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2章8話 事前準備

「放浪者様は……どうしてココにいらしたのですか」

「あー……俺は鍛錬を積むために旅を始めたんだ。この子は俺が幼い頃から生涯を共にしてきた魔物でね。どうせ旅を始めるのなら一緒に、と思って連れて来ているんだ」

「そうなんですね……魔物を従えさせられるのは魔物使いだけかと思っていましたが、だとしたらウルフを一瞬で切り刻めるとは思えません。職業以外で飼い慣らしているのなら納得です」


 この子……多少は戦闘面の知識があるのか。

 となると、家族の中に兵士や騎士、冒険者あたりがいるのだろう。ただ、騎士の家系ならば今の話で迂闊に情報を与えるわけも無い。人並みにマナーやモラルは叩き込まれているはずだからな。


 それなら……冒険者の方が可能性が高いか。

 だとしても、やっぱり、魔物使いというのは人から見れば下に見られる職業なんだな。この世界で生き始めて薄々と感じていた事だが……魔物使いというのは本当に弱い。上位職である召喚士でさえも微妙だからな。


 だってさ、魔物を倒せなければ強くなれないのに倒した魔物を仲間に出来る可能性があります、が魔物使いだよ。そこに使役できる魔物が普通なら一体と定められていれば涙しか出ない。使役出来ても戦士並みに強くなれるわけでもないし……。


「か、悲しい顔をしてどうしましたか」

「あ、ああ……この子のためにも魔物使いの職業に就こうか悩んでいたんだ。今の発言で余計に辞めた方がいいって分かっただけだよ」

「そ、それは……すみません……」

「いや、常識的に考えて魔物使いは不遇職だから君を攻める気は無いよ。この子が言う事を聞くのだって俺を好んでの事だろうし、別に不遇職に自分から就く必要は無いんだ」


 それを聞いて少女の顔は晴れた。

 でもな……その不遇職になるために圧倒的な立場からミカエルに『魔物使いにしてくれ』って頼んだんだぞ。ここまで生き残れた事が奇跡だとしたら尚更、他の職業にして貰った方が良かったんじゃないかって思えてくる。


「そう言えば君……ああ、そんな呼び方だと良くないね。俺は……そう、ボイドって言う。この子はウル。君の名前は何て言うのかな」

「わ、私はスミレって言います」

「銀色の長髪、優しく大きな垂れ目……確かに名前に違わない美しさがあるね」

「そ、そんな事……ありません……」


 おうおう、頬を赤くして可愛いですねぇ。

 こういうのを見ると少しだけ幸運を高くして良かったって思えてくるよ。そして尚更、こんな子を相手に威圧的に接していた自分に嫌気が差してくる。見た目相応の幼さがあると分かっているのなら威圧する理由は無いだろ。


 だけど……悪いな、偽名を使わせてもらう。

 ショウなんて名前を使って周囲に広まってしまえば新島がどう動くかなんて分かりはしない。これはスミレを守るための行動でもあるんだ。ボイド、名前の通り俺は伽藍堂でしかない。その中に小さな感情が積み重なり始めているだけ、他に理由なんて今は要らないだろう。


「スミレはさ」


 そこからは軽い雑談をして時間を潰した。

 スミレの速度に合わせて二十分程度、それだけ経ってようやく目の前に三メートルはある木の柵が見えてくる。大きめな門が見えたが別に閉じられている訳でも無いから簡単に通れた。衛兵もいない辺り不用心極まれりだな。


 だけど、その不用心さに今は助かっているから下手に何かを言えた立場では無いか。もっと言えばスミレの言うように魔物が周囲を通るような事すら無かった平和な村なのだろう。……その割には中に入る事を勘が否定したけど気にしては無駄か。


 ここから先に選択を誤ってはいけない何かがあるのだろう。その選択を誤れば……幸運の性質上、持ち主である俺の命に支障をきたすか。それならそれでいいさ。どのような結果になろうと早く死ぬか遅く死ぬかの違いでしかない。


「あ、あそこが私の家です!」

「これは……うん、そうか」


 連れて行かれた家はボロボロの小屋。

 十二畳程度の一室しかない狭い家だった。それも壁がボロボロなせいで外から覗こうと思えば簡単に中の様子を見られるくらい薄い。端的に言って幼い少女が一人で暮らしていい空間では無い。


 ここら辺は……まぁ、何とかしてやるか。

 風魔法で声の有無を消す事は出来るが範囲内に入られてしまっては効力も消えてしまう。今だって俺とウルだけ影魔法で気配を消しているからな。姿を見られたとしても看破できるだけの魔力探知が無ければ違和感すら覚えないだろう。


 だからこそ、余計に改築は必要だ。

 外装だと不審がられるだろうから内装だけを少しだけ強固にするってところか。それに秋風が吹き始めている今の季節は少し辛いだろうし、そこら辺だけサービスしてあげても文句は言われないだろう。


