたのである。
ギラつく陽光の下で自動販売機じたいの光は弱々しかったが、旅人には神が差し伸べる救いの手のように、眩しく輝いて見えた。
駆け寄り、焦る手つきで財布を取り出しながら、商品のラインナップを見て、しかしそこで怒りの声を天に向かい、旅人はあげた。
「缶コーヒーばっかりじゃねえか!」
ブラックからミルクのみ、砂糖のみ、全部入り、微糖、眠気の覚めるやつ、七色の綺麗な缶デザインのやつ──色々あるが、すべて缶コーヒーだったのだ。
「しかもあったかいのばっかりかよ!」
旅人は駄々っ子のように、足元の砂を蹴った。
「おいっ! 砂漠で売ってるべきものといえばふつう、水だろ!? 水置いとけ! とんかつ弁当に醤油入れるみたいなことするなよ〜!(泣)」
それでも買うしかなかった。死ぬよりはましだ。財布から130円を取り出し、震える手でそれを硬貨投入口に入れ、旅人は再び絶叫した。
「値段のケタが違ったよ!」
すべての商品が一万三千円だった。いや、高級豆使用を謳ったものには一万八千円のものもあった。
「水なら一万円でも買うよ! でも、今はほっと一息つきたいんじゃないんだよ! 水分だけでいいんだよ!」
財布の中には一万三千円きっかり入っている。
「もう少し歩いたら……また自動販売機があって、水が売っているかもしれない!」
そう期待して、旅人は何も買わずに先へと歩き出した。
ひとつ自動販売機があったのなら、この先にもまたあるかもしれない。そんな奇蹟を信じてしまった。
もしなかったらここへ戻ってくればいいし──
背後で『ガシャコーン!』という音を聞いた。
振り向くと、見知らぬオッサンがそこにいて、缶コーヒーを買ったところだった。
オッサンが購入するなり、ブルブルと震動をはじめ、ジェットを噴射すると、自動販売機はそのまま空の彼方へと飛び去ってしまった。
「こっ、これは俺んだ!」
オッサンは犯罪者を見るように、缶コーヒーを抱いて逃げて行った。