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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
7/50

偽りのピースキーパー 序

 すぐに走り出し住宅街に向かう。携帯から幼馴染の二人を呼び出す。後ろの轟音には耳を貸さずに公園から出て、電話の音声に耳を近づける。



…繋がらない。



 理由を考える暇はない。彼らとの連絡は不可能だとひとまず切り替える。

 何処を目指せばいい。カリムさんの拠点なら匿ってもらえるだろうか。


「ど、どこ行くの?」


 ユウナもすでに俺の手を離し、俺と並走しながら心配している。


「そりゃ、カン…」


 ある違和感が生まれた。


 何故、カリムさんはこの未来を忠告しなかったのだろうか。俺たちを守ると約束した彼が、命の危険に晒される未来は避けるはずだ。なのに、彼は何も言わずに拠点へ帰った。それに、裏切るならこのタイミングが絶好だ。


 そんなことを思いついたら。これ以上考える必要もない。理由はどうあれ、彼は俺たちを罠に嵌めた。


「クソ、クソ、なんだよ!」


 まさか、俺たちの味方はいないのかと、希望が無くなっていくのを感じながら、もう一度幼馴染たちに連絡を試みた。



…繋がらない。



 まさか彼らも…。いや、そんなはずはない。

 もしそうなら、彼らは今夜協力せずに俺たちを見殺しにする筈だ。



 どうする。

 ここはどう動けばいい。

 まず安全を確保しなければならない。なら警察が…。

 


 ここで警察に頼るという選択肢はどうだろう。

 すぐに、異能局に頼るということのデメリットが頭によぎる。


(どうすればいい。どうしたらいい?)


 彼らに匿われれば、こちらが裏切り者と見なされる。


 しかし、動かなかったらここで死ぬかもしれない。


 それで良いのか。


 どれが最適解だ。


 どれがベストだ。



 どうしたら、俺たちの命を保障できる。



 もし、組織を裏切ることとなれば、俺たちはリラシオ全体から命を狙われる可能性がある。

 もし、今から釈明の場を求めて戻ろうとも、それを聞く相手ではない。


 街灯がポツポツと道を照らす道路の上で、立ち止まり、絶望した。




「そんなの…ないじゃん」




 今、俺たち杜若家分家は疑惑の目が向けられている。ここで俺が異能局との連絡し、連絡手段を知っていることがバレたら、疑惑が完全に勝る。しかも、カリムが裏で糸を引いているのならば、俺たちは完全に悪役に仕立て上げられてしまう。


──死にたくない。まだ、生きたい。こんな理不尽に殺されたくない。


 ただ手のひらに踊らされただけだ。


──守りたい。そう決意してから、何も守り切れていない。


 何をしてでも生き残りたい。妹を守りたい。それが独善的な醜いエゴだとしても。

 携帯を取り出して電話番号を入れると、奴らとの通話は、すぐに繋がった。


『異能局!どっかで見てるんだろ!』


『ああ見てる。それで?』


 あの井原原の声が返ってきた。


『俺たちを助けろ。代わりにそっちに入ってやる』


『よし、あと少しで着く。待ってろ!』


 そこで電話は切れる。後ろから二人の人間が近づいているのを察知して振り向く。


 そこには、親父を殺した奴らがいるのだから、恐怖と恨みと緊張がごちゃごちゃに混ざって、心臓は踊るように激しく動いていた。


「…どうも」


 後ろにいたユウナを守るために彼女の前に立つ。笑う余裕なんてない。


 そこにいたのはタケルの兄とマイの父、押上家と鴨川家の当主であり幹部である二人だった。実力は俺より格上だ。しかし、タケルの兄は体の至る場所から出血しているし、マイの父は右腕が捻じれている。