 ええと、確か少し前に……と、あったな。

 一瞬だけローブに魔力を込めて気配をより感じ取られないようにする。その状態で一つだけ水晶玉を砕いてからローブの効力だけ消した。こういう時にガチャの強さを再実感させられるな。もしかしたら俺がスミレと出合う事も考えて手に入れられたのかもしれない。


「狭いですが……」

「問題無い、これから広くなる」


 中に入ってすぐに地面に手を付けて一気に魔力を流す。予定通り、壁の内面から土が迫り出して新たな壁を作り出す。窓や扉を避けたイメージをしたとはいえ、ここまで想像通りに出来るとは……本当にフィラの話に付き合ってやった甲斐があるってものだ。


 あの人は面倒臭くて菜奈を敵対視するようなクソババアな一面はあるが、誰よりも魔法に対して理解があって様々な事に対する知識の量も化け物クラスにある人だからな。そんな人が軽く話した内容であっても俺からすれば真面目に聞いた方が良い事も多くある。今行使する魔法も彼女の事前知識があってこそだ。


 このまま壁への意識を解いて地面へ向ける。

 イメージとしては二つ程度の小部屋があればいいか。片方は逃げ込めるように俺とスミレ以外は開けられないように刻印を打っておこう。現に家の中には誰もいなかったからな。俺が作る下の階層くらいは好きに設定しても問題は無いだろう。


「す、ごい……!」

「言っただろ、広くなるって」


 空いていた空間の地面に階段を作った。

 これで俺のイメージ通り上手く作られているのなら十二畳程度の部屋が二つ作られているはずだ。ここで幸運が否定しないという事は上手く作られているのだろう。


 奥の方にあった寝具に手をかけて回収する。

 スミレが驚いたような顔をしていたけど俺が階下へと進み始めると静かに着いてきた。こういうところで素直というか、スミレの頭の良さを感じてしまう。聞いたところで答えてくれるか分からないのなら見て知ろう、そう考えたってところか。


「これは……?」

「自由に過ごせる空間……として作ったが土で作った椅子や机だけでは簡易過ぎたか。まぁ、雑用を済ませるためにでも使ってくれればいい。本題は奥のこっちの方だ」


 女の子一人が住むには少し広い程度。

 それでも一人で薬草を取りにいかなければ生きられなかった少女には丁度いい褒美だろう。バラされたところで背負うのは俺ではなく、ボイドという別の存在だし。こういう時に文明が発展していなくて良かったと思えるよ。


 ただ……やはり、魔法というのは凄いな。

 魔力という代償はあるけど簡単に家や部屋を作り出せてしまうんだ。これだって手に入れたばかりの土魔法を行使したに過ぎない。使った魔力だって三十に満たないから本当にコスパがいいよ。


「陽の光がある……?」

「土魔法の応用だ。地中にある微かなマイカ雲母を砕いて二メートル程度の陽の光が差す道を作り出しただけだな」


 そこに加えて本当に一センチ程度の穴が幾つか外へと繋がっている。ここら辺は魔力等で固めているから勝手に壊れる事はそう無い。問題は埋まる事だが……二十も穴があれば多少は埋まっても問題は無いだろう。一つは家にも繋がっているからな。


 その空間に彼女が大切にしているであろう物やベット等を出しておく。ここまでしておけば今いる空間が休むのに適しているとスミレも分かってくれるだろう。……別にコミュニケーション能力に長けている訳では無いからな。これで分かってくれるのなら俺としても有り難い限りだ。


「さて、そっちの部屋で話していた質問を始めようか。なに、本当に世間知らずな俺が知りたい事を聞くだけだ。こんな言葉では信用出来ないかもしれないが……安心してくれ」

「……ふふ、大丈夫ですよ。命を救ってくれて、こんな事をしてくれる優しい人が……私を貶すわけが無いと分かっていますから」


 面と言われると恥ずかしくなってくるな。

 まぁ、信用してくれる分には俺としても接しやすくて楽だからいいか。どこか苦しげなスミレの表情に花が咲いたんだ。見て見ぬふりをしてきたが彼女はきっと……いや、深く関わるのは愚策だろう。


 俺は……菜奈を救って一緒に暮らすんだ。

 そこにスミレを救うという願いは無い。それでも序でだろうと叶えられるのなら……彼女が毎日を美しい花を咲かせていられる日常へと変えてやるのも悪くは無いのかもしれない。まぁ、そんなのはただの俺のワガママでしかないんだけどな。

作者は圧倒的文系です。社会科や国語は得意でしたが数学や理科は得意ではありません。つまり、理系的な部分で間違った知識を書いてしまっていた場合は申し訳ありません。


よろしければブックマークや評価、お願いします。もう少しで目標の1000に届きそうなので是非に……。

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