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2章18話 カレーは飲み物なのかもしれない

「もうちょっと時間がかかるけど美味しいって感じて貰えたら嬉しいかな。俺もそうだったけど子供は皆、これが好きだっていうほどの人気があるものだったらしいし」

「……すごく楽しみです。少し前までは薬草で胃を満たしていましたし……今、漂っている匂いだけでも美味い事はよく分かります」

「はは、それは早すぎだよ。でも、楽しみにはしていて欲しい」


 ピーっという高い音が響いた。

 驚いたスミレの顔を見てからアラームを消して、すぐに例のアレ……カレーのルーを入れる。ここからはより集中しないとね。見ていなかったら焦げてしまうし、吹き出してしまう可能性だってある。アラームを十分にしてからかけ直して……適当な大きめの皿を取り出す。


 掻き回しながら欲しいアレも探しておく。

 とりあえずパックのご飯は見つけた。でも、これでは無いんだよなぁ。……あ、でも、その近くにあったわ。これは最後に入れるからキッチンに置いたままにしてご飯をレンジにかけておく。出来たものから皿に置いていってっと。


 俺は二つ、スミレは一つでいいかな。

 その分だけルーを多めにしてあげよう。今更だけど爆弾としてピーマンを入れても良かったかな。まぁ、それは後々でいいか。個人的に好きだった生卵やチーズのトッピングは無しだ。量は多めに作ったから次の食事の時に食べればいいし。


 再度、アラームが鳴った。

 すぐに消してお玉で一掬いしてみる。キチンとドロドロとしていて……うーん、美味しそうだ。匂いも市販のルーだから失敗は無いし。そして出来たものにちょっとだけ隠し味を入れておく。実際は意味があるのか分からないけど入れて悪いことはないからね。ソースを少しだけ入れて……後は盛り付けて完成だ。


「ごめん、待たせたよね」

「いえ……良い匂いに浸っていました」


 笑っているけど気を遣っていないだろうか。

 薬草ばかり食べていたって話もしていたから個人的には幸せな気持ちになってもらいたいんだよね。こういう香辛料たっぷりなのは初めてだろうし美味しいって思ってもらえるのかな。色々と気になることはあるけど……甘口のカレーなら俺の期待に答えてくれるはずだ。


 スミレの前に並べてスプーンを置いておく。

 自分の席の前にも同じように置いて……後は座って食べるだけだ。スプーンを手に取って手を合わせて静かに目を瞑る。


「いただきます」

「い、いただきます」


 スプーンで掬って口に運ぶ。

 味は……うん、すごく美味しい。この味は確実に異世界なら食べられないだろうな。それだけ香辛料が効いていて美味しい。個人的には辛味がもう少しだけ欲しいけど甘くて不味いということはないからね。ただただ俺はこの味を楽しむだけだ。


 もう一回、掬って口に運ぶ。

 食べる前に口に運ぶのを躊躇っていたスミレに笑いかけておいた。別に毒が入っているわけでもないのだから我慢する必要は無いのに。でも、俺が笑いかけたからか、気持ちも和らいだのだろう。小さく「ふぅ」と息を吐いたかと思うとカチャと金属音する。その後からスミレは何も喋らなくなってしまった。


 ただただ響くのは俺とスミレの食べる音だけ。

 本当に我慢していたんだろう。スミレからはずっとカレーを頬張る音しか聞こえない。俺も感じる強い空腹に身を任せて皿にあるカレーを胃に流し込んだ。今なら言える、確かにカレーは飲み物かもしれない。




「まだ食べたい?」

「……さすがにお腹がいっぱいです」


 皿の上が空になったから聞いてみた。

 見た感じ遠慮しているようには思えないかな。椅子の背に身を任せて小さなお腹を摩っているし。俺も少し多めに盛ったせいか、痛くなってきた。それに安心したせいで一気に疲れも出てきたしな。


 完全に治っていないのに無理して戦って、魔力を捻り出してここまで逃げたのだから当たり前か。となると……次は歯を磨いてからシャワーかな。備え付きの風呂場は日本式の物だったしスミレにも教えておかないといけなさそうだ。


「次は歯を磨こうか」

「歯を磨く……そんな高い物も持っているんですか」


 えっと……そんな事に驚くのか。

 別に温泉の鏡台の上にもあったし個室の風呂場にもあると思うんだけどな。俺からしたら二百円もあれば買える物だったし。そんな生活必需品でさえも高価な扱いを受けているのか。


