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2章14話 最近はカスハラが多いらしい

総合評価1000突破! ありがとうございます!

「真っ直ぐ突っ込む事は悪い選択ですか」

「いや、短剣しかないスミレはそれしか選べないと思うよ。魔法があるのなら他の選択肢も取れるだろうけど、高い効果があるとは言えない」

「なら……何を使えば……」


 そうだ、そうやって悩んでくれ。

 答えを求めることが重要なんじゃない。俺との戦いにおいて失敗する事が大切なんだ。何をすればいいかを悩んで、こうすれば打開できるって手を全てを出してみる。俺はそれを上から叩き潰すだけだ。でも、悩ませるだけが必要なんじゃない。答えを教えるのではなく気付かせるヒントを与える。そうだなぁ……例えば───。






「一つだけ言っておく。スミレは命の取り合いを重視し過ぎている。戦いの中で一番に重要なのはそんな馬鹿みたいな事じゃない」

「それって……どういう……」

「さあね、さてさて、時間だ。来な」


 大きく下がって手を上下に動かす。

 俺は馬鹿だからさ……こうしないと本来の意味での実戦は教えられない。きっと、本当の教師はもっと知識を与えられて君に戦い方を上手く教えられるのだろう。プランなんて無くとも君が笑える世界へ導けるんだ。でも、俺は教師じゃない。


 詰めの速度は少しも変わりないな。

 だが、その目に宿るのは間違い無く捕食者としての光だ。新島が俺を殺しに来た時のような策のある何かがある。それでどうして期待せずにいられるんだ。この笑みも疼きも彼女の才能を見定めたいがために動きたがっている。


 二度、彼女の短剣を弾いて背後へ詰めた。

 ここまでは先程の同じ流れ、ここから魅せてくれる景色が同じだとは言わないよな。俺を弓で見せてくれた君がどうして短剣でも俺を魅せてくれない。


「全てを風で刻め、風刃」

「はは、そうじゃないといけないな!」


 なるほど、魔法を使って距離を取らせるか。

 だが、少し前のスミレは魔法の知識すら無かったような子だ。俺が教えた事だって簡単な説明でしかない。……まさか、この短時間でイメージするという一点のみで手に入れたのか。


 ただ魔法のタイミングは一テンポ遅い。

 そこを詰めればどうとでもなるが目の前にいる少女は知識以外で魔法を知らなかった子だ。今の一瞬で俺から勝利を得るために最大の一手を見せてくれたんだよ。……でも、これに俺は甘えていられない。


風箱ウィンド・ボックス

「なっ……!」


 君が甘えられない世界を見せてやろう。

 これは俺のオリジナルの魔法だ。君が在り来りな普通の魔法で勝敗を決めようとするなら、異世界人ならではの別視点から君を見せられる技を見せてあげればいい。本音を言えば素通りできる程度の火力だけど、スミレのやる気を折りたくはないし。


 風で作り出した透明な箱の中にスミレを閉じ込めて急速に箱の大きさを小さくさせる。箱の壁がスミレに当たると同時にそれらを腰辺りまで収縮させていく。当たり前だけど触れた瞬間に腰や腕以外は出るようにしている。


 これで拘束は完了、勝敗は喫した。

 スミレの魔法も霧散している今となっては俺への対抗策は既に無いだろう。というか、膝を着いた時点で殺す手段なんて幾らでも湧いてくるわけだし。ただ、念には念を入れて首元に刃を当ててから拘束を外してやる。


「これで終わりだな」

「……それでこそ、ボイドさんです。あ、別に強いから貴方を認めている訳ではありませんよ。強くてカッコよくて優しいボイドさんだからって、私は何を言って」

「知っているよ。だから、俺は君の兄として戦闘を教えると言っているんだ。……ここから先の言葉は必要かな。俺の大切な掛け替えのない妹であるスミレに対して」


 スミレはその言葉に対して首を横に振った。

 二度、三度……その程度で勝利が確定するとは俺も思っていないさ。だから、修羅となって君を芯の底から技術を叩き込んでみせる。君に教える存在が普通だとは思うなよ。こう見えて……神すら脅したような人間だからな。


「俺はスミレに期待している。だから、もしも、スミレが俺に良い意味で思いを抱いているのなら……それに反しないように動いてみせてくれ」


 君の描く未来に俺はいないかもしれない。

 対して、俺が見る未来に君はいないのかもしれない。それでもいいさ、幼子が苦しむだけの終わった世界に終止符を打たないと俺は笑顔で未来を見ていられないんだ。君と俺の描く未来に差があろうとも俺は……。


「兄の期待を裏切らないでくれよ。スミレ」

「ええ、お兄ちゃん……!」








 ◇◇◇









「うん、やるじゃないか」

「ふふ……一手も刃を交じらせて貰えませんでしたけどね……」

「スキルに精神を明け渡す事に比べれば良い考えだったと思うよ。スキルは強さを表し見せ付ける象徴となる反面、依存してはいけないような存在だからさ」


 スキルやステータスに頼れば確実に成長なんて見えなくなってくる。グランから聞いた話だ。どのような才能を持つ者でも二つに頼った瞬間から本当の意味での成長が見えなくなっていた、と。


