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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
8/50

会談

 俺たちは車に乗せられて、地下にある彼らの基地に連れられた。道中では何回も武装した警備員の検閲があり、行く先の重要さを思い知る。


 ついでに車内で傷ついた場所の応急処置をしてもらった。

 そこのとある部屋で俺は、備え付けられているソファに座らされていた。


「ここは第一部隊の拠点、警察庁異能局の本部だ。ここでしばらく過ごしてくれ」


 井原原とは部屋の前から別れ、現場で二丁拳銃を持っていた男が、俺の向かいにあったソファに座っている。


 部屋には一通りの生活用の家具が揃えてある。さらに様々な娯楽、コーヒーメーカーなども置いてあった。珍しい情報提供者だとはいえ、破格の対応ではないのだろうか。

 もっと悪い待遇になるかと思っていたので驚いていた。


「はい。それで、妹はどうなっていますか?」


 俺とユウナは別々の部屋に移動させられていた。


「別室で休んでもらっている。念のため、部屋を離させてもらう。ま、希望すれば、監視の上だが会えるぜ」


 椿は彼の後ろで俺の様子を伺っていた。嘘はつけない。


「あー、急で悪いんだが、そっちの組織についての話を聞かせて欲しい」


「…分かりました。情報を提供します。ただ、そちらも知っていることが多いと思いますけど」


 ここでは正直に、俺の知り得る様々な組織の情報を話した。俺が話さないことで、妹が拷問されるかもしれないという予感があったからだ。


「コホン。いやさ、妹さんには拷問?とかそういうのしないけど…」 


 俺が情報は渡してひと段落すると、椿が急に拷問することを否定した。俺の感情を察したらしい。


「あぁ、拷問って、そんなことはしねぇよ。そんなブラックじゃねぇよ。オレら」


 目の前の男、二丁拳銃の男の目は肉食獣のような目をしており、この男には勝てないと感じさせる威圧感と恐ろしさがある。

 もしかしたら、この人は親父よりも強いかもしれない。


「公安の奴らはするかもしれねぇがな。異能局全課全部隊はしないと思うぜ」


 男が続ける。俺の知らない情報だ。


「部隊って、チーム組めるくらいの人数は集まっているんですか?」


「いや?何十人もいる訳じゃねえよ。今あるのは三部隊くらいだな。本部の第一、俺ら第二、そして第三、ま、これから増えるかもしれねぇが」


「人数不足ではあるんですね?」


「ああ、足りねえから小さな事件は公安の仕事になってる。俺たちが担当するのは主に大がかりなやつだな。…例えば、組織がらみのやつとか…」


 男はニヤリ、笑いながら言った。また笑われた。最近は笑われてばっかりだ。


「それじゃ、これからはこいつが色々情報を聞くからさ。仲良くしてやってくれ」


 男は後ろにいる椿を親指で指さしてソファを立ち、部屋の出口へ向かって行った。


「情報の聞き取りは任せるぜ」


「分かりました~」


 彼は椿に声をかけてドアノブに手を掛ける。


「あ、聞くことあった」


 ドアを開けた後、こちらに振り返る。


「お前、これから寝返ることもあるか?」


 一日で何度も試されるらしい。ただ呆れはない。未来の信頼への投資だ。

 ただ、信用という言葉がよぎると頭が痛くなる。


「ありません。それほど恥知らずじゃないです」


「そっか。それじゃ、よろしくー」


 それを聞いた男は軽快な声色で部屋を出た。その後、椿が俺の前のソファに座る。


「そういえば、初めて会った時にはあんま喋らなかったよな」


「ま、あの時はあいつが喋りたがってたから」


