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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
6/50

竜王

「そりゃあ、お前らを殺したいほど憎んでいるからだ」


「そうか、残念だな。私は悲しいよ。竜王程の実力者が、判断できないなんて」


「身内殺しといて、判断も糞もあるか」


 奴の母さんを殺したことに対する無関心な態度に、親父は怒りを滲みだしながら返した。


「お前、今までコミュニケーション取ってきたのか?」


「しっかり意見交換はしてきたぞ。殺す前に」


「総員、戦闘態勢!」


 親父が俺たちに号令がかかる。


「殺し殺される、強き弱きは自然の摂理、生命の循環。それは自然であり超然とした現象だ」


「行け!リツト!」

俺は電気を体で強化して走り出した。

攻撃を一番避けられて、一定の攻撃力のある俺が前衛で、マイがそのサポート。親父とタケルが俺をサポートするフォーメーションだ。


『勝利条件は対象の捕縛、もしくは撤退させることだ』


 移動前にカリムさんから聞いた言葉を思い出す。


『異能局が僕たちを補足したことで、人通りを制限するように動く。あまり周りのことは考えなくていいよ。むしろ考えず殺す気で戦った方が良い。相手は幹部級だ』


 俺は目の前の宿敵を下すために殺意を飛ばす。

 マイとタケルは各々で能力を飛ばし、出てくる木の根は親父が捻じり、電気で俺が奴の動きを止める。


 タケルの能力は奴と相性はいいが、一部の木の根は焼き尽くされる前に俺へ届く。それを親父が捻じる。俺は中距離で電気を浴びせ続け、マイは俺かタケルが抜けた部分をカバーする。


 最大出力の電気を浴びせ続けられれば、動きは止めることは出来る。


 電気の槍も、電気の枝も、電気の刀も、顕現させたものを全て打ち出し攻撃だけに使う。

 幹部はこれだけ不利な環境で戦っているのに、ほんの僅かな隙しか見せない。これまでに何度も電撃を浴びせているのに、動きが少しだけ鈍った程度だ。


 それでも、敵の攻撃を憶測で見切り、死に物狂いで死線をくぐって電撃を流し続ける。

 何かの拍子にこちらが隙を見せると、味方は崩壊する。そう予感した直後だった。



 親父の動きが鈍った。


 

 捻じる位置がずれて俺の脇腹に根が掠っている。俺たちの中で一番戦闘経験が豊富で一番強い親父が、一番に消耗して崩れる訳がない。



 ならば結論は早い。戦闘以外の点で意識を削がれた。



 それを満たす要因は一つしかない。



(おい…まさか)



 止まった足にすかさず根が絡まった。そのまま遠くにある壁に投げつけられる。

 背中の激痛を耐えながら全体を見回す。このままでは押し返される。すぐに戦線を戻さなければ押し負けてしまう。しかし、立ち上がろうとしても、体が壁から離れない。


 壁から生やされた奴の植物が俺を縛っていた。


「くそ、クソが」


 恐らく、ユウナの方にも何かがあった。カリムさんに彼女を任せるのは間違いだった。

 準備して、足掻いてみて結果がこれだ。


(まだ、悲観するな、諦めるな)


 それがどうした。それが綺麗ごとを目指さない理由にならない。

 すぐにでもこの植物を電気で焼いて奴を叩く。



 そうして拘束から脱出して俺が走り出した直後、あり得ない光景が目の前にあった。



 カリムさんとユウナとさらにもう一人が上空に現れたのだ。ユウナの風の超能力で木の根を切り、拘束が完全に解除された。

 手中にありったけの電気の剣を作って走り出す。これをまともに食らえばただではすまないはずだ。

 奴はすぐに防御するように自身を根で覆うとする。



 誘いだろうか。

 迂闊に手を出せば反撃されるかもしれない。



「タケル、マイ!」


「「もちろん!」」


 ならば、奴の手の出せない安全圏から一点に火力を集中させる。槍に変改させた雷と二人の炎を同じ場所へと射出する。


 上がった土煙の先、爆音の果て、先ほどまでいた男は跡形もなくなっていた。


「逃げたっぽいね」


 カリムさんが様子を見てから言う。


「ということは…!」


「うん、僕たちの勝ちだ」


 その言葉を聞いて、ゆっくりとその場に座り込む。


(勝てた…!)


