第4話
「……ル!…………ベル!……大丈夫か、ベル!」
「………?」
誰かが呼んでいる。うっすらと目を開く。
「ベル!」
「ラリオットさん……」
そこには、僕を抱えて走るラリオットさんがいた。
「レノウスは……?」
「みんな村で戦ってくれている。危ないところだった、もう少しでお前が殺されるところだったんだぞ。みんなで一斉に突っ込んだから何とかなったが……」
「すいません……」
「それと……ロゼは、どうした」
「先に逃がしました。多分、近くの街までいけば、旅人に拾われてると思います」
「………分かった。ならお前も、安全な街まで行くんだ」
「ラリオットさんは…?」
「村に戻って、戦う。私が逃げる訳には行かない」
ラリオットさんは、覚悟を決めた表情をする。
「俺も……行きます」
「ダメだ、お前は逃げるんだ」
静かにそう告げられる。
「僕だって、お世話になった人達がいるんです。その人たちを助けないと……!」
「きついことを言うようだが、お前が行って何になるんだ」
「それでも、返しきれてない恩が……!」
「無駄死にすることが、恩返しになるのか?」
ラリオットさんは僕とは違って冷静な声で返事をする。
「お前は逃げて、そして生き延びることが、せめてもの恩返しになるとは思わないのか」
「それは………!」
「分かったら、行くんだ」
ゆっくりとその場に下ろされる。
「この森を抜ければ、街があるはずだ。そこまで行けば、何かしら助けてもらえる」
「………………わかりました。気をつけてくださいね」
「子供に心配されるほどでもないさ。むしろ、お前はお前自身の心配をするべきだと思うけど」
そう言って、お互い少し微笑む。
「じゃあ、お互い幸運を祈ろう」
「はい」
互いに軽くハグをすると、別れを告げた。
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僕は無我夢中で森の中を走った。
体のあちこちが傷だらけだ。
痛い。息が苦しい。それでも走り続ける。
なんで、なんでみんなが殺されないといけないんだ。
村の人達が沢山死んだ。
昨日まで、あんなに笑顔で話していたのに。
涙が、溢れて止まらない。
多分、ラリオットさんも生きては帰れない。勇者にかなうはずがない。
「っ!!」
あの勇者、狂ってる。ただの殺人快楽狂じゃないか。
あんなの、勇者でもなんでもない。
「あんなやつの……どこが勇者だ!」
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どれくらい走っただろう。
あたりはとっくに暗くなっている。
「はぁ……っ!はぁ……っ!」
逃げきれたとしても、まだ安心はできない。
なぜなら。
グルルルルル……
夜の森は、魔物であふれているからだ。
そこらじゅうから魔物の鳴き声が聞こえてくる。昼の動物たちとはわけが違う。
武器は置いてきてしまった。せめて魔法のひとつでも使えればいいがお金不足のこの村では教師すら雇えないので覚えられるはずもない。
そうこうしているうちに、僕は狼の魔物に目をつけられる。
グルルル……
「っ!」
思わず尻もちをつく。
今度こそ終わった。
僕の人生はここまでなのか。
僕は覚悟してギュッと目を瞑る。
「…………?」
攻撃が、来ない。
不思議に思って目をそっと開く。
すると、目の前にはぐちゃぐちゃになった狼の魔物の死骸が転がっていた。
「え、え?」
わけが分からず混乱する。
どうして死んでるんだ?さっきまで生きていたのに。
『おい、小僧』
混乱していると、頭の上から声が聞こえた。
いや、正確には脳内に直接声が流れ込んできた、と言った方がいいだろうか。
周囲を見回すと、森の奥から《《声の主》》が現れる。
その声の主は……獣の骸骨の頭で、黒いマントに身を包んだ、不気味な雰囲気を持つ人(?)だった。
「……ッ!?」
その人はゆっくりとこちらに近づいてくる。そして、その人が歩いたあとの森は、昨日見たように、綺麗な状態から一変、ボロボロな状態になっていた。
(こいつが歩いていたせいで、森が……おかしくなった……のか?)
その人はゆっくりと僕の前まで歩み寄る。
ズオオオオ……
「っ!?」
ドクン,ドクン,ドクン…
「はっ…はっ……はっ………!」
その人から放たれる不気味な気配。心臓が先程以上に脈打つ。呼吸も荒くなる。動こうにも、動けない。
目の前の人(?)は一体……何者なんだ?