「君は一度たりともスキルに頼らなかった。スキルは言わば麻薬と変わらない存在でしかない。ただでさえ、スキルは技術に劣るというのに魅力だけで言えば強度を超える」

「それって……よく分かりませんが……もしも、私がスキルの魅力に惹かれていたら……」

「俺はスミレに興味を失っていたよ。君がどれだけの才能を持つ人間であっても基礎が成り立たない存在に価値は無いからさ。……裏を返せばスミレは俺の求める基準を満たしたんだよ」


 妹相手だ、完全に失いはしなかったと思う。

 ただ、今のような高揚感は確実に得られないままで少しずつ興味を失っていたかな。教える立場において教える立場において教えるモチベーションの有無は軽く済ませられるものでは無い。


 それにスミレに伝えた言葉を彼女自身が分かってくれたとは未だに思っていないからなぁ。そこら辺も加味すれば確実に……いや、興味を失わないでいられるわけも無い。まさか、二人から教わった事がこうも活かせる環境にいられるとはね。


「さぁて……ここからは腕が鳴るね。弓や剣に加えて魔法も教えないといけないのなら手を拱いてはいられなさそうだな 」

「えっと……」

「大丈夫、スミレが不安がる理由なんて無い。教えると言ったからには、いや、スミレが俺に興味を与えてくれている中で離れることは無いよ」

「そう、ですね……! 頑張りまする!」


 軽く抱き締めて頭を撫でてあげる。

 本当に……俺は最低な人間だな。だけど、今更、自分の考えや行動を変化させる気も無い。俺は伽藍堂なボイドであると同時に、未詳なショウでもある。だから、これは後顧の憂いを断つための行動以外の何ものでも無い。そう、ただそれだけだ。


「そうだな、一先ずは弓を鍛え上げるか。その後で短剣を育てたうえで魔法を扱えるようにする……やっぱり、簡単に出来る話では無さそうだ」

「ボイドさん……?」

「ああ、ちょっとだけ目算していただけだよ。俺が教えるだけでどこまで伸ばせるか……って、考えたけど俺だけじゃ無理そうだ。単刀直入に言わせてもらうよ」


 ここから先に話すのは俺の興味本位。

 どうなって欲しい、というよりは、どこまで伸ばせるかが主となってしまっている。元からスミレよりも俺の思いがメインとなっていたのに、完全に俺都合の話になってしまう。だけど、伝えない訳にもいかないよな。


「俺がいない日は一日中、鍛錬の時間だと考えて欲しい。今回のように鍛錬と休憩を何度も繰り返す事となる。ああ、その間の食料も回復薬も俺がどうにかするから気にしなくていい。スミレが頑張るというのなら他の部分は全て俺がどうにかする」

「それは……」

「スミレの才能は俺が想像していた以上だ。だからこそ、それを伸ばさないのは教師としての恥。というか、お兄ちゃんとしての恥だ。ただ、妹に無理強いをする訳にもいかないから無理なら幾らでも簡単に」

「ボイドさんは知っていますよね。私は……そんな事で怯まないって。認めてくれる、強くさせてくれると分かっていて……甘さに溺れる気なんて少しもありません」


 知っている。知っていて聞いたんだ。

 何事も覚悟が必要だし、言葉だけであっても覚悟の有無を測るのも必要な事だろう。グランもよく俺に訓練の強度を高めていいか聞いてきていたからな。フィラは……あのクソババアは知らね。聞かれずとも鍛錬の量を増やされたし。


「ああ、その言葉を期待していたんだ。今はどの場所も客が第一らしいからなぁ。当たり前の事、普通の事でも筋を通さないと俺がスミレに教えられなくなってしまうんだ」

「どういう意味ですか……?」

「いいや、気にしなくていいさ。今のは俺が俺を慰めるための言葉でしかない。いや、スミレを鍛え上げられると知った事に対する興奮から滑らせたのかもしれないな」


 俺はもとは普通の日本人でしかない。

 そこから受け継がれた知識というか、もっと言えば菜奈から聞いた世間話というか……グランの愚痴も多分に交じっているけど、そこら辺が勝手に喉から出てしまっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。


「じゃあ、今日はもう終わりだ。スミレには覚えてもらいたいんだけど何事も緩急が大事なんだ。よく働いたら、よく食べて、よく寝る。それが成し遂げられてこそ、毎日を頑張れるからさ」

「……分かりました。今日はもう終わります」

「今日、だけじゃ駄目だよ。俺が言った事よりも多くやるのすら駄目だ。そのために君と戦って限界を測ったんだ。君よりも俺の方がスミレをよく知っている」


 これはただの忠告でしかない。

 スミレがどこか焦っているのも察してはいる。十中八九で両親が関わっているのだろうから……まぁ、そこら辺の内的要因を歪める必要までは当然だけど無い。俺は俺の、スミレにはスミレなりに頑張れば良いだけだ。

ショウにとっての都合の良い言葉が「お兄ちゃん」になってきていますね。別に出会って二日目だというツッコミは無しでお願いします。きっと、存在しない記憶に踊らされているのでしょう(作者が)。


よろしければブックマークや評価、いいねの程お願いします! 1000を超えたので次の目標は総合評価1500越えです!

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