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1章34話 勝てばいいんだろ! 勝てば!

梅雨時期ですね、低気圧に弱い作者としては憎むべき存在です。日曜日、何も出来ずに寝込んでいました。

 熱さが体から消え咄嗟に瞼を開く。

 ここは……視界も感覚も無い真っ暗な世界だ。そこを俺は漂っている。ああ、なるほど……きっと他の人達は皆、この世界に身を任せてしまうんだろう。地獄とも天国とも言えない世界を漂い続けることを享受することで死んでしまうんだ。確かに死ぬ前は苦しくはあったからな。受け入れてしまう人の気持ちが分からなくはない。


 だが、それは普通の人に限った話だ。

 俺からしたら、この真っ暗な空間に漂うなんて真っ平御免だし、まだまだしたいことがある。というか、俺の目的が一つも完了していない。こんな馬鹿みたいなことで後悔はない何て嘘でも言えないな。ましてや、俺が死んだら誰が伊藤さんを守るっていうんだ。


 もうこの世界に用は無い。

 だから、早く俺の目を覚まさせろ。どうせ、聞こえているんだろ、ミカエル。一瞬だけ幻のような淡い影だけの誰かが見えた気がする。その影が光へと変わり始めて……そして……。


「ギャギャ!」

「危なっ!」


 目を開けてすぐの光景がゴブリンかよ。

 本当に寝覚めが悪い、そう思いながらゴブリンナイトの首を刈る。俺は……生き返れたのか。疑っていたわけではないが実際に体験すると……変な気分だ。軽く辺りを見渡してみる、ゴブリンナイトの大半は死んだのか。これは伊藤さんの魔法のおかげだろう。それ以外に有り得そうなことは無いし。だったら、俺がすることは決まっているな。


「悪いが死んでもらう」


 短剣を投げてゴブリンナイト二体を殺す。

 今回はわざわざ壁にぶつかるまで待たなくてもいい。今の俺は死んだおかげで振り出しに戻っているからな。ミカエルの情報通り生き返ったらHPもMPも全快していた。死んでよかったとまでは言わないが試した甲斐は間違いなくあったよ。


 ただ時間はどれだけ残っているのだろうか。

 ここまでゴブリンナイトを数えられる位まで減らしておいて倒せませんでしたは御免だ。さっきの時間からして大体七分以内に条件を満たさなければいけない……となると、残っていても三分かそこらかな。そして仮にゴブリンリーダーを全滅させることが条件ではないとすると……。


 七分以内に魔物を全滅させる。

 これが一番しっくりきそうだ。確かにゴブリンリーダー三体だけを倒してクリアならば簡単過ぎるよな。これは俺の落ち度だ、もう少し冷静に考えられれば死ぬことも無かっただろう。伊藤さんは……見ていられる時間はないか。なら、早く倒して確認しないとな。回復し切った今なら出来ないことの方が少ないはず。


 十秒だ、十秒以内に考えをまとめろ。

 どうすればゴブリンマジシャンを殲滅出来る? 数百メートルは離れている場所で、横並びにいるアイツらを一気に倒しきる方法を思い付け。早くしろ、このチャンスを無駄にする気なのか。早く、早く、早く……使えそうなもの、考えて考えて見つけ出さなければ……。


 待てよ……これならワンチャン……。

 いや、考え付いたのならば熟考するべきではない。試して駄目だったらまた考えれば良いだけのこと。別に最大のチャンスではあるが最後のチャンスというわけではないからね。だから、やってみるだけやってみよう。最悪はグランに頼めばいいさ。


 風の魔石を短剣で割る。

 使える効果は音の遮断、だが、風魔法本来の力を魔石が宿しているとすれば……ああ、俺の考えは正しい。毒の短剣に風を纏わせることが出来た。これが出来るのならば……俺がこのまましたい通りに事を運べるはず。


「固形化」


 毒を滴らせたまま振って固める。

 固形化だけなら使い道は恐らく無かった。出来たとして毒の壁を作る程度かな。でも、壁を作れるほどに毒を生産するとなるとMPが馬鹿みたいに必要だし、作り出すための時間もかなりかかってしまう。毒を作り出すのは俺ではなくて短剣だからね。


 だが、毒を刃として飛ばすのであれば別。

 そのためには飛ばすための動力が必要だった。その代用品として使えそうだったのが風、振った勢いと風で刃として長距離まで飛ばせたら俺の狙い通りだが……。


「おし、上々」


 毒の刃がゴブリンナイトに当たった。

 盾で防御したようだけど……思いの外、固形化が強かったみたいだ。ぶつかってすぐに崩れるって思っていたが一切、形を崩さずに盾を破壊してしまった。これは風魔法で飛ばしたからってわけでは無いような気がするな。……時間が空き次第、固形化を使ってみて能力を理解しないといけなさそうだ。そう思わせるくらいには使い道があると思う。


 それはまた後でにしようか。

 今は残った魔物を狩ることを最優先にしないといけない。ゴブリンナイトは残り四体、ゴブリンマジシャンは残り四十体、ゴブリンリーダーは三体ってところだな。なら、まずすべきことはゴブリンナイトの殲滅か。


