2章5話 久し振りの戦い
「……あ、あ……朝か……」
ここは……ああ、やっぱりテントの中か。
もしかしたら、夢なのかもしれない……そんな淡い考えが少しはあったけど、見慣れない天井を見て現実に引き戻された。それに……隣に菜奈はいないんだ。こんな最悪な事実が夢であって溜まるか。
それにしても……八時半か。
王城の時は勝手に目が覚めていたのに……一人になったら目覚まし時計があっても三十分遅刻してしまったよ。確かに二度寝は最高だけど……緊張感が欠落してきているのかね。そこに関しては命に関わる事なだけに油断はしたくないが……。
「ガゥ!」
「おはよう……ああ、そっか」
目覚ましのせいで起こしてしまったか。
申し訳ない……と思ったけど、よくよく考えてみれば体の不調が何も無いな。単純にテントの能力のおかげなのか、それとも王城にいた時は何だかんだ言って心から安心して眠れていなかったか。
「ううーん、さて、今日からも頑張りますか」
「グルル!」
大丈夫、少しだけナイーブな気持ちにはなってしまったが問題無い。今の俺にはウルがいるし、菜奈にはグランとフィラがいる。時間があるとは口が裂けても言えないけど短いわけではない。
大丈夫、大丈夫なはずだ……絶対に大丈夫だからウルに心配させる事はするな。さっさと朝食でも取って思考回路を回させよう。嫌な事は考えるだけで気分が悪くなってくる。考えても分からない事に時間を割いている暇は無い。
適当に野菜を軽く炒め、もう片方のコンロで肉を焼いておく。野菜の方に油はひかない。代わりに水を軽く入れて塩コショウ、それとコンソメを入れておいた。濃い味も油っぽさも起きたての俺には要らない。
中皿一杯の野菜炒めと肉だったけど俺もウルも食べ切れた。朝っぱらからよく食べられるなとは思ったけど中皿一杯では足りなかったらしい。まぁ、それで要求してくる事も無かったけど……昼食の時には少しだけ多めにしてあげないとね。
「おし、それじゃあ、行くか」
「ガゥ!」
テントから出て回収しておく。
ここから出たら恐らくはダンジョンなのだろう。もちろん、ただの洞窟という可能性もゼロではない。だけど、ウルの見た目や極端なレベル上昇からして数多くの魔物と戦えるダンジョンだと仮定した方が妥当だ。
それでいてウルでも倒せる魔物が多くいるダンジョンだとすると……油断さえしなければ俺でも戦えはする。レベルが上がる前の状態でも生き残れるだけの空間だとすれば即死級の敵はほとんど居ないと考えていい。
「ウル、俺はここを拠点として強くなるつもりだ。少なくとも俺達が戦った勇者と対等にやり合える程度には強くなりたい」
「ガゥ!」
「ああ、分かっているさ。そこまで行くには一人でという訳にはいかない。というよりも、召喚士というジョブの手前、ウルに一番の負担を強いる事になるだろう」
召喚士、そして魔物使いは従属させている魔物の強さによって戦闘能力が大きく変わる。ステータス面では魔物の数値の一割が加算され、スキルも従魔の許可があれば使用が可能になるんだ。つまり、言い方を悪くすればウルがいなければ俺は何もできない。
そして俺やウルだけで手に入れられる力にも限度があるだろう。そこを新しい従魔という形で補っていくつもりなんだ。それがガチャから出るものなのか、旅をしていくうちに現れた魔物になるのかは俺にも分からない。だけど、ウルだけを見ていられないというのも事実だ。
「ウル、嫌になったら俺から離れてくれていい。俺はどうしてもお前だけを想って生きていく事はできないんだ。無理やり召喚したような男に対してウルの大切な未来を」
「グルゥ! ガルルルルッ!」
「……そうか、お前は物好きだな」
こういう時に欠片も肯定しないなんてね。
高々、ガチャで召喚しただけの関係なのに……よくもまぁ、そこまでの愛を俺に抱けるよ。いや、それはウルと一緒にいたいと思ってしまう俺も同じか。出会いや関係性とかは問題じゃない。相手をどう思うかどうかが一番なんだろう。
「じゃあ、行くぞ」
「グルゥ!」
「紫刀」
