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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
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Reviver 

 とある孤島、そこで人間と竜が宙を舞っている。




 その竜は実物ではなく、サイコキネシスで作り上げられたものだ。




 それを操る男が、涙を流しながらかつての仲間たちを見上げている。


 さらにもう一人の男が、足が動かず両腕のない元仲間の一人に対して拳銃を向けている。


「おい、どういうことだよ。お前の思い描く未来は、こんな光景かよ!俺が信じた、俺たちが信じた未来は、この先にあるのか⁉」


 手足も出ず口しか動かせない男が、死に際の最後の力が叫んでいる。


「……」


 それを見た彼は、少しだけ手を震わせた。


「俺の見たい未来はお前、お前たちを殺した屍の道の先にある。だから死ね」


 男は震えを止めて、躊躇なく引き金を引いて息の根を止めた。


 その現場に、一人の男が到着する。


「そこまでだ。杜若家」


 警視庁異能局鎮圧課最強の男が、腕に特殊な装備を装着させる。


「…久しぶりだね。茨木」


 大声で竜を操る男に呼びかける。


「よし、逃げるぞ!」


「……」


 先程、仲間を殺した男は笑顔でもう一人の仲間を呼び出して逃走した。


 警視庁の男は後を追ったが、結局、逃げられてしまった。






「ハハハハハハハハ!ハハハハハッハハハハハハ!ヒハッ!」



 警視庁の男から命からがら逃げだした彼らはとあるビルの屋上で笑っていた。

 引き金を引いたばかりの未来の観測者が、高らかに笑っている。


「全部壊れたぁ!こうなるか!」


 それは彼の思惑通りか、そうではないのか。


「何をしてるんだ?」


 辺りを監視していた、先程、サイコキネシスで仲間を殺してしまった彼の仲間が尋ねた。


「ああ、ヒロカネ。ああ、そうだな。なんでもないんだ。ハハハハ!」


 その仲間には、彼が狂っているように見えた。


 それにまだ、サイコキネシスを使う男には、『仲間を殺した感触』が残っている。


(胸の中で、詰まるような不快な感情はもう、したくないな)


 彼が心底嬉しそうに笑う先には、彼らの仲間たちの亡骸が転がっている孤島がある。








「そろそろ、行ってきます」


 用事があるので早めに準備をして外に出ようとする。


「リツト?あれ、早くなぁい?大学の授業、まだだよね?」


 母さんがタブレットを眺めながら尋ねてきた。

 確かに、受験期の妹より外に出るのが早い。


「おはよ…」


 その時、丁度起きた妹がリビングに合流してきた。


「おはよう、ユウナ」


「ん、おは。何、どうしたの?こんな早く」


 高校三年生とは思えない、大人びた雰囲気を持ち、長い黒髪を下ろしている。


「ああ、朝から訓練があるんだ、親父と」


「ふーん。なるほど…」


 俺が理由を言うと、ユウナは表情を崩さずに応えた。


「ユウナは朝から学校で、夕方から予備校だろ。頑張れよ」


「もちろん、ですよ」


 彼女は感情の起伏をあまり見せないが、薄く笑ってから洗面所に向かって行った。


「あ、だからパパは早く出たんだ」


 母さんはいつの間にか俺の右隣に移動し、思い出したように確認した。


「先に訓練室で待ってるみたい」


「オーケー、帰りは一緒くらい?気を付けてね!」


 綺麗な声色で俺の肩に手を乗せて親指を立てていた。


「うん。そうなると思う。行ってきます」


 母さんに見送られて、俺は扉を押し開け、エレベーターを使って下の階に降り、俺たちが住むマンションから出た。


 訓練室とは、俺の所属している組織の支部にある特別な部屋である。

アンドロイドの人権問題を建前に勃発した第三次世界大戦から五十年。


 日本は『ヒト』と『機械』が手を取り合える国となり発展してきた。

 そこに、『超能力者』という存在が新たに広まり始めた。

 しかし、政府はその存在を隠し続けている。


 俺たちが所属するリラシオは家ごとに派閥に別れ、それぞれの派閥が武力から交渉など様々な手段を使って超能力者の利権獲得のために活動をしている。活動としては、武力による蜂起の計画、同志を募り、諸制度の草案作成などが行われている。


