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2章30話 ただ殺すのみ

 盗賊の表情が余裕から一変する。

 当たり前だ、全員の耳は今の一撃で使えなくなったんだからな。この世界だったら幾らでも治す手立てはあるだろうが、それでも俺と対峙している間は必ず使えないだろう。聴覚が壊れて尚、余裕を見せているのは立場が高そうな男だけだが……それも直に変わる。


「ウル、力を貸せ」


 ウルの力が影魔法ということは分かっている。

 ウル自身もブチ切れているのだろう……だからこそ、いつも以上に魔力の通りが良くなっている分だけ、安心して能力を使えるだろう。逆に効果が強過ぎて上手く動かせる自信がないけど……体の自由が利かないのなら代わりに動かせられる何かを作ればいい。めちゃくちゃに簡単な事だろう。


 自分の影を操り手の形を作るイメージで。

 この世界の魔法はどれもイメージさえあれば何とかなるんだ。スミレに忍ばせたナイフ以外を回収してから影に一つずつ持たせる。二つの空いた手は俺を移動させるためだけに使わせてもらおう。少しのムラはご愛嬌だ、それこそ俺の運にかかっている。ただ……これをする奴なんてどこにもいないだろうな。


「影ノエイシュ

「何を……ッ!」


 これは予想以上にいいかもしれない。

 影魔法で作り出した手を使って俺を相手方面へ投げつけただけ。だというのに、普通に走るよりも速く相手に接近できるし何より虚をつける。使うのに多くの魔力が必要になるから連発はできないけど悪くは無い。それにこうやって鍔迫り合いを続けていれば勝つのは俺だ。


「なっ!」

「三十秒しか残っていないんだよッ!」


 男の体を袈裟斬りにする。

 ヒュドラの毒のおかげで鍔迫り合いではまずもって負けることも無いからな。あまり纏わせていなかったから毒による影響は薄そうだが……体の傷のせいで逃げることもままならないだろう。残り二十秒……いけるな、これならスミレに言った通り百秒以内に全員を倒し切れる。影の手を使ってナイフを投げておく。


 オーケー、全員の頭を貫いたな。

 当たる精度も幸運の補正がかかっているのか。そこら辺はよく分からないけど当てられるのなら越したことはないな。後は逃げただろう二人を追いたいが……まぁ、そんな時間があるわけもない。なら、コイツを使って色々と……。




「後で話を聞かせてもらうよ」

「ヒッ……な、何を───」


 風魔法で男の声をシャットダウンさせておく。

 そのまま手にナイフを持たせて手足に傷をつけておいた。骨が見えるくらいには深く傷をつけてやったから見ていて痛々しく感じる。だが、これで簡単に治らないだろうし、逃げることだってできないだろう。……おし、一旦、コイツは置いておいて先にスミレの元へと向かおう。魔力を使って……。




「九十は」

「お待たせ」


 おっと、残り一秒だったか。

 スミレのことを驚かせてしまったみたいだけど致し方ないだろう。笑ってみせたら嬉しそうに抱きついてきたし。慣れていないせいか、魔力を一気に使い過ぎた影響で頭がちょいとクラクラするけど動けない程ではない。やる事をやったらスミレの家で一休みさせてもらう事にしよう。


「血だらけ……大丈夫……?」

「ああ、殆どが盗賊のだからね。俺のは本当に微かなものだよ」


 これは本当だ、受けた傷は矢のものだけ。

 それでも、本心を隠すためにスミレを抱き締めてやった。まぁ、多少ばかり毒がかかったせいでダメージは残っている。だけど、それとは関わりがないからな。本来なら吐血をするレベルの毒だったのかもしれないが……こちとら、事ある毎にヒュドラの毒を受けているせいか、大して健康状態での問題は無い。もしかしたら毒無効とかを獲得する日は近いのかもしれないね。


 さてと……現状の問題は他には無さそうか。

 問題は本当に魔力だけっぽそうだ。なら、余計に寝るための準備を整えないといけない。ポーションの回復量よりも寝た方が魔力は回復しやすいんだよな。まぁ、最近、働き過ぎているせいで眠いというのが本音なだけだけどさ。