俺が目覚めた部屋から出るとすぐに左右に道のある通路とぶつかった。右に進めば光が見える事からして外と繋がっているのだろう。対して左からは明確な嫌な気配がする。きっと、左側には俺が求める魔物が多くいる。
そして……この魔力が充満する感じ。
ここは予想通りダンジョンだ。外から人の声が聞こえないあたり、ダンジョンがあるのは都市部では無いのだろう。それではどうしてダンジョンが放置されているのか、普通はダンジョンという金の成る木を見逃す理由は無いはずだからな。そんな疑問も湧くけど……今は後回しだ。
ウルより先に左側へと進んで短剣を構える。
嫌な予感がした、それと同時に紫刀の刃先へと狼の爪が迫った。速度で言えば遊んでいたグランよりも遅い程度、だけど、明確な殺意がある分だけ油断は少しもできない。
鍔迫り合いの中、腹を蹴って一気に詰める。
よかった。この行動を取ろうと判断した時に悪い予感がしなかったとはいえ、最悪の場合は大きな隙を晒す事になるメリットもデメリットもある行為だ。結果的には腹を蹴ってから詰めて首を飛ばせはしたが……まぁ、あまり良い判断では無かったかな。
「ブラックウルフ……ウルと同種か」
「グルゥ! グルルルル!」
「あ、ごめんね。単純に同じ種族だと思っただけだよ。ほら、毛並みとか気品溢れる姿はコイツからは感じられないだろ、うん!」
そこまで怒るとは思ってもいなかった。
俺からしたら人間だから同種族だな程度の感覚だったのに、やっぱり、変異種なりのプライドみたいなものがあるのか。それに見た目は似ているとは言っても強さや行動面では丸っきり違う。多分だけどウルなら雑に奇襲しては来ない。
「……グルゥ?」
「ああ、俺達からすると魔物の違いってよく分からないんだ。ほら、ウルからしたら人の見た目って似ているだろ。その中には良い人も悪い人もいる。それを見抜けって言われるのと同じくらい難しい事だから言ってしまったんだ」
そう、別にウルを貶す意味で言っていない。
俺とかははっきり言って犬を見たら犬としか認識できないような人間だ。もっと言えば人であっても菜奈とかの大切に思える存在以外は同じように見えるし……そんな存在が見た目がほとんど同じの狼を見て似ていないとは思わないだろ。
ま、まぁ、次からは間違えませんし。
これはアレだ……魔物使いとしての矜恃を測られているんだ。私の事を従魔にしたんだから良く知ってくれないと愛想を尽かすよ、というウルからの愛の試練。なんだ、そう考えると可愛いじゃないか。
とはいえ、そんなメンヘラみたいな思考に真正面から相手する気にはならない。幾ら好きだと思えても面倒くさい気持ちと天秤にかけたらさすがに後者が勝る。というか、菜奈が同じ事をしてきたとしても適当に流して終わらせていると思うし。
いや、菜奈の場合は彼女という手前、ウルよりも愛している証明がしやすかったか。それでも誰だったら相手をしているとかは特に無いと思う。加えて言えば今はそういう感情に流されていられる余裕は無い。
今は菜奈のもとへとさっさと戻る。
もちろん、あの勇者の事だ。ただ戻ったところで良い方向に進むとは思えない。だから、無理やりにでも連れ出せるような力が今は必要だ。それに今の俺は脱走した異世界人という立場、フランク王国からすれば情報漏洩などで放っておきたくはないだろう。
「……ウル、続きは後だ」
先程の戦いで物音を立ててしまったせいか、多くのブラックウルフが目の前に現れた。まぁ、所詮は雑魚の集まりでしかない。ウルがいれば大した問題にはならないだろう。
「悪いけど死んでくれ」
これも一つの幸運、俺が早く強くなりたいと願ったからたくさんの敵が現れたんだ。なら、それに甘えて無理をしない程度に戦い続けようじゃないか。弱肉強食、弱者が虐げられるのが性ならば強者となり抗い続ければいい。
「毒刃飛葬」
静かに紫刀を振り下ろして、向かってきた三体のブラックウルフの首を落とした。
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※2章6話を投稿し忘れていたため、最新話は一度、削除しおります。明日、6話も含めて再投稿する予定です。