「飛べ!」


 同じ要領で四つの刃を飛ばす。

 ゴブリンナイトは二体ずつ狩れると予想を立てて、残り二つは高さを変えて撃ち込んでみた。ゴブリンナイトは足元を狙って、そして残り二つの刃は頭ら辺を狙ってみたんだが……まぁ、熟練度が低過ぎたな。ただ四体のゴブリンナイトを殺すことしか出来なかった。


 でも、結果的には悪くない。

 撃ち込んだ後で銃弾が落ちるように刃も少し落ちることが分かったし、何よりもこの技を使うのに必要なMPが毒の溜まり場を作るより少なくて済むっていうのが最高過ぎる。刃を一つ作るにしても短剣を振るだけでいいというのも楽だ。今まで長距離技が無かっただけに有難いな。


 いや、ちょっと待てよ。

 固形化で毒の刃を飛ばせるとすれば……これも試してみる価値はあるか。こんな状況でやることでは無いかもしれないが気になって仕方がない。仮にこれも成功したのであれば出来ることがもっと増えてしまう。決定だ、試してみよう。


「固形化」


 毒を滴らせる、ここまでは同じ。

 次は毒の形をイメージして固めてみた。イメージは剣ではなく刀、これで固形化した刃が毒の短剣と同程度に扱えるのであれば短剣のネックな部分が解消される。もっと言えば短剣としても使えるし刀としても使える、そんな二通りの使い方が出来るってだけでも選択肢が増えて良いのだが果たして。


 すごく胸が高鳴ってしまう。

 伊藤さんには物凄く申し訳ないと思うよ。自分勝手に突っ込んで伊藤さんの魔法に巻き込まれて死んで、そして回復したからってこんな実験事を一人で黙々とやっている。おう、これは男として、人として糞野郎だな。これでは新島達を否定することは……いや、アイツらレベルではないか。


紫刀しとう


 一応、即興で名前をつけておいた。

 異世界において技に対して名前をつけるのは、イメージせずにその技を簡単に再現させるためらしいからね。一々、こういう技を使いたいってイメージしていたら間に合わないことがあるらしい。まぁ、これは本で読んだ知識でしかないから何とも言えないけどさ。


 それで本題はここからだ。

 これが上手くいったのであれば次を試してみないといけない。というか、これが失敗したら多分だけど一からやり直しかな。ゴブリンリーダーが笑みを見せ始めてきたわけだし。こういう予兆が無かったら光り始めてようやく止めていただろうな。って、時間が足りないからな。感慨に耽けるのは後だ。


毒刃飛葬どっぱひそう


 厨二臭い技名になってしまったな。

 まぁ、でも、折角の現実離れした技なんだ。名前もそれに見合った物にしたいよな。そして効力も名前に見合った物でなければいけない。刀身を伸ばしたままで放つ毒の刃はそれだけ広範囲になるからな。さっきと同じ威力で広範囲に放てるのであれば……。


「まだまだ行くよ」


 これを何個も何個も飛ばす。

 高さを変えて振っては飛ばしてを繰り返すだけの簡単なお仕事だ。毒で刀身を伸ばしたおかげで撃ちやすいことこの上ないね。これなら高さも何もかもが違うから躱すってことは出来ないだろう。何よりも……ゴブリンナイトの盾でさえ壊した刃を土の壁程度で何とか出来るかな。


 グランの剣と毒の短剣を持って走る。

 仮に壁で何とかされたとしても策はいくらでもある。何だったら近くから撃ち込んでやってもいい。残り数十秒以内に殲滅させないといけないからな。遊んでしまった分を取り返さないといけない。まぁ、それなら元から遊ぶなよって話だけど……そこはご愛嬌だ。


「さて、次だ」


 もう一発、刃を飛ばしてやった。

 ここまで使い易いのであればもっと早くから思いつけば良かったよ。固形化と風の魔石さえ持っていれば容易く広範囲の敵を狩れるんだからな。これに関してはスキルの能力だけを見て使えないと考えていた俺が悪いか。もっと頭を柔らかくしないといけないな。


 残った魔力の殆どを注ぎ込んで何度も何度も放ち続ける。壁を壊しては作ってを繰り返されるせいで魔物の様子が分からないんだよね。俺には分かりようはないが、もしかしたら制限時間を過ぎているかもな。でも、それならそれでいいさ。だって、もう……アイツらは詰んでいる。


「解除」


 響き回る悲鳴を横目に短剣をしまう。

 アレだけ固めた毒を内部に入れ込んだんだ。生き残っていようがいまいが、固形化を解き液体となってしまった瞬間にゲームオーバー。身を守るために作った壁が自分を殺すとは何て皮肉だろうな。と、そんなことを考えている暇はない。

これにて階層ボスとの話は終了です。このまま行けば1章50話辺りで城を出られそうです。その間に閑話などを挟むつもりなので実質、もう少しだけ1章は伸びるかと思います。そこからはより異世界らしい話(作者の中での)が出てきます。今は余裕そうなショウですが後々……そんな感じなので続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。


ではでは、次回をお楽しみに! 良ければフォローや評価などもよろしくお願いします! 書く励みになります!

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