 軽く話したが、彼女は自然に話してくれた。俺は彼女を無口な人だと思っていたが、勘違いなのかもしれない。


「んで、色々質問させてもらうから、そのつもりで」


「分かってる」


「それと、十分くらい経ったら私たちの隊長が来るから、心の準備くらいしときな」


 彼女はタブレットを見ながらタッチペンを回している。


「それも分かったよ」


「それと、随分落ち着いてないでしょ。私の前じゃ、嘘ついても意味ないし、もうちょっと落ち着いたら?」


 内心は、もう彼女に見透かされている。

 俺は一度深く息を吐きながらソファの背もたれに背中を預けた。


 可能な限り脱力する。


 俺の感情を把握している相手を前に、気を張っているのが馬鹿みたいになってきた。


「それじゃ、一つ目、派閥についての説明をお願い」


 もう一度息を吐いて、彼女に顔を向けて説明を始める。


「派閥のトップは世襲制だってことは知ってるか?」


「知ってる。それで?」


「あるのは高宮(タカミヤ)佐々理(サザリ)押上(オシガミ)宮古(ミヤコ)鴨川(カモガワ)柚季(ユズキ)、そして杜若(カキツバタ)の七つだ」


「高宮は過激でそこからはどんどん穏健になっていくって認識でオーケー?」


「オーケーだ」


「それで、組織内で何か大きな計画とかあった?」


「いや、知らないな。過激派の各家ならあるかもしれないけど」


「ん。じゃあ、穏健派は日頃どんなことしてたの?」


「そっちとの交渉だよ。知ってるだろ。話すのずっと断ってきたから」


 そう言うと彼女はピタリと動きをやめた。


「あー、うん。それはごめん。本当に話している相手が安全かどうか分からなかったから」


「それは建前で、対能力者の諸制度の整備の準備できてない時点で、そもそも話す気もなかったろ」


 国はまだこちらと交渉する準備ができていない。

 話し合いをするためには、互いに意見を持たなければ討論することさえできないからだ。


「待て、そういえば、制度を作るってことは、国はいずれ超能力者を発表するつもりなのか?」


「ビンゴ。ま、法案完成までの道のりはまだまだあるんだけどね。ま、データが足りないってだけだけど。ほら、AIによる予測ってやつ。超能力者の生活における問題はしっかりと把握したいらしい」


 国は思った以上に前へ進んでいない。

 白紙、とは彼女は言っていないし、真っ白な状態ではないのだろうが、国が持っているのは具体性がない草案だろう。


「つまりそれって、情報さえ集まれば明日にでもできるってことか?」


「明日ってわけにはいかないけど、すぐにできるんじゃない?そこは専門家じゃないから分からないけど」


 俺はなんだか飲み込めきれず「そうか…」と漏らして俯いた。

 どこか納得できない。

 その話し合いに俺たちの意見だけでも言わせてもらえないのだろうか。


「…私が謝って何か変わるわけじゃないけど。ごめんなさい」


 俯いていると、彼女は急に俺に謝った。俺の心を読んだということだろう。

 椿クイナは絆されるタイプなのだろうか。それは、彼女の美点ではあるが、敵を前にしたときには不利なものとなる。これは井原原が彼女は喫茶店で話させなかった理由かもしれない。


 まぁ、これが演技だったら、元も子もないが。


「ああ…。別にいいよ。大丈夫」


 やはり、こちらの感情は気になるものらしい。俺は一切取り繕うことなく心から出た言葉を口にした。

 さて、この状況、どこまでカリムの計画の内なのだろう。

 カリムのことだから、どんな道でも意図はありそうだ。父と母が死に俺が裏切ったことで杜若の派閥の発言力は地に落ちた。組織全体の意見が過激寄りに偏ることになる。過激に寄れば裏切り者排除への動きに傾くのではないのだろうか。

