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1章28話 そうだ、ガチャを回そう

「何か掴めそうだった?」

「うーん……何とも言えません」


 伊藤さんが本を抱えながら小さく言った。

 読む時間は少なかったからね。それも仕方が無いと言えばそれまでなんだけど。ただフィラに頼んだら予想通り貸して貰えた。これで自由に魔法の勉強が出来るだろう俺だと上手く出来なかった魔法だったが……まぁ、出る直前にフィラが舌なめずりして言っていたからさ。


『私は魔法の適性が高い子も好きでね。ショウは微妙だったけど女の子の方は私よりも高そうだ。ショウとは違う意味で興味を持ったと言うべきかね』


 だったかな。良くも悪くも伊藤さんはフィラに気に入られたみたい。魔法に関してだったら教えてやれる、みたいな事を言っていた。……その代償に俺がフィラの相手をしなければいけないようだけどな。まぁ、それも必要経費のうちか。少なくともフィラと話していて学べることもあれば、楽しいとも思えるからね。そう、変なことさえされなければ喜んで遊びに行くというのに。


 そのまま食堂へと行く。

 例のアイツらは……さすがにいなくなっていた。ダンジョン終わりの俺達が来た時には食事をしていたから、一時間経った今でも何か食事をとっていたらそれはそれで驚くけどな。どれだけ長い時間、ご飯を食べているんだかってね。


 俺達と同じ転移者はいなかった。

 なので、絡まれる心配もなかったから少し長めに食事時間を取る。特に重要な話はしなかったけど伊藤さんと話しながら食べるのは楽しい。これからも食事時間だけ二人っきりでいられたらいいのにって思ってしまったよ。


「ご馳走様でした」


 食器を片付けて食堂を出る。

 いつも通り伊藤さんの部屋の前で手を振って自室へと足を運んだ。このまま寝てもいいが今日はまだやらなければいけないことがあるからな。そう、今日のデイリーガチャだ。今のところはかなり出がいい。


 初日は腕輪と指輪、短剣とローブが主か。

 他にも良いものは出たけど言わずもがな、未だに活躍し続けてくれている俺の必需品がこの四つだからな。その時に伊藤さんの杖も手に入れていたっけか。他にも色々と出たが……どれも使えないものではなかった。そのうち使う可能性があるものばかりだからね。


 次の日は……あー、これは忘れよう。

 嫌なことを思い出したからベッドに寝転んでガチャ画面を出す。そうだった、俺って一回だけデイリーガチャを回し忘れていたんだっけ。幸運が高いだけに出てくるものの期待値も高かっただろう。本当に最悪な事件だった。まぁ、それもこれも俺を本気にさせたグランが悪いんだけど。


 その分、三日目が良かったな。

 緑色の液体が入った瓶、これはアイテム欄で見たらポーションだった。それも希少性の高いHPとMPの両方を回復させられるアイテムだ。さすがに幸運が高いだけはある当たりのアイテムだったよ。その後に出た寄生の指輪の能力が高過ぎたせいで忘れてしまいそうになるんだよね。俺が渡したと言ったわけではないのに伊藤さんは嬉しそうに指輪を右手の薬指に付け変えている。時折、撫でている姿を見るとあげて本当に良かったと……いや、あれはサンタからのプレゼントだったな。


 四日目は……何だっけか。

 ああ、そうだ。経験値魂と強化石だったな。待てよ、そういえば強化石って使っていなかったな。試しにイヤホンにでも使ってみようとか思っていたのに今の今まで忘れてしまっていた。これで良い効果が得られたのなