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2章12話 教鞭を執る覚悟

「十中四、うん、いいんじゃないかな」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、初めてにしては上出来だと思うよ。他の人がどうとかは分からないけど、初めて持ったにしては当たり方が普通では無いからね」


 というか、俺がガチャで出した疾風の魔弓を軽く握っただけで扱えている時点で普通どころか、天才の域に達していると思うけど。確かに能力や撃ち方、後は簡単な魔力の操作方法とかの基本的な事は教えはした。でも、それにしたって理解が早過ぎる。


 疾風の魔弓の能力は至ってシンプルで魔力から矢を作成して貫通を付与させるらしい。だから、基礎が問題無いのなら扱いに困りはしないだろう。それでも矢自体は魔力を上手く扱えなければ作り出せない魔道具だ。それだけで彼女の才能を認める理由にはなるだろう。


 俺が教えたのは全て言葉による座学だけ。

 裏を返せば体感的な魔力の操作は彼女自らがどうにかして行ったもの……俺が言うのも何だけど末恐ろしさすらある。きっと、フィラが見たら身震いするくらいの才能が……いや、だから、幸運は俺と彼女の関係を……。




「スミレ、後何発くらい撃てそう」

「えっと……確実に言えはしませんが四十は問題無く撃てると思います」

「それなら四十発撃ってくれ。こういう時に得られる感覚は早めに定着させた方がいいし、何より魔力が枯渇する事で得られる効果も高いからな」


 詳しく言えば枯渇状態に近くなれば、か。

 フィラから聞いた話によると体力や魔力がゼロに近くなればなる程に、体は普段よりも早い回復速度で治癒させようとするらしい。だが、対して回復する時間は普段と同じ程度……そうなると余分に体は二つのステータスを回復させてしまう。


 その結果が上限の上昇に繋がるらしい。

 高ランク冒険者の殆どが死にかけた話、もとい、武勇伝が多くあるのはそれが理由だそうだ。まぁ、中には武勇伝すら無い本物の化け物もチラホラといるようだけど……そこはどうでもいい話か。


「魔力が尽きかけたらポーションを飲んだ後で五時間程度の休憩に入る。言ってしまったら仮眠を取るって感じだね。その後で次は短剣の訓練だ」

「ポーション……いえ、そんな高価なもの」

「掃いて捨てるほどあるんだ。飲まないのなら地面にでも流して捨てるけど」


 まぁ、掃いて捨てるほどは持っていない。

 ただ、ガチャで引いて見た感じ出現確率はそう低くは無いからな。そこら辺を加味すれば演出の一環として本当に流して捨ててもいいかもしれない。とはいえ、昨日の話からして人並み以上に頭の良いスミレだったら無駄な事をせずとも……。




「……分かりました。ボイドさんなら本当に捨ててしまいそうですから頂かせてもらいます。代わりを求められても何も返せませんよ」

「別にいいよ。戦闘技術を教えるって言ったのは俺の方なんだ。ポーションの一つや二つ程度で何かを求めたりはしない」

「普通は……魔力回復の効果を持つポーションなんておいそれと使える物では無いんですけどね。体力回復ポーションと比べれば、薬草の量も質も必要な種類すら桁違いですし……」


 うーん、薬草採取していただけはあるな。

 ただ……俺の場合はそこら辺を省いて手に入れられるから本当にどうでもいいんだよね。将来的にポーション作成に関わる可能性があったとしても今の俺には関係の無い事だ。まぁ……スミレとの関係が切れないのなら可能性はありそうか。


「常識も持たないままで放浪を続けていた俺が気にすると思うか」

「……こんな一級品の魔弓を練習用として貸すくらいの常識の無さですもんね。私が壊してしまうとは思わないのですか」

「別に壊れても問題無いから貸している……というか、あげるつもりだったから気にしなくていいよ。ああ、この弓に関しては要らないから受け取れないというのなら谷にでも」

「受け取ります。だから、そういう冗談はやめてください。こんな物が悪党の手に渡ってしまえば多くの命が奪われてしまいます」


 そんな事になりはしない……なんて説明をスミレにする必要は無いか。所詮は生き残れる確率を高められるように準備を整えているだけだ。その弓にだって戦闘を教えると言った時に俺とスミレ以外は使えないように刻印を打ってある。


「なら、奪われないように上手く扱うんだ。価値が分かるのなら強くなれ。その弓に見合うだけの存在になれば誰もスミレを馬鹿にはしない」

「ええ……任せてください」


 一瞬だけスミレの目が赤く光った。

 同時に放たれた矢は俺が作った的のド真ん中を撃ち抜いた後で……括り付けていた木を粉々に砕く。恐らくはコレが幸運の見せたかったものなんだろう。こんな事が出来るのは……固有スキルの類だろうからな。


「じゃあ、次からはこれを狙ってくれ」

「……指を叩いただけでこれ程の土壁を作るなんて本当に非常識ですね」

「今の出来事を引き起こした存在が言えた事では無いと思うけど。それにかなりの魔力を混ぜ込んだから先程までのやり方で刺さるとは思わない方がいいよ。魔弓の能力が確実に発動出来るようにする、それだけで戦闘が極端に楽になるからさ」


 この子の近くに飛ばされた事に意味があるのならそれはきっと彼女の才能の高さ故だ。そんな存在に教鞭を振るえるというのは俺としても胸を張れるってものだよ。……まぁ、出来れば人に教えるのなんて最後にしたいけれど。


 こんな偏見塗れの教えを伝えられる生徒がどう育つのかなんて目に見えている。記憶すら持たないままで生きているような、それこそ、自分の望みのためなら人を殺せるような俺だ。そんな人間なんて日本にすら……居場所は無い。


 まぁ、そのために俺はこの世界にいる。

 きっと、こうやって人並み以上の能力を与えられた事にだって、そんな社会不適合者の俺を救うためにあるんだろう。まぁ、過去の俺を知らないからどこまでが俺の範疇なのかすら分からないけど。






「はぁはぁ……一発も貫けなかった……」

「四十中五発、能力を使う事に意識を向けさせ過ぎたか。ただ……どれも悪くは無い」

「……当たらなければ意味はありません。火力が無くても同じように意味はありません。ボイドさんが望んだ事を出来なかった時点で私は」

「ふぅん、てぃっ!」


 軽く人差し指で額を弾いておく。

 少し強くし過ぎたか……いや、痛みが無いよりはあった方がいいだろう。そういう悪い考えは無いに越した事が無い。二兎追うものは一兎も得ず、最初から全てを望むなんて愚の骨頂だ。


「俺が望んでいるのは期間中に一定の基準を満たす事であって、その基準をスミレに定められる筋合いは無いよ。俺の事を考えるのは勝手だけど考えを推し量った気でいられるのは不快だ」

「それ、は……」

「どこまで行って欲しい、どこまで行けるだろう、それを自己評価するのは良い事だよ。ただ、それが他者評価に繋がるとは限らない。俺の求める基準にスミレが到達出来なかったのなら、俺に教える才能が無かっただけに過ぎないよ」


 人の才能を見抜くのも、その才能を最大限まで引き伸ばすのも教師の役目だ。その一環として御褒美の意味合いを持つトークンだったり、何だったりがあるだけ。……俺の仕事は今から始まったと言っても過言じゃない。


「俺を信じろ。俺がその誰よりも高い才能を引き伸ばしてやる。非常識な俺が非常識な化け物を作り出してあげるよ。それだけの事を俺は出来るって自信があるからな」

「えっと……はい……!」

「まぁ、泥舟に乗ったつもりでいてくれ」


 ポーションを投げて渡してやる。

 それを飲んだのを確認してからスミレを抱き上げてベッドの上まで運んだ。そのまま生活魔法で歯を含めた体全体の汚れを落とした後で毒魔法を使う。これで簡単に眠気を誘えるはずだ。魔力が少ない事による苦痛で眠れなければ意味が無い。


 さてと、ここからは俺の出番だ。

 弓の訓練に必要なスケジュールを作っておかないといけない。学ぶ手順、必要な事と不必要な事、付属で教えるべき事……何と言えばいいか、才能も知能も高い分だけ作るのが難しいな。これを午後の短剣術でも作らないといけないのか。


 はは……面倒臭いけど、ワクワクしてくる。

 パソコンがあればどれだけ楽だったか。できれば一枚の紙でまとめて作りたいけど……そんな事が出来ない前提で動いた方が楽でいい。頭の中でまとめて全てを言葉で伝え切る。期間として定めるのは一週間程度かな。


「君がどんな大人になるのか、どんな大人になって欲しいのか……これが親心、いや、お兄ちゃん心かね」

「ボイド……お兄、ちゃん……」

「……はは、ああ、ここにいるよ。君が俺を信じてくれるのなら俺も君を信じる。君が頑張れる子だと思って俺は……お兄ちゃんは頑張るよ」


 注ぐ心は熱血で、思考回路は冷静で。

 何だ、即興で考えたモットーとしては悪くないじゃないか。確かにスミレとの関係は一時のものでしかない。でも、それで奈菜と区別を付ける必要も無いだろう。奈菜への想いと同じくらいの気持ちを彼女に注ごう。

作品は作者の知識に依存するとはよく聞いた話ですが書けば書く程に強く思いますね。まさか不必要だと思っていたオタク知識が活かされていくなんて思いもしませんでした。やっぱり、小説を書くのは暇潰しとしては良い趣味ですね(適当)。


プロットも出来た事ですし今年中に二章を終わらせるつもりで書く気でいます。モチベーションが続く事が前提ではありますが五十話程度で終わらせる気でいるので……もしかしたら、三章まで入れるかもしれませんね。気長に待って頂けると助かります。




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