2章28話 人では無い何か
「スミレも行くのなら……準備がいるな」
常時、守ってあげるのは不可能だ。
確かに鍛錬のおかげで人並み程度には戦えるようになったかもしれい。となると、何かしらの防衛策が必要になってくる。人を殺す事には抵抗感があるだろうが……やはり、弓でどうにかしてもらうか。
「ウル、スミレの影に入っていてくれ」
「護衛……ですか」
「そそ、ウルなら信頼出来るからな。戦いの場面になると何が起こるか分からない。もしもの時に対抗出来る手段があった方がいいだろ」
まぁ……使わなければ尚いいけど。
この反応からして少しだけ不服そうだな。。それなら少しだけでも詰め方を教えておいた方が得か。いやいや、そんな時間は取れないし……何よりスミレの手を汚させないのが一番だ。出来れば戦いなんて関係の無い平和な生活を送ってもらいたいし。それこそ、日本での生活みたいにね。
「これは本当に、念のため、やっただけだ。本音を言えば、俺はスミレに戦って欲しくないからね。でも、スミレが苦しんだり殺されるのはもっと嫌なんだ」
「……分かりました。一応、持っておきます」
表情は芳しくないな。
うーん、俺と親を重ねる当たり戦闘に対して強いトラウマを抱えているのか。……やっぱり、俺ではスミレの心の闇を払えなさそうだな。多少でも村から連れ出せる何かを見つけられればいいなとか考えていたが十中八九、無理だろう。
ただ、それなら余計に頑張らないと。
戦いたくないスミレのために俺が本気で頑張って一人で生きていけるように、もしくはスミレの両親と再開させられるかのどちらかを達成させられればベストだ。だけど、俺にそんな難しいことが出来るのかな。……いや、問題は出来るかどうかじゃないか。
「難しく考える必要は無いよ。何度も言うけど俺がスミレを守るからさ」
「……はい」
頭を撫でてあげたら少し頬が緩んだ。
これはアレだな……口にした俺が悪いんだけどプレッシャーが酷い。自分を追い込まないと先に進まないのはあるけど俺の持つ不安を消す要素はどこにも無いからなぁ。勘が危険信号を出していないだけまだマシか。
「やることも決まったのなら早く出よう。善は急げって言う諺があるくらいだからな。ボヤボヤしている暇は無いぞ」
「善は急げ……ですか」
「そうそう、良いと思った事は早く行動しようってことだったかな。今の最善策がスミレの両親が帰ってくるかもしれない家に戻ることだろ」
思い立ったら即行動。
何もしないで何かを得られるほど甘い世界じゃない。それはこの世界でも、日本でも同じだったはずだ。村で変なものを作られたり、スミレの家にあるかもしれない痕跡を消されても困るからな。ましてや、ずっとここにいるってわけにもいかないだろう。
スミレを連れて村の方向へと向かう。
出たら短剣を構えておく。今回からは回復の短剣を転移のナイフに変えておいた。使える場面が回復の短剣の方が少なさそうだからな。多少の違和感はあるけど使えないレベルではない。これからはこの二つで戦うのがメインになるだろうし今のうちに慣れておこう。
「それじゃあ、乗ってくれ」
「また……ですか?」
「ああ、出来ればバレないで村まで行きたいからね。こうしてくれないとスミレの気配を消すことが出来ない」
今回も背負ったままで村まで行くつもりだ。
じゃないと途中でバッタリと敵に会った時に困るからな。片手が埋まるだけでもかなりのアドバンテージを相手に渡すわけだし。先に気配を探られるとなれば以ての外だ。先制できるっていうのは確実に一撃を与えられるのと同義だからな。
「今度は支えてやれないからな。だから、しっかりと掴まっていてくれ」
「はい、でも……加減はしてくださいね」
加減をしてくださいって当たり前だろうに。
走ってもいいけど音も気配を探る一つの手段だからな。念には念を入れておいた方がいい。まぁ、急ぐために音が出ない程度には走らせてもらうけどね。それで振り落とされないように注意喚起をしただけだ。少なくとも……今の俺は完全回復した状態に近いからな。洞窟に行く時よりも格段と早くなるぞ。