杜若(カキツバタ)じゃないか」


「よっ」


 支部の前で、俺の幼馴染たちとばったり会った。

 熱血漢で爽やかな短髪の押上タケル、いい加減な性格でキツイ目をして、ポニーテールの鴨川マイの二人だ。


 タケルもマイも俺とは別の派閥に属している。

 わざわざ杜若支部まで来ているということは、何か特別な用事でもあったのだろう。


「おはよう」


 タケルに苗字を呼ばれた俺は、挨拶を返し謝りながら彼らの横を通り過ぎる。


「すまん、訓練あるから」


「ああ、そうか。すまないな。それじゃあ後で!」


「あとで!」


 タケルと話してすれ違おうとしたその時、マイに肩を思いっきり掴まれ引き寄せられた。


「なっ…どっ」


 彼女の息が耳にかかるほどに近づいた。


「カリムが来たらしい。それだけ」


「あ…ああ。分かった。ありがとう」


(そこまで内密にすべきか?)


 そう思いながら彼女と距離を離して「それじゃ」と手を振りながら別れを言って、訓練室に向かった。


「よし、今日も来たな」


 ビルの地下、そこは俺と親父がいつも戦うための訓練をする場所だ。


 壁も床もコンクリートでできた、灰色一色の部屋だ。


「今日はよろしく、親父。今日は普通の構成員じゃないんだ。相手」


「ああ、今の彼らじゃ太刀打ちできない。それに、お前は殺しはしないが容赦がないからな。もう部下に重傷は負わせたくない」


「それは…反省しています。勢い余った」


「それならいい。…人殺しはするなよ。絶対に」


 彼は俺の耳にタコができるほどした忠告をした。


「さて、やるぞ。今回の課題は前回同様、雷電にどう指向性を持たせるかだ。ヒントは、イメージだ。自分の力をどのように発現させるか、具体的なイメージを持つことで能力はより強くなる」


 俺は自身から雷を発生させ、それを操る能力を持って生まれた。

 右手に電気を集めて無骨な雷の刀を作る。


「分かった。やろう」

 

 家に出るときには動きやすい服装に着替えていたため、すぐに訓練を始められた。


 訓練とは、勿論、戦うための訓練である。

 ただの部外者が口だけでは国を変えることは出来ない。だから最低限の武力は持つべきなのだ。しかし、力はテロリズムを起こすためのものではない。それでは第三次の二の舞となってしまう。俺たち杜若派は他と比べて武力を行使しない派閥だ。


 戦闘訓練は一日中行われた。


 親父はサイコキネシスを使う実力者で、彼の戦いに食らいついていくだけで精一杯だった。


「強くなったな。技術が追いつけば、より強くなれるぞ」


 それが終わる頃、俺が疲れで倒れていると、親父がこちらの様子を見ながら話しかけてきた。


「そういえば、就職は食品系に決まったんだよな」


「うん。何とか決まったよ」


「そうか、いずれ権利を手に入れても、自分で生きるための金は必要になるからな…それで、あの約束について覚えているよな」


 最後に、念を押すように俺に聞いた。


「勿論」


 簡潔に答えると、親父は深く頷く。


「ならいい。先に帰ってくれ。あとで合流する」


「それじゃあ…あ、当主のカリムさんが来ているらしいよ」


「そうか…。ああ、そうか、ありがとう」


 俺はマイの言っていたことを、特に意図はなく親父に伝えてから部屋から出た。

 親父は顔をひきつらせ、ゆっくりと二、三度頷いていた。


 ビルを後にして空を見上げると、既に夜になっていた。





 ボタンを押して待っていると、我が家のあるマンションのエレベーターが到着した。

 行き先階のボタンを押して、携帯のメッセージを確認する。


  『お母さん誕生日祝賀委員会』


 などと、かなりふざけた名前のグループでは父、妹、そして俺で母への誕生会が企画されていた。

 訓練の直後に親父が聞いていた約束とは、『家族三人でプレゼントを考えるために案を考えておく』という約束であった。


(ちょっと大げさだよな…)


