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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
3/50

驚愕

「はーい!起きてー!」


 カリムさんの声が部屋に響く。


「ささ、朝ご飯だ。起きて起きて。…ほんと、君たち一家は朝弱いなぁ。いや、冬で寒いのは分かるけどさ!」


 彼は各々の背中を軽く押したり、少し強引に起こしたりしている。俺は彼に促されて重い体を起こしてから、幼馴染のいるグループにメッセージを飛ばした。


「一階のダイニングに朝食を置いているから」


 彼はそう言い残して部屋から消えてしまった。携帯を持ち、重い体を起こす。


「…リツト、先に行ってくれ。ユウナは俺が起こすから」


 親父は目をこすりながら言った。俺は言葉なく同意して一階へ行く。螺旋状の階段を降りて二階に着くと、その先にやけに上機嫌なカリムさんが待っていた。


「お、最初に来たのはリツトか」


「この未来は最初から見えていましたか?」


一歩ずつゆっくり降りながら、その笑みの訳を聞き出す。


「ん?いいや、確証はなかったよ。全員起きて、降りてくる未来もあった」


彼は推理でも当てたかのようにしたり顔をしている。


「未来が見えるからって、その未来を変えられるわけじゃないんだ。だから、未来を伝えない方が良かったりする時もある」


 さらに調子よく、彼の能力についてまで喋り始める。


「…昨日のことは予知で知っていたんですか?」


 少々不快に思いながら彼の言葉の真意を確認した。彼は、昨日の親父が俺たちに送ったメッセージのことを知っているのだろうか。


「いや、可能性の中から当てずっぽうをしてみただけだよ。その反応からして、正解したみたいだね。まぁ、カネヒロが悪いとは思わないよ。あいつは物事を捻って解釈する癖はあるけど、僕を疑うのはしょうがないことだ。うん、ふつうに怪しい」


 彼は話していくうちに薄暗い雰囲気を纏って、諦めたかのように両手を広げて言った。


「信用されないのは、慣れているからね。…ははは」


 俺は彼を一瞥してから隣を通り抜けた。彼の感情の移り変わりは胡散臭さの塊だった。

 ここで、親父が彼を信頼しない理由の一端を理解できた気がする。普段の言動と感情に高低がありすぎて真意を読み取れない。


「んじゃ、朝飯頂きます」


「どうぞ。ご勝手に」


 もう既に暗い雰囲気はどこかに吹き飛ばした彼の隣を通り、リビングに入ると、昨日カリムさんに足音を立てながら駆け寄っていた部下の一人が、俺を見つけた途端、その轟音を鳴らして駆け寄り、話しかけてきた。


「おはよう!リツト君!」


 やけに大きな声で俺に話しかける。


「お、おはようございます」


 確か、昨日、カリムさんに詰め寄っていっそのこと過激派を敵に回そうとしていた青年だ。


「安心して欲しい。カリムさんは信用していい人だ。きっといい未来に導いてくれるだろう!」


 彼はそう言って俺の肩を叩く。


 『信用していい』という言葉は、たった今、彼を疑う俺へのものだろうか。

 なんだか、不信感を募らせていたのを見抜かれた感じがする。


 カリムさんがもし、予め未来を読んで、『信用していい人』と発言しそうな部下を配置していたとしたら、金輪際やめて欲しいとさえ思った。


「ん?どうした?」


「いえ、あはは、なんでもないです」


 俺は僅かに笑ってごまかす。


「君たちの無罪の証明は杜若派の悲願だ。何としても果たそう!では!」


 彼はそのまま外へ出て行った。彼の勢いに気圧されたので、返事をすることができなかった。


 ダイニングにて椅子に座り、チーズの乗ったトーストを頬張る。一人で食事をしていると、親父やユウナがカリムさんによって連れられて来た。


 テレビでは昨日のことを報じている様子もない。今の日本は超能力者に関わる情報は隠されており、それらが公共の目に晒されることはない。


「そろそろ特別対策課が動き出す頃かな…」


 キッチンからカリムさんがテレビを見ながら呟いた。


 特別対策課とは、俺たちのような超能力者の組織を専用の兵器で鎮圧するために組織された課らしい。警察庁異能局の傘下で、前は鎮圧課という名前だったらしい。


「ま、彼らが僕たちに対して攻撃する未来は見えていないから大丈夫だよ。彼らは加害者にならないと攻撃を始めない。今回の僕たちは被害者だ。つまり、対象外」


「それは本当か?奴らはこちらが被害者だとあちらは認識できているのか?」


 親父がカリムさんに疑問を呈す。


「ああ、マジだ。あいつらも素人じゃない。どちらが口火を切ったかどうかの判断はできるよ」


「ならいい」


 しばらく誰も言葉を発さない時間ができる。


「…すまない」


「え?何が?どうして?えぇ、恥ずかしくなっちゃった⁉」


「…なんでもない!」


 突然申し訳なさそうにした親父に対してカリムさんが追及している。


「そういえば、母さんはどうなったんですか?」


「さあ、死体は国側が処理したんだと思うよ」


「そうですか」


 俺は親父に助け舟を出す目的で、ふと気になったことをカリムさんに聞いた。


 そして、このやり取りの中、我関せずと朝食を咀嚼しているユウナがいた。


「ユウナは大丈夫か?」


「大丈夫。うん」


 彼女は俺の質問に簡単なレスポンスだけして小さな口で夢中に朝食を食べている。彼女なりに落ち着いてきているのだろう。それにしても適応力が高い。それとも感情を表に出していないだけなのだろうか。