「行くぞ」
足に風魔法を纏う。
普通の速度上昇に加えて無音を入れたものだから足音はかなり軽減されるだろう。魔力消費は多くはなるが今の俺には何の問題にもならない。新島と命懸けの戦いをしたおかげか、MPが馬鹿みたいに増えているからな。
速度だけDまで上がっていて他はE程度、ウルのステータスの数割が加算されているのにこれだからね。元が元だっただけにすごく強くなったように思えるけど魔物使い系統がどれだけ弱いのかよく分かるよ。でも、全ては使い手次第だ。強かろうが池田のように、おツムが弱ければ弱かった俺にさえも簡単に負けてしまう。
残り数百メートルってところか。
ここまで来る間に盗賊は見かけなかった。ところどころに殺されたであろう村人達の遺体はあったから盗賊に慈悲を与える必要が無いことだけはよく分かったよ。何も正義のヒーローなんかになりたいとは思わないが、それでも俺は人間らしさや自分らしさを捨てる気は無い。
女を犯し、男を殺し、金や食料を盗む。
もしも、最後の一つだけならば俺も共感は出来たかもしれない。生きるために盗みを働くのは最後の手段として考えられなくはないからな。でも、欲を満たすために他の二つに手を出したら人として終わりだろうに。そう考えると、あの時のように躊躇いの欠片も湧かないな。俺が今から戦うのは人間では無い。
人の皮を被った獣。
人を襲う獣は殺さないといけないよなぁ。
「……酷いな」
木の影から見た村はより悲惨だった。
逃げていた村人らしき存在が何人も連れて行かれ、そして広場のように開けた場所では木に括り付けられた男だっている。中には逆さまに釣り上げられている老人もいた。口から何かが漏れているのを見るに……さすがに死んでいるか。
これは逆に運がいいな。
村を出る判断をしていなければ、すぐにスミレのもとから離れていたら……こうやってスミレも苦しんでいたのかもしれない。ただ殺されるだけじゃなくて森で見かけた女性の死体のように蹂躙されて、ゴミ屑のようにされていた可能性だってある。
「ちょっとだけ目を閉じて待っていてくれ」
「うん……終わったら教えてね」
「ああ」
こんなのスミレには見せられたものではない。
盗賊が死ぬのは別に見ていてもいいとは思う。教育上は悪いがスミレには見る権利があるからな。だけど、俺が人を殺める姿だけはワガママではあるけど見て欲しくない。だって……スミレに嫌われたくないからさ。一度、スミレを下ろしてから転送のナイフを一本だけ懐に入れておく。これで何かあっても策はある。さてと、サッサとアイツらを殺させてもらおう。
「転送」
「なっ!」
投げナイフで盗賊の頭を貫いた。
すぐに転送で男と俺の位置を変えて隣に座って笑っていた仲間の首を掻っ切る。すぐにコイツらが眺めていた括り付けられている男を助けようとしたが……する必要もなかった。既に命は尽きていたからな。死んでいる男の前で尚、笑いながら話をしていたと思うとタガが外れているんだろう。
男の頭に刺さっている短剣を回収。
そのまま近くの盗賊目掛けて投げる。次いで二本目、三本目と他の場所にいる盗賊へと投げておいた。今度は貫いて地面に刺さってくれたみたいだ。俺の狙い通り動いてくれるのは幸運の高さからか。
「テメェ!」
「お命、頂戴しに来ました」
目視しただけで二十人はいるかな。
他にもいるかもと考えたら草の影にスミレを隠して正解だったかもしれない。勘が何も伝えて来ないあたりコイツらは全員、雑魚だ。ただ、それで油断をするのは厳禁だな。時間をかけてスミレを見つけられでもしたら最悪だし。それに待っているだけのスミレが退屈をしてしまう。
「死ねぇ!」
「お前がな」
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