浪人の俺と現役の彼女・青の節
こっちから謝りに行こうと思ってたのに何で嗅ぎ付けたんだよ……。
俺は寧ろ苛立ちを覚えた。
ちるだのあまりの手際の良さに。
「……『暫く一人になるから探さないでくれ』って書いた筈だろ。なのにどうしてわざわざここまで来たんだよ!?」
苛立ちながらも俺は彼女にここまで来た理由を尋ねた。
「……皆が心配しています……。」
「そうじゃなくて、何で俺がここにいるとわかったんだよ!?」
彼女の回答が自分の趣旨と違う事に益々苛立った俺は聞き方を変えて問いただした。
「あなたが子供の頃家族で行っていた場所を寮母に聞いてみたんです……。」
「それでここを嗅ぎ付けたってわけか?」
「はい……。」
ちるだは静かに頷いた。
「志郎さん……、今日の件はごめんなさい……。」
ちるだは志郎に謝ったが、志郎は何故自分が謝るのか理解出来ず戸惑った。
「何であんたが謝るんだよ?それは寧ろ俺の方だろ。そりゃ……、『あんたに俺の気持ちがわかるかよ』って怒鳴り散らしたんだし……。」
「わたくし……、あなたの気持ちを知らずに『心中お察しします』だなんて軽はずみな事を言ってしまいました……。後で寮母から聞いたんです……。『大抵の男は自分が同情される事が嫌いなものなんだ』って……。」
彼女の言葉に俺ははっとした。
他人に同情されるのが厭だったからあんな態度をとったんだなという事に気付いたからだ。
「わかったよ……。俺の方こそ怒鳴り散らしてごめんな。」
俺も彼女に謝った。
「はい……。」
ちるだは頷き、言葉を続けた。
「志郎さん、お願いがあります。わたくし、改めてあなたの力になりたいのです。」
彼女の突然の申し出に俺は戸惑った。
「ああ、わかった。俺も祖母の手伝いを通じて皆を支えたいんだ。改めて宜しく、ちるださん。」
「あの……、わたくしの事を『マチルダ』とお呼び下さい……。『町村』という姓が訛って『マチルダ』と聞き間違える事がよくあるんです……。」
「わかったよ、マチルダさん。」
「『さん』は付けなくて構いません……。」
「じゃあ、マチルダ……。一緒に戻ろうか。」
「はい。」
俺はマチルダと一緒に数キロ離れた神威荘に戻る事にした。
「なあ、マチルダ……。あんたは将来何になりたいんだ?」
帰る途中、俺はマチルダに自分の将来について尋ねた。
「わたくしはただ……、皆の力になりたいのです。」
「そうじゃなくて、何の職に就きたいかって事だよ。」
話をはぐらかされたように感じた俺は聞き方を変えて問い直した。
「……メディア関連の職です。」
「どうして?」
「わたくしの実家は北海道の農場で、高校を卒業するまで大自然の中で生活してきました。そんな大自然が日進月歩で失われつつあると聞き、色んなメディアを通じて色んな事を伝えていきたいと思いました。」
なっ……。
マチルダのあまりにはっきりした将来のビジョンに俺は動揺した。
「じゃあ、志郎さんこそ将来何になりたいのですか?」
「……俺は……、公務員になりたかった……。けど……、浪人になって……、自分が何になりたいのか……、わかんなくなってきた……。」
俺は公務員を目指してたが、大学受験に失敗して自分の目的を見失っちまった。
「……なら、神威荘で自分が一体何になりたいのかをわたくし達と共に見つけていきましょう。」
「うん……、ありがとう……、マチルダ……。」
俺は嬉しかった。
あまりの嬉しさにこれ以上言葉が出なかった。
その後俺はマチルダと一緒に無事に神威荘に戻れたのだが、その頃には夜になっていた。
『志郎×マチルダ(町村ちるだ)』編完結です。