 相変わらず親父と母さんの仲が良すぎる。結婚してから二十年、ここまで互いの愛が冷めないのは珍しいのだろう。友人にぼかしながら聞いてみたが、ここまで熱々なのはちょっとおかしいそうだ。この前のユウナが夏休みの時に旅行へ行った時も大騒ぎだった。


 そろそろこの時期になると、夫婦同士の仲がさらに良くなり、日常が華やかになる頃だ。この頃の家の空気は少し恥ずかしいが、家庭内に収まるならば心地良い。やはり、身内が笑顔でいてくれるのは嬉しいものだ。


 エレベーターに降りてから、家のドアまで行って、カードキーをかざすと、ドアが閉まる音がした。我が家が鍵を開けっぱなしにすることはあまりない。一度カードキーをかざしてドアを開け、玄関に足を踏み込むと、


我が家はジャングルとなっていた。


 驚きのあまり言葉が出なかった。玄関から繋がる廊下には、床や壁から、無理やり貫いた木々が、俺の行く先を阻むように枝を伸ばしている。そして、枝と廊下には赤い液体が垂れている。




これは血だ。




(まずい)


 そして、今家にいるのは母さんだけだ。


(嘘だ!)


 すぐに枝を飛び越えリビングへ向かう。この規模だとtype :inperatore(皇帝)に違いない。


 しかし、我が家が超能力者に襲撃され、母さんが襲われている可能性を、この目で確認するまで信じたくなかった。


 俺たちは何もしていないからだ。俺が知る限り、俺の家族は超能力者に襲われるようなことはしていない。


 木々を飛び越え、短い廊下を駆け抜けてリビングの扉を開ける。




 そこには、母さんの死体があった。



 

 彼女は枝によって首を縛られ、宙に吊るされていた。さらに、胸には大きな風穴が空いている。

 誰が、どうして、何故。そんなことでさえ考える余裕はない。ただこの異界に変わった俺の家と、動かない母さんを眺めることしかできなかった。


「え…?」


 何かを叩く音が聞こえた。


 コツ、コツ、コツ、とまるで急かしているかのように音を立てている。この音を出している者が犯人に違いないという予感があった。

 胸の中にある疑問を少しでも解消するために音のする方向へ向くと、俺より少しだけ年上の青年がいた。木の枝でできた仰々しい椅子に偉そうに座って、ひじ掛けを指で叩いている。


「お前が…貴様が…」


 母さんを殺した容疑者を目にする。


 許さない。

 その憎悪で頭の中がいっぱいになる。


「そう、私だ。私が殺した。お前たちが、我らがリラシオを裏切るという情報があったからな」


 奴はそう言って悠然と椅子から立ち上がる。長々と喋っている隙に攻撃してやろうとも考えたが、冷静になってその選択肢を排除した。


 こんな規模で家を滅茶苦茶にすることができるのは幹部くらいだ。そして幹部たちは親父よりも強い。しかも、移動系の能力を持つ母さんが逃げられなかった敵だ。


「杜若リツト、だったかな?どうする?逃げて死ぬか、向かって死ぬか、ただ死ぬか」


 体が動かない。どう動いても死ぬ。


 しかし動かなければ、必ず死ぬ。


「ふん、ただ死ぬ、か。いいだろう」


 死にたくない。だが動けない。このまま死ぬのか。殺される理由も分からないまま。


 それだけは避けたい。避けなければならない。


「まだ死なない。死ねない」


 呟いて己を奮い立たせて立ち上がる。電気の刀を手に持ち倒すための算段を考え始めた。





 その時、俺と幹部の間に一人の男が、大きい蜻蛉型のドローンと数匹の念力で作られた竜と共に、窓を突き破ってこの部屋に乱入した。





 あのドローンは親父が秘密裏に開発していた超能力者用の兵器だ。


「来たなぁ…竜王!」


 かつての異名を呼ばれた親父はそこらにある木々を捻じりながら、一瞬だけ男を睨みつけ、俺の方へ振り向いた。


「生きてるな。リツト!」

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