2章6話 求めるのは余裕
すみません、6話を出していない事に気が付いていませんでした。順番が逆になりましたが投稿します。7話は一度、削除をしてから再投稿します(仕事終わりにやる予定なので十八時くらいになると思います)。
「……少し遊び過ぎたかな」
「ガルゥ!」
「ああ、そうだね。こうやって戦い続けるっていうのは本当に楽しいよ」
命と命の奪い合い、そこに集中していれば無駄な事は考えずに済む。強くなるために不確定な事を考えていれば確実に足踏みをする事になるだろう。それこそ、九階層に来るまでの半月程度の魔物との命の取り合いは確かに楽しいものだった。
グランの時のような圧倒的な格上相手ではなく、自分の糧にするために戦うという一種の俺の力を見せ付けるような戦い。……まぁ、その根底にあるのは幸運の高さやウルの強さ、それと持っている武器防具の強さにあるんだけど。
でも、それすら用いても化け物のように強い敵というのは殺し切れないんだ。グランがそうだったように、勇者がそうだったように俺本体の強さが低ければ勝ちなど引き寄せられない。一定までは強さに差があっても勝ちを見い出せはするが、それにも限界というものがある。
とはいえ、強くなりたいという願望のために魔物を殺し過ぎたような気がしてしまう。別に魔物相手に同情をしているわけじゃない。生物を殺した事に申し訳なさを感じているわけでもない。ただ遊び感覚で殺してしまっている現状を好ましく思えないだけだ。まぁ……。
「ガルルゥッ!」
「奇襲は静かにするものだよ」
こうやって魔物というのは勝ち負けに関係が無く襲ってくる。何もしなければ殺されるのがオチなら殺してやるしか無いだろう。ましてや、魔物なんて自然発生する人間の敵でしかない。殺す事に対して問題は少しも無いんだ。
それにしても、これで何体目だろうか……いや、例えるならコイツらはただのパンと変わらない。食った数だけで言えば間違いなく死体の山を築ける自信があるけど……明確な数字を答えられる自信は少しも無いな。
「と、そっちも終わったみたいだね」
「グルゥ!」
「はは、分かっているって。そう、じゃれないでくれ」
これで九階層の魔物の大体は狩り切った。
もちろん、そこら辺も幸運というか、勘が肯定的か否定的かで判断しているだけなのだけれど。それでも大抵の魔物を狩り切れたのなら個人的には満足だからそれでいい。もっと言えば……。
「転移部屋……やっぱり、次はボス部屋か」
「グルゥ……」
「分かるよ、俺だって少しは怖いからさ」
このダンジョンは比較的、強い魔物が多く現れる場所だ。戦ってみて分かったけど四階層まではブラックウルフやゴブリンナイトが普通で、五階層のボス戦ではゴブリンジェネラルが現れた。
ゴブリンジェネラルと言えばCランクの魔物、それこそ俺とウルで戦ってギリギリ勝てた存在でもある。まぁ、硬い鎧と外皮のせいで毒が通りづらかったってだけで、一箇所に集中して毒を内部に注げてからは簡単に倒せたけど。
でも、そのゴブリンジェネラルが六階層からは低レベルで数体だけとはいえ、出現するようになってきた。九階層ともなれば数も十体程度になり、レベルも五階層より少し弱いくらい。はっきり言って何も策無しに十階層のボスと戦う気にはなれないんだよな。
あの時のようにどちらかが傷だらけになる、殺されかけるまではいかずとも半日は傷を癒すのに時間がかかってはいけないんだ。そういう微かな油断が死へと直結する今、無策でそのまま進む訳にはいかないだろう。
それに俺の戦い方は毒に頼り切ったものになっている。その毒が最高レベルのもので敵の硬い外皮さえも柔らかくできるとなれば、確かに甘えたくはなってしまうけど限界は確実に近い。ましてや、これがあったとしてもグランに勝てるかは分からないんだ。それよりも強くなる可能性の高い勇者が相手なら尚の事だろう。
「もうそろそろ……良い機会なのかな」
二つの短剣を目の前に出して眺めてみる。
……いや、この武器を使わないなんて許せるわけも無いか。俺は何度もこの二つに助けられて生かされてきた。それを通用しなくなってきたからという薄情な理由で捨てていいのか。いいわけないだろ。
手に馴染み過ぎて見ていなくても回せるようになった短剣、最初はカッコイイ程度の感覚でしか無かったが、今ではこのフォルムを愛している自分がいる。紫刀だって何だってステータスが低く弱い俺でも戦えるように編み出した技だ。そこまでに至る道程を忘れるなんて……。
それらを全て捨て去るなんて俺には出来ない。
だから、新しい武器がどうとかはナシだ。そんな事を言い出したら勝ち目が無くなった時により強い武器を使うだけの、武器頼りの男になってしまう。武器を操るのではなく、操られてしまうようになればそこに強さなど関係がなくなってしまうんだ。
強化石……いや、それも今はナシだね。
ガチャを回してみた感じ強化石のドロップ率は低くは無い。それでもイヤホンの時に学んだが強化の際には確実に大量の魔力を使う事になる。ただのイヤホン相手で当時の俺の魔力のほとんどを使い切ったんだ。レアリティの高い武器二つとなれば消費量も間違いなく比例して高くなる。
「ガルゥ!」
「……ああ、そうだね。別に急いでいるわけでは無いんだ。もう少し安定してからボス部屋に挑むとしようか」
武器の交換はしない、それでも良い機会な事には変わりはないんだ。今の俺達には情報が少な過ぎる問題がある。ゴブリンジェネラルを簡単に倒せるようになった今となってはダンジョン外を見るのも悪くは無いだろう。
情報を手に入れて、出来れば交易とかもしたい。焦れば俺だけではなく着いてきてくれるウルも最悪な事態に陥る可能性があるんだ。それくらいの余裕があった方が気持ち的には楽でいい。とはいえ、そんな事をしている暇があればレベル上げに勤しみたいから後回しだけど。
そうだな、半年程度でダンジョンを攻略して残り半年で菜奈のもとへ向かう……これくらいの余裕はあっても良いかもな。ここのダンジョンも終わりが見えているわけではないし、長いか短いかを考えたところで勘が発動してくれない。それなら深い事を前提に動いた方がいいだろう。
いやはや、ウルが「焦り過ぎ!」って怒ってくれなかったら一人の世界に沈み切っていたよ。その分のお礼は帰ってからしてあげないといけないな。毛繕い、美味しい焼肉、何でもござれだ。まぁ、霜降り肉とかは無いからゴブリンジェネラルの肉で代用するけど。
ただCランク、それも幸運の高い俺が倒して落とした肉は紛れも無く美味しいものになる。ってか、食べてみたけどゴブリンの肉とは比べられない程に美味しかったんだよね。味付け次第にはなるけどウルも喜んでくれるはずだ。
「……ウル、ご飯を食べたら少しだけ外に出てみないか。君を召喚してから外に出た事なんて無かっただろ」
「グルゥ!」
「そっか。ああ、そうだよな」
ご飯を食べ終え次第、散歩でもするか。
これで外に出たらダンジョンとは比べ物にならない敵がいたりして……いや、それなら絶好の狩場であるダンジョンが無傷で残っている理由が分からないよな。もっと言えば勘が俺の考えを否定しないという事は出て問題は無いって事だ。
軽くウルを撫でたら大きな音で喉を鳴らした。
召喚したての頃よりも撫で方が上手くなったからなんだろうな。最初の頃はここまで綺麗な音を鳴らしてはくれなかった。……さてと、さっさと一階層まで戻ろうか。
静かに十階層にある転移門を発動させた。
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