「それじゃあっと」


 デイリーガチャを回しておく。

 これで欲しいものが出てくれればいいが、出なかったら後十一連は回すつもりでいる。それだけ今のうちに欲しいものがあるからね。ステータスを開いて回す。……おー、赤か。見た感じ欲しいもののようには見えないが……。




「あ、当たりだ」

「……?」

「いや、なんでもないよ」


 二回目のせいで訝しげに見られた。

 でも、出てきたものが御目当てのものなら誰だって口にしちゃうって。見た目はただの鳥籠って感じだけど……まぁ、この世界で、しかも赤色のアイテムだ。普通の鳥を飼うための籠では決してない。丁度、試してみたい事があったんだ。


「先に家に戻っていてもらってもいいかな。盗賊達の遺体を回収しておかないとアンデッドになってしまうからさ」

「なるほど……分かりました!」


 トテトテとスミレが家を出ていった。

 後はスミレに話した通り遺体を回収しておいて、あの馬鹿を捕らえておく。使い方は説明欄で見たから大丈夫なはずだ。駄目そうなら説明書を確認しよう。鳥籠を取り出しておいて刻印を打っておいてっと。


 まずは男の方を回収しようか。

 家の裏側で苦しんでいる男に鳥籠を当ててみる。文章で見た限りはこれで何とかなるはず……あ、籠が光り始めた。男の体も同じく光って……小さくなって消えたな。


「これ……は……」

「ああ、俺の持っている魔道具だよ。お前から聞きたいことは山ほどあるからな」


 鳥籠に入るほどの大きさだから声も小さい。

 大声を出す元気もないからって言うのは有りそうだけど騒音で寝れないとかは少なそうだな。これの中に入れたら中からは出られない代わりに体の回復は早くなるらしいし、何より少量のご飯を入れるだけで済むから食事代が嵩んだりもしない。後、一番に重要な能力が……まぁ、それは元気な時に試してみればいいか。そのためにも先に鳥籠に出しても支障がない程度の魔力を流しておく。これで準備は万端だ。


 騒がれても面倒だからクルクル回しておいた。

 この間に至る所にある盗賊の死体を全部、回収してから雑に鳥籠を振りながら家へと戻る。スミレが鳥籠を見て驚いていたけど中にいる人の顔を覗いてからは近づこうともしなくなった。多分だけど盗賊だって気が付いたんだろうな。一応、触らないでとは言っておいたから後は大丈夫だろう。


「クリーン」


 これで体中の血を全部、取っておいた。

 後は……そうだな、スミレに頼み込んで休ませてもらおうか。寝たとしても一日程度だろうし、起きてからすぐにテントを使って美味しいものを作ってあげよう。さすがに……ちょっとだけ眠い。感情に流された結果がこれとは笑えてしまうな。


「ごめん、ちょっとだけ昼寝する」


 寝具を取り出してセットしておく。

 ポーションは……飲まなくても何とかなる気がするからいいや。こういう時こそ、幸運を当てにしないとね。……単純に遠い未来の話だから機能していない可能性もあるけど。矢の時だって何だって危険が迫る数秒前だったし。でも……温存できるのなら残しておきたい。


「……本当に大丈夫ですか?」

「ああ、魔力がちょっと足りないだけだから」


 スミレの頭を撫でてから外に出る。

 すごく嫌な臭いが辺りに漂っている。血の臭い、戦場ではこれが当たり前なのかな。その中でトイレをするのは……背徳的で良い気持ちはしない。でも、気にしたら負けか。今回の件でより生死は身近に感じられたな。きっと、こんな状況、これからは当たり前になってくるんだろう。本当は慣れない方がいいんだろうけど……そうも言っていられないよね。


「おやすみ、明日の朝までには起きるよ」

「起きないと怒りますからね」

「はは、それは怖いな。……頑張るよ」


 もう少しだけ駄弁っていたい気持ちはある。

 でも、ベッドの上に座ったせいかすごく眠い。横になったら……すぐに眠ってしまいそうだ。少し寂しそうにしているから……早く起きてあげないと。やらないといけない事があるんだ。それに寝ている間に責められたら元も子もない。その時は……きっと幸運が起こしてくれるさ。


「おやすみなさい、お兄ちゃん」

「ああ、おやすみ」

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