月が綺麗ですね
新章開幕です。
色々起こります。
満月の夜、土曜日の夜、僕は、運命の出会いをした。
光り輝く摩天楼たちを眺めていると、少し遠いところで一人の女性が同じ風景を見ていることに気がついた。
月がはっきりと見えていて綺麗だった。
そして、彼女も綺麗だった。
長く、風になびいて、たおやかに揺れる白い髪。すらりとスレンダーな体。赤く光る目、それら全てに魔法のような魅力が込められていた。
絶世の美女という表現がよく似合うヒトだ。
彼女へ、近づいてみようと思った。それほどの魅力が、彼女にはあった。
その魅力はやけに魔的で、病的で、蝕んでいるかのような錯覚をさせる。
僕は一歩ずつ踏みしめて、彼女の元へ向かった。
「…月が、綺麗ですね」
「あ?誰だ?」
いきなり風景の話をしたって、引かれるのは当たり前だった。
「落ち着いて。私は怪しい者じゃないです」
両手を前に出して僕が危険なモノではないことをアピールする。
「僕の名前はウィローといいます。番号はJ23-4576」
「あぁ、あんた、アンドロイドか」
僕がアンドロイドであるということを知った彼女は、口を歪めながらまじまじと見つめて来た。最近のアンドロイドは、より外見を人間に近づけるように設計されているので、初見では人形であると気づける人は少なくなっているらしい。
「ああ、アンドロイドはお嫌いでしたか?」
彼女の嫌な目から、もしかしらという予感がした。
僕はまだ出会ったことはないが、未だに、機械人形のことを嫌うヒトはいるらしい。
「いやいやいや、嫌いじゃねぇよ。すまん、誤解しそうな顔をした。別に機械人形を差別するつもりはねぇよ」
どうやら、ここにいること自体が怪しまれているらしい。
彼女の疑問はごもっともで、今は真夜中0時で、ここ、国立競技場の屋上にいる者は何であっても怪しまれて当然と言える。
「…それは良かった。僕たちが嫌いなわけではないのですね。それではどうして、こんなところにいらっしゃるんですか?」
髪を耳にかけ、輝く夜景を見ながら彼女は答えた。
「オレか?まぁ、風に当たりにな。ここの景色、綺麗だろ」
「そうですね。すごく、綺麗です。営みの光が星空に見えます」
50年前よりかは、夜に灯る電気の光は少なくなったらしいが、規則的に並ぶ光たちは虚栄そのもののような気がして、感情パラメータを大きく動かした。
「…お前、変な例え方するな」
「ははは、そうですか?」
「ま、別にいいよ。それで、お前もなんでこんなところにいるんだ?ここ、立ち入り禁止だろ」
彼女は僕を横目にニヤリと笑っていた。
「ここの警備員ですから」
彼女の疑問にはさらりと答えた。
アンドロイドは人間より休息する必要性は薄い。僕のような最新型は充電100%で四日は働くことが出来る。だから、僕たちは一日中動く必要のある職業では重宝されている。
彼女はこちらを向いて驚き、目を見開いてからそっぽを向いた。
「…もう帰る気分になっちまったぁ」
あからさまに逃げようとしていた。
まずい。
彼女の背を見て、焦燥が体中に走った。
ここで彼女と、こんな形で別れてしまったら、もう一生会えなくなってしまうかもしれない。もう、彼女はここに来なくなってしまうかもしれない。それは避けなければならない。僕はもっと彼女と言葉を交わしたい。
「ははは!また来てくださいね。僕、黙っておきますから」
僕が何とか捻り出した言葉が彼女に届くと、なんとも嬉しそうにしていた。
「まじか。それじゃあ、オレたち、共犯者だな」
「はい。共犯者です」
彼女の笑顔にドキリと心臓が打った。
感覚がした。
そんなパーツはないはずなのに。
感情を生み出すパーツがオーバーヒートを起こしているみたいだった。
「…それじゃ、明日な」
「また明日!」
別れの挨拶をすると、彼女は自然な足取りで飛び降りてどこかへ消えてしまった。
(綺麗だったなぁ…)
落ちた先は確認せずにただ彼女の影に浸ってしまう。
(名前聞くの、忘れてた)
「どうぞー」
「おはよ」
クイナがノックしてから俺の部屋に入ってきた。
「おはよう、そこ、椅子座って」
読んでいた本を閉じて、ベットから起き上がり、カウンター前の椅子に彼女を誘導する。
「お、失礼」
彼女が座ると俺はカウンターを挟んで前に立ち、ポットに湯を沸かせ始めた。
「コーヒー?それとも紅茶?」
「コーヒー、ミルクと砂糖も付けて」