 ならば、奴がやりたいことも見当がついてくる。




 奴は俺を殺すつもりだ。




「失礼」


「失礼いたします」


 一人の男と女が部屋に入ってきた。男はスーツにメガネの堅苦しい男とメイド服という時代錯誤な服を着た女性だ。


「君が杜若リツトだな?」


 かなり厳かな雰囲気をした男だった。


「はい。隊長の方ですよね」


「ああ、警察庁異能局特別対策課第二部隊の隊長の内田マモルだ」


「マモル様の専属メイドのハスターと申します」


 メイドの彼女は深々とお辞儀をした。隊長はこちらに握手を求めている。俺はそれにゆっくりと手を差し出して握手をした。


 それを見た椿がソファから退き、彼女が座っていた場所に内田さんが座った。


「解答は椿から確認しよう。で、だ」


 彼は足を組んで俺を鋭い目つきで見ている。俺はまだ信頼されていないのだろう。


「ここに来た目的があるだろう?ここで何をしたい?」


 彼は俺の腹の内に何かあると目論んでいるようだ。


「俺を異能局に入れてください」


「どうして?」


「攻められた時に妹と俺自身を守りたいんです。俺の手で」


 生存のためにできるだけのことをしておきたかった。自分がじっとして守られることは出来なかった。


「どういうことだ?君はリラシオがここは攻める可能性があると言いたいのか?」


「その通りです」


 俺の言葉を聞くと彼は驚いたのか、一度従者に目を向けた。

 彼女は首を振って応える。


「カリムには未来視がある。今まで捕まえた奴らの未来を見て場所を把握している筈です」


「確かに、今まで何人も捕まえてここに収容してきた。奴らの未来を見てここの位置がバレているかもしれない、という件はこちらも承知している。だから、あのレベルの警備網を常に敷いている。そして今日まで攻められることはなかった。どうして、攻められると言えるんだ?」


「大義が二つあるからです。裏切り者の抹殺と敵勢力の拠点の制圧。この二つがあって、さらに穏健な意見を言う派閥が勢力を失えば、こちらを攻めるという選択肢を取りやすくなるのではないのでしょうか」


 彼は表情を一切動かさなかった。


「…そうか。それで、少し話が逸れるが、君は奴の未来視についてどれだけ知っているんだ?」


「詳しくは知りません。未来の可能性を見ているというくらいです」


 ここで提供できる情報をできるだけ言って信頼を掴んでおきたい。今言ったのは、昔親父から聞いたことだ。


「そうか。それでは、別の話だ。リラシオがすぐに攻めてくるということはあり得るか?」


「派閥に大きな大義があるとはいえ、過激よりの派閥の一つが消耗しています。ここを責めるなら、足並みを揃えて全ての派閥の足並みを揃える必要がある」


 俺の意見は否定されなかった。


「その話が正しいなら、意外と君たちの組織はバラバラなのだな」


「人数をかなり揃えないとあなた方と戦えない。各派閥で動いても数の圧力で潰される」


「嘘は?」


 内田さんは椿の方へ確認する。


「ついてないですよー」


「よし、一応報告しよう。あれだけのことがあったんだ。ゆっくり休んでくれ」


「いえ、大丈夫です。…それで、俺は戦えますか?」


 俺の言葉を聞いた彼はこちらに振り向いた。


「…それは、考えておこう。最後に一ついいか?」


「はい?」


「情報提供は非常に感謝するが、余裕を持った方が良い。つまるところ、必死になって喋りすぎだ。あまりしゃべらない方が良いぞ。こういう時は」


「…はい」


 そう言って隊長は外へ行った。


「はは、不器用―」


「そうだな。きつかった…」


 喋りすぎたのは事実だ。椿が真実だと補足しなければ、信用されなかったかもしれない。


「ありがとう。にしても俺に協力的すぎないか?」


 彼女の態度は俺にとって疑問的だった。俺が嘘を地底ないということを補足してくれている。その部分がどうも勘ぐってしまう。


「いや?私はただ嘘吐いたかどうかの事実を伝えただけ。そこに手を貸した感覚はないから」


「そうか」


 まずい。

 彼女が嘘をついているのかそれとも事実を話しているのか、分からなくなってきた。


 もし、善意なら俺はかなり嫌なことを考えてしまったのではないのだろうか。


「あー、そういうこと」


 彼女は突然納得したように言った。どうやら俺の感情を読んだようだ。


「ま、寝て落ち着きな。何かある?頼み事なら聞くけど」


 申し訳ないと思いながらも俺は願望を口にした。


「ユウナと会えるか?」


 今は彼女と会いたかった。


「妹さんね。りょーかい」


 彼女も部屋の外に出たのを確認するとソファに倒れこんだ。


(逃げたくても、逃げられるわけじゃないしな)


 そうだ。俺たちはこの騒動の渦中にある。逃げ出すことなんてできない。


 一連の会話で、なんとか一応の安全を獲得した。しかし、これで終わったわけではない。

 奴は俺が裏切った先のルートを見ているに違いない。あいつは一つ投げた石で鳥を何匹も落とすことができる。奴の最終目的は分からないが、その目的のために俺たちが潰されるなら、それに抗ってやる。許可を取るまでの時間、一旦寝て、体を休めることにした。