「多分、あると思うよ。逆に聞くけど歯を磨いた事とかは無いの」

「……農民からしたら草と水で歯を綺麗にするんですよ」

「そうなんだ……俺のいた町では銅貨があれば一月は持つ歯ブラシを買えたからなぁ」


 事実、庶民の生活は分からない。

 そもそも、この世界の生まれではないからね。当たり前と言えば当たり前なんだけど……まさか、スミレにそんな話をするわけにはいかないし。それにその話をするとなると記憶が無いという事が嘘だとバレてしまう。なら、適当に誤魔化すだけだ。


「着いて来て。説明しなきゃいけないことがあるから」


 皿を水桶に入れて階段を下りる。

 俺の真似をしてスミレも同じ事をしてくれたから皿洗いは明日しよう。今は先に寝る準備を整えたいし。たくさん寝て早く村から出られるように準備を整えておく。


 適当な一室を選んで中に入る。

 とりあえず、ここがスミレの部屋だ。いつまで一緒にいられるかは分からないけど、離れ離れになったら掃除して違う人に使わせれば良いだけ。それにスミレが部屋を汚くするとは思えないからな。安心して貸し出せるよ。


「ここに歯を磨く道具がある」


 コップの隣に置かれた歯ブラシ。

 それを一つ手に取って袋を破って見せた。何の変哲もない普通の歯ブラシだけどスミレには新鮮だったみたいで、ジロジロと外から眺めている。このまま使ってみせてもいいけど……そういう事をするくらいならもっと分かりやすい教え方をしよう。


 歯磨き粉を手に取って上に付けて……。

 そのまま部屋を出てスミレを呼んだ。分からないまま使わせると歯茎を痛める結果になりかねないからね。力加減を間違えて口の中を真っ赤っかにされても心配してしまうだけだ。なら、俺が代わりにやって教えてあげた方がいい。


「ここに頭を乗っけて」

「……へ?」


 ベットの端に座ってから言ってみたが。

 まぁ、そんな反応にはなるか。詳しい歳は分からないけど見た目通りの年齢なら中学生、色々な事を考える時期だ。こんなよく分からん男に膝枕をされるのは嫌かもしれないな。……少し勝手過ぎたか。


「ごめん……嫌だったよね。配慮が足りなかった」

「あ! 違います! そういう事を言う人だと思っていなかったのでビックリしただけです! 全然、嫌だとかは思っていなくて!」

「あ、うん」


 なんか、すごいアワアワして弁明しだした。

 ここまで来た中では見た事が無い姿だっただけに可愛らしいな。緊張からなのか、すごく俺に気を遣ってばかりだったし。だから……抱いてはいけないとは分かっているけど素直に嬉しい。


「嫌じゃないならここに頭を乗せて横になってくれないかな。せっかく準備したのにもう一回、し直さなくちゃいけなくなる」


 現に歯磨き粉が落ちかけているからね。

 恥ずかしそうにしているけど覚悟を決めたみたい。目を閉じながら俺の膝に頭を乗せてくれた。こうやって近くで見ると余計にスミレの顔の綺麗さを理解させられるな。ちょっとだけ鼻を押さえるとか悪戯してみたいけど……我慢だ。


「口を開けて」


 プルプルと震えながら口を開けてくれた。

 生まれた子鹿みたいだな。まぁ、知らない何かをさせられるわけだし怖くない方がおかしいか。この子はまだ幼いんだ。俺だって初戦闘の時はグランを怖いって思ったのと一緒。


「大丈夫、痛くしないから」


 頭を軽く撫でて震えないようにした。

 多少の震えは気にしたら負けだ。ゆっくり大きく開いた口に歯ブラシを入れて歯を擦る。念の為に「飲み込まないように」とだけ言っておいた。飲んでも問題は無いだろうけど綺麗なものでは無いからね。時折、震えるスミレの頭を撫でながら優しく歯を磨いてあげた。


 目安としては五分、本来は三分らしいけど。

 時間感覚に関しては時計があるから問題は無い。二分で上の歯を磨いて、二分で下の歯、そして残りの一分で上下の歯の裏側を磨く。我ながら初めてにしては上手いと思う。現に歯を磨いていないと言ったスミレの歯茎からはちょっとしか血が出ていないし。

宜しければブックマークや評価、いいねの程お願いします。


ちなみにカクヨム版では一話分だけ早く投稿されますのでお暇でしたらそちらもどうぞ……。

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