あの騒動が終わって一か月後、俺は異能局本部に住むことになった。
特別対策課の仕事がなければ、ここにいて毎日訓練をしている。ここの家賃は安く、壊されてしまったマンションでは暮らせない俺にとって、とてもありがたい場所だった。
「機嫌良いじゃん」
「心読めるなら分かるだろ?人と話せて嬉しいんだよ」
この仕事に集中するために内定は取り消してしまったが、充実した生活を送れている。
そう思えるようになった。
「ハイどうぞ」
「それじゃあ、こっちも」
コーヒーカップと交換で彼女は俺に仕事の内容が記されたタブレットを渡された。
「都市伝説の調査?」
そこには、今日の仕事の内容が、資料付きで記されている。
「そう、最近、SNSで流行っているやつなんだけど、これも超能力者の仕業だって可能性もあるでしょ」
資料のほとんどは画質が荒い写真又は動画で、どれも胡散臭く、作り物のように見えた。
本当にそれらが作り物でないか疑いながら眺める。
ただ、異能局が指示を出しているのなら、確固とした裏付けがあるに違いないので、この件には超能力者が関わっているのだろう。
「確かに、そうだな。超能力者って、能力に依るけど、基本的に何でもできるからな。…それにしても、都市伝説か…」
科学が発展したこの世界でも、都市伝説、怪談の類は一部の人間の間で持て囃されている。科学で説明できたとしても、『理解不能の何かがいるかもしれない』という情報は人々の興味を引きて魅了する。
だから、質はともかく、ここまで多くの情報が集まったのだろう。
確か、都市伝説専門の雑誌がまだ発行されている筈だ。
「赤鬼、とか覚えてる?」
クイナはコーヒーを飲みながら昔話をした。
懐かしい名前だ。
赤鬼はたしか昔のホラーゲームの名前で、様々なジャンルに派生して、今も残っている超長寿コンテンツだ。
「あー、小学生の時見たな。そんな動画」
「そう、漫画っぽく作ってるやつ。あの時むっちゃ怖がってた」
「ああ、他にも色々シリーズがあったよな。えっとなんだっけ…」
俺たちが話していると、コーヒーの臭いにつられた柴犬が彼女の足元までやってきた。
「お。おはよ。」
クイナはその犬の名前を呼んで、頭をわしゃわしゃと撫でている。
訓練と異能局での仕事以外することのない俺に、最近命じられた仕事がある。
それは本部で飼う犬の世話だ。
これはクイナが強く推薦したことらしい。それは、手が空いているのは俺しかいないからだ。
常にカンコを追っている茨木さんは例外として、沢潟さんは都内にあるジビエ料理店の店長をしており、クイナは異能局全体の雑務を手伝い、井原原は別の部隊へ異動した。
そして、俺が雑務でも手伝おうかと聞いた時は、こっぴどく拒否されてしまった。
なので、訓練と仕事の時間以外は、犬と散歩やコミュニケーションをしたり、娯楽を楽しむ時間になっている。
「人目について行動してるってことは、組織に所属してない可能性もあるのか?」
リラシオも異能局も、どんな形であれ、一般人には証拠を残さないように活動している。特に、どんな低画質であっても動画を撮られるなんてことはあってはならない。
「ある。だから、もし何も知らない人だったら保護、よろしく」
「おーけー。…んで、調査対象の都市伝説は徘徊する影怪人、闊歩する甲冑の大男、白装束の人攫いたち。の三つか。どれも不気味だな」
資料たちを眺めて半信半疑になっていた。
どれもただのデマのような気がしてやまない。
「予定は午前0時から、装備は、腕につけた状態で別の鞄の中に入れること。リラシオと遭遇するかもしれないから気を付けるように、だって」
「分かった。気を付けよう」
俺は了承してから用意を始めた。
「そういえば、聞いてる?新しい装備。今開発しているヤツ。カルマポリスver2.0だったっけ?」
俺が無断で枷を二つ付けたことで、『隊員一人で幹部と互角に戦うための兵器』の開発が火急に行われている。一か月前に俺が行ったアレは本当に危険だったものらしく、二度と無理をさせないために開発されているらしい。
「ああ、知ってる。俺が一人目のテスト要員だって」
一週間前に内田隊長からそのような連絡が来ていた。
「テストって、何やるの?」
「それを着て仕事に出たり、訓練したり、といった感じ。普通の生活をするだけだってさ」
「ふーん。で、それはいつやるの?」
「明日だよ」
引き続き、この作品をお願いします・