 ふと、携帯端末を見ると、彼らからのメッセージが到着していた。


『大丈夫か!?』

『できれば会いたいんだけど』


 幼馴染たちからの安否確認だ。安心だという旨を打ち込む中であることを思いついた。


『大丈夫、いつもの場所で会おう』


 彼らの派閥が味方に着いてくれるならこれ以上心強いものはない。


「ククク」


「友達?笑ってるけど」


「ああ、そうだ。もしかしたら助けてくれるかもしれない」


 ユウナがほほ笑んでいたらしい俺の様子を見ていたようだ。


「ほんと?」


「マジ」


 俺たちが食事を終える頃にカリムさんはリラシオの会議のために自室に向かった。今回の騒動について追及するらしい。その会議が始まる前に、俺は会議前に彼に確認したいことがあった。


「カリムさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


「なに?」


「日中は外に出てもいいんですよね?」


「そうだね。…それは君の意思次第だ」


 彼は何か裏がありそうな顔で答える。

 まるで俺を試しているようだった。


「…分かりました」


 外に出るか否かを試したところで何があるのだろうか。

 俺は彼の真意を読めないまま自分の意思を通した。



 やはり、この人は怪しい。



 あえて怪しい行動をしているのかと疑うほどだ。さらに、彼に不信感を抱いている状態も彼の思惑通りなのかと考えるとストレスがたまる。彼を不快に思いながら、家族にも話を通してから家を出た。

 




 集合場所はいつもの喫茶店。

 俺が店内に入ると、いつもの三人組が集合する形となる。


「杜若、説明してくれるよな」


 タケルは真偽を確かめるためにやや前のめりだった。


「もちろん、こっちの言い分を信じてくれるならな」


「もがもが、ごくん。当たり前でしょ、何言ってんの?人を裏切れるタマじゃないでしょ」


 マイは頬張っているサンドウィッチを急いで飲み込んだ。彼らの様子から見るに、二人とも、俺が完全に裏切ったとは思っていないようだった。


「そうだよな…ありがとう。話すよ」


 俺は席に座って今自分が置かれている状況を必死に伝えた。


「つまり、急に裏切りの疑いがかけられたってこと?」


 マイが俺の話をまとめてくれた。


「ああそうだ」


「革新派の仕業か。メンどーな死にたがり屋の。はむ」


 マイは足を組み、腕を組み呆れながら言った。言った後にサンドウィッチに嚙みついた。


「その可能性が高いな。だが、植物を使う幹部級の超能力者は聞いたことがない」


「カリムさんが、顔を見ていないから行動が読めないらしい。それだけの実力者がフリーで動かれると後手に回り続ける。だから奴を動けない状況にして欲しい」


「んぐ。具体的にどうやって?まさか幹部クラスを『拘束する』なんて馬鹿げたこと、言うつもりじゃないでしょうね」


「ああ、拘束はしない。ただ、奴を動けないほど不利な状態に追い込む。カリムさんが計画を立てた人間に目星をつけたようだから、そいつらに組織分断の疑いをかけてやれば、下手な手は打てなくなる」


「ん、相手もそれなりの証拠を提示してくると思うけど、それはどうなるの?」


 手元にあったジンジャーエールを飲みながらマイは言った。


「こっちは何もやってない。証拠が捏造されたものなら必ず穴が生まれるし、その証拠が言葉の捉え方の問題なら、いくらでも反論できる。準備をすれば言い返すことは可能だ」


「そんなもんなの?信じていい?」


「ああ、信じていい。任せろ」


 俺の言葉を聞いたマイは目を逸らしてストローに口を付け直す。彼女が反論しないのは快く納得してくれた合図だ。


「よし、それでいこう。…それにしても良かった。俺を信頼してくれて、ありがとう」


「はは、当たり前だろ。俺たちは幼馴染なんだから」


 一連の話を聞いて、タケルは安心してくれたようだ。


「…なんかしおらしくない?もうダイジョブでしょ。私たちが付いてるのよ」


 彼女はかっこつけた風に言っている。


 俺たち二人は黙って彼女を見つめる。いつもはもう少し不安を煽る筈だ。


「え、何。何かあるなら言いなさいよ」


「いや、珍しいよな…」

「ああ!そうだよな!」


 俺とタケルは大げさに驚いた。


「ああー。そういうダルいのは良いから…」


 彼女は少し呆れながら話をまとめる。


「つまり、私たちの派閥に掛け合って、杜若家に味方するように促せばいいんでしょ。なら早く行動した方が良い。今日は早いけど解散しましょ」


 軽く、二回手を叩いて席を立ちあがる。


「ああ、これは早さがモノを言う。すぐに体勢を整えよう」


 タケルの言う通り、早く幹部の動きを止めなければ、杜若家が潰される可能性がある。

俺たちは目的を達成するためにすぐに解散した。


 順調だ。全く悪くない。


 彼らの所属する派閥はリラシオの中でも大きい。彼らがこちらに味方すれば、組織の流れも変わってくるだろう。


 彼らと別れた後、信頼と達成感を感じながら、雑踏に入ろうとしたその時、肩に何者かの手を置かれた。


「ちょっといいですか?」


「はい?」


 振り返ると、俺と同世代くらいの男が何かを企んでいるように頬を歪めている。




「警察の者です」




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