「…起きろー。朝じゃないけど」


「あ、えーと今何時?」


「十二時、妹さんが待ってる」


 意識を取り戻すとすぐに立ち上がった。


「許されたのは三十分。大事にしな」


「ありがとう」


 俺は廊下を移動しながら、隣のユウナの部屋に行く途中で椿に尋ねた。


「彼女の様子は?」


「かなり落ち着いてる」


「そうか。良かった」


 案内された部屋へノックして入る。彼女の無事な顔を見ただけで安心できる。


「大丈夫だったか?変なことはされてないよな?」


「うん、全然」


 彼女はいつの間にか寝間着に着替えている。


「え、寝間着とかもくれるのか、ここ」


「まあね。守る対象だし」


 椿は腕を組んで扉に寄りかかりながらこちらに応えた。


「そうか。ありがとう」


 彼女の顔を見たら、言いたいことが消し飛んだ。

 悲しみを吐き出してみたかった。謝ったりもしたかった。彼女を巻き込んでここまで来た。間違っていない選択だと俺も思いたいが、でも辛い思いをさせる選択をしたかもしれない。


 でもそれは、言っちゃいけない。


「あー、メシとかもらったか?」


「うん、おいしかった」


 どうやら何もされていないようだ。ユウナを守る点に関しては彼らを信頼してもいいだろう。


「そういえば、俺のは…?」

「あ、ないよ」

「…まじ?」


 まぁ、冗談だろう。俺が部屋に入った時にカップ麺が積まれているのを見た。


「ここなら安全だと思うから。安心してくれ。今日はもう寝るか?」


「いや、もうちょっと起きてる」


「そっか」


 彼女はベッドに座って携帯を見始めた。所作、外面はいつも通りの彼女だ。何を話せばいいのか分からなくなってきたので、俺も手持無沙汰にしていた。

 少し沈黙を置いて、ユウナが携帯から目を離して口を開いた。


「クイナさん、お父さんはどうなったんですか?」


「運ばれた後、すぐに死亡が確認されたよ。お葬式もお母さんと準備できる」


「そうですか。お願いします」


 問答を終えるとユウナは携帯をまたいじりはじめた。


「…じゃ、俺は部屋に戻るから」


 俺は少ししたら立ち上がって部屋を後にした。


「りょーかい。おやすみ」


 彼女が反応を返したのを確認してから部屋を出る。


「おやすみ」


 俺は与えられた時間よりも早く部屋を出た。


「いいの?もっと話さなくて。時間余ってるけど」


「いやだって何話せばいいのか分かんないじゃん」


 俺は肩をくすめて大げさに言った。


「おお、確かに」


「…ちょっと聞いていいか、椿」


 そして、彼女に聞き出せなかったことを聞く。


「なに?」


「ユウナの感情はどうだった?」


 俺には面と向かってユウナへこの質問をする度胸がなかった。

 この問いをすること自体、褒められることでもない。でも、知りたい事柄だった。

 俺は自分の守るべき相手の心の内を知りたかった。


「落ち込んではいるけど、極限状態とか危険な状態ではないっぽい」


「良かった…」


 俺は自分の部屋に入って電子ポットで湯を沸かす。


「まさか、もよもやしてたのって聞けなかったから?」


「いや違うわ。それはお前の勘違いだ」


 軽く彼女にツッコむ。

 とっさに、見栄を張るためについてしまった嘘ではあるが、彼女はきっとそれを見抜いたうえで何も追及しない。


「そろそろ、お前も帰ったらどうだ?寝不足にはなりたくねえだろ」


「あー」


 椿はそう言って腕時計を見る。


「確かに時間がね。んじゃ、帰ります」


「お疲れ」


 彼女は帰るらしいので、俺は短く感謝と労いの言葉を投げた。


「お疲れ。唯一の出入り口のドア前は監視カメラで監視してるから」


「怪しいことはしないよ。必ず連絡する」


 彼女は部屋から出ると、ついに俺は一人になる。


「ああああああああああああ」


 試しに小さくうめき声を上げてみる。


「はあああああああああああ」


 うめき声は途中でため息へと変わる。


「よし!」


 今、切り替えた。考え事は強引に押し込んだ。


(寝るか…!)


 感情を整理した途端、眠気が襲ってきた。

 俺はその眠気に導かれるままにベッドへ直線移動。そのまま目を閉じた。

いつもより多めでした。

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