第5話
『おい、小僧』
「……」
『聞いてるのか、小僧』
少年に問うたが、返事はない。
「………」
『気絶したか』
どうやら恐怖が限界に達したらしく、目を開いたまま気絶していた。子供にしてはここまでよく逃げてこれたものだ。
『全く、《《いつの時代》》でも勇者というのはクソしか居ない。それに、また村を壊滅させたのか』
やれやれ、とため息をつく。どうしてこうも勇者というのはクソしかいないのだろう。
そしてただただ私欲を満たすために凶行に走る勇者を崇拝する人間共も、頭がおかしいのではないのか。
『どうして学ばないのだ』
本当に、《《昔から》》全く変わらないものだ。
「………?」
気配探知に何か引っかかった。この感じ、王国軍か。それも30人ほどに包囲されている。
気配は消しているはずだが、なぜバレたのだろう。いくら魔法の勇者とはいえ、魔王の1人である私の気配を察知するのは不可能だ。
『まぁ、いい。雑魚が群がっても雑魚には変わらん』
気絶した小僧を自身の影の中に一時的に避難させる。
その直後、全方向から魔法攻撃。
『随分と舐められたものだ。黒箱。』
攻撃が全て出現した立方体の闇に飲まれていく。
『黒狼。闇大蛇。忌々しい光を喰らい尽くせ』
自身の影から闇で構築された狼と大蛇を大量に放つとあっという間に全ての王国兵が倒れていく。
が。
『………?』
おかしい。確かに殺したはずだが、生きている。正確には、生き返った。
新たな魔法……?いや、違う。これは。
『はっ……!面白い』
我が同胞の挑戦状か。良いだろう、本気で受けてやる。
『魔王唯一の全属性の使い手を、舐めるなよ。天災紅蓮煉獄』
巨大な恒星を上空に創り出す。
そして、その恒星から上級階梯魔術以上の威力を持つ焔の雨を集中的に降らせる。
『生き返るなら、死ぬまで灰にしてくれる』
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「ゆ、勇者様。取り逃した子供は、どこにも見当たりません。森へ出向いた隊の連絡も途絶えました」
「逃げきられたのか?」
「は、はい……」
レオノスはギリギリと歯ぎしりする。そして、報告に来た兵を突き飛ばし声を荒らげた。
「小僧1匹なんで殺せない!!ふざけんのも大概にしろよ、ああ!?」
「も、申し訳ありません」
「それに、あの方の力を分けて頂いているのに、連絡が途絶えるわけないだろうっ!?あの力があればもはや不死身に近いんだぞ!?」
「す、すぐに別部隊を……」
「もういい、俺が行く!」
「で、ですが」
「勇者が出るのに文句あんのか!?」
レオノスは兵を睨みつけると、数十人の兵を連れ、森の中へ入っていった。