 恐らく、傷は親父の最期のあがきを受けたものだろう。


「追われている訳を聞いても良いですか?」


「そんなのお前が一番知っているだろう。杜若家分家出身、裏切り者の杜若リツト」


「クははは!ですよね!」


 見栄を張る。


 戦ったとして、俺は死ぬ。ならば、今すべきことは時間稼ぎだ。


 恐れるな。恐れるにしても顔には出すな。

 少しでも恐れを見せた瞬間、俺は奴らに殺される。


「親父はどうなりましたか?」


「死んだよ。この通り、かなりひどくやられた。覚悟が決まっていた良い人間だったよ」


 マイの父は失った右手を寂しそうにさすりながら答える。


「御託は良い。とっとと殺すぞ。それが規則で、我々の法だ」


「待て、鴨川、私はこの男を見極める必要がある」


 怒り心頭のタケルの兄を、マイの父が言葉で制止する。


「ナニ言ってんだ?規則は絶対だぞ。さっきまではノリノリに殺してたじゃねぇか!」


「それは奴が良い人間だからだ。殺す人間の良し悪しくらい知っておきたいだろう。なに、三秒で終わる」


 彼がそう言うと呆れた風にタケルの兄は引き下がった。


「君は何者だ?三」


 勝手にカウントダウンが始められる。稼げる時間は稼げた。


「二」


 どうせ、どのように答えても攻撃される。


「一」


 ならば好きなように答えよう。


「知らねえよ。それを知るために生き抜くんだよ」


 ネガティブなことは考えるな。押し込めろ。

 今はユウナを守り、二人で生き残るために俺の全てを働かせよう。


「よし!その姿勢素晴らしい!殺す!」


 奴らが来る。


 片方は歓喜しながら血の付いたナイフを取り戦闘態勢に入る。

 俺も戦う姿勢を見せると、後ろから二つの車が到着した。


「異能局だ!」


 ぞろぞろと異能局の面々が現れ、奴らに何十もの銃を構えた。


「よう、幹部の方々!」


 中でも、手錠をしてそこから鎖につながれた銃を二丁持つ男が、前に出る。


「ここで始めるか?本当に?」


 サイレンの音はないがさらに次々と異能局の車が現場に到着する。


「やめておこう」


 幹部二人は背を向けて消えていった。彼らが消えると異能局は向けていた銃を下げる。


 俺は周りに悟られないよう、ゆっくりと心臓の躍動を抑える。深呼吸をしているが、緊張のスイッチは入れたまま。ここからの一挙手一投足に俺と妹の命運がかかっている。


「さて、ちょっと同行してもらえるか?」


 喫茶店で俺と話をした男がこちらに歩いてきた。その手には俺を捕まえる手錠はない。


「親父のところに行っていいか?」


「ああ、いいよ。彼は救急車で搬送するからそれまでね」


 俺とユウナは走って親父が戦った場所へ向かうと、公園の中央で血だらけの親父が横たわれていた。


 すぐに彼の隣に膝をついて意識の有無を確認する。


「リツト、ユウナか…」


 俺たちの気配を感じた親父は、小さな声を滲ませるように発している。


 命の灯が消えようとしていた。


「ああ」

「うん」


 それぞれが彼の声に応える。


「そうか、生き残ったか…」


 後ろから救急車のサイレン音が聞こえる。


「なら、生きろよ」


 音にかき消されそうな僅かな言葉を俺とユウナは見逃さなかった。


「当り前だよ」


 絶対、俺はユウナを守り、生き残ってみせる。思想がどうとか考えられない。


 優先順位でも決めたことだ。


 そうだ。どれだけ信頼を裏切ろうとも、後ろ指を指されようとも……。


「当たり、前、だよ」


 苦しい。今となって意識が圧し掛かる。先程命を懸けて背中を預けて戦った奴らと相対しなければならない。




 大丈夫、大丈夫。

 こっちで合ってるはずだ。



 間違いない。


「大丈夫?」


 隣にいたユウナが俺の顔を覗きながら尋ねた。


 そうだ。もう、やるべきことは決めた。


 今更振り返って後悔して、道を変えられるはずがない。


「ああ、大丈夫」


 俺が立つと救急車にいた方々が親父を救急車へと運んでいく。


「車を用意しているから、こっちまで来てくれるか?」


 公園の入り口にいる井原原が、俺たちに呼びかけた。


「分かった。行こう、ユウナ」

「うん」


 俺たちは車に乗せられて、地下にある彼らの基地に連れられた。

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