「カリム、最初に言ってくれ。そういうことは」


 親父が辺りを見回し安全を確認すると、すぐにカリムさんへ問い詰めていた。


「大方、そこの奴のテレポートの力でユウナを連れて不意打ちをしたのだろうが、我々に伝えておけば、こちらもそれを考慮に入れた行動ができたはずだ」


「考慮に入れさせたら駄目だったんだよ。そこで相手が気付いて対応される未来があった」


 彼は言い訳しながら、残された根のドームの中をくまなく調べている。


「流石だな。リツト」


 タケルが俺に声をかける。


「ああ、どうも」


 体をゆっくり起こして立ち上がる。


「よくあそこから復帰できたね。普通あそこで気絶してるし」


「運が良かっただけだよ」


「ああ、もう。謙遜はいいから。…生きててよかった」


 彼女は心の底から喜んでいるようだった。


「ああ、よかったよ」


 これでひと段落、ようやく休むことができる。

 あとは、敵一派を警察に突き出せば全てが解決する。

 達成感が静かに体の中で巡回していた。


「僕は先に帰るよ。会議を開いて色々追及しなきゃいけないからね」


 彼はそう言ってテレポートを使う部下と一緒にどこかへ消えていった。彼の自宅に帰ったのだろう。


「今日は本当にありがとう。タケル、マイ」


「お安い御用ってやつよ。いつでも頼りなさい」


 彼女は親指を立ててドヤ顔をしている。


「お、かっこいい」

「クク、ありがとう。」


「そ、それほどでもないけど」



 俺たちは少し雑談をしてから解散となった。


「「それじゃ」」


「ああ、またな」


 彼らの姿が無くなったのを見届けてから、親父と話しているユウナの方へ向かった。


「来てくれてありがとう、ユウナ」


「どうも、お兄。まぁ、カリムさんの策だけどね。みんな生きててよかった」


「少し話がある。帰り道だが、俺が先に偵察していいか?」


 まだ緊張感を持っていた親父は、俺とユウナに提案した。


「いいけど、どうして?」


「順調すぎる。というのがあってな。いや、いつも奴がいると順調なんだがな」


「分かったよ。親父は心配性だな」


「ああ、俺は心配性だ。それでいい。ユウナ、発信機を返してくれないか?これで通信しよう」


「分かった。えっと」




 ユウナが預けられていた方の発信機を取り出そうとしたその時、


 親父の腕が吹き飛んだ。




「今すぐに逃げろ!振り向くな!」


 親父が今までにない大声で俺たちに呼びかける。



 またか。まだ続くのか。落ち着け。今すぐ走れ。守れ。親父が。構うな。



「おう!」


 沸いた感情を切り捨て、妹を守るという感情だけを残し、彼女の手を引き走り出した。

 


 迷っている暇がないことは分かっていた。把握していた。



───それでも、これはあんまりだ。









「さぁ、やろう」


 ヒロカネは死を覚悟して二人の幹部の前に立っていた。


「久しぶりだね。カンコ」


 彼の腕を切断したナイフを持った男が、旧友と会う楽しさを溢れさせながら手を振っている。


「挨拶、にしては激しすぎるな…」


 血管を捻じって血をせき止める。


「全盛期の君なら対処できてたよ」


 ナイフをくるくると回して遊びながら彼に話しかけている。


「とっとと殺しましょう」


 ナイフを持つ男の隣にいた男は、腕に火をつけ、仰々しく、華々しい弓を形成した。


「全盛期ではないが、ここで貴様らを足止めする。そのくらいは出来るだろう」


 空中に控えさせていたドローンを呼び寄せ、背中に装着させる。


「…あれ、私たちをスキャンしていたな。油断するなよ」


「実力は落ちたとはいえ、相手は竜王ですよ。そんなものしません」


 竜王と呼ばれた男の周りに竜が蜷局を撒き始める。


 接続したドローンからスキャン情報が彼の頭に入っていく。


 ナイフを持つ男が呼びかけた。


「最後にいいか。ヒロカネ。どうして君の子供たちを逃がした?君だけ逃げるという選択肢もあっただろう」


「この血に汚れた手ではなく新たな手に託すためだ。いずれ、あいつらはお前たちを超えるぞ」


 希望を感じさせるような明るい顔をしたヒロカネに驚いたナイフを持つ男は、数秒硬直した後に笑顔で返した。


「……それは、楽しみだな!」


 そして、最後の会話を終えた三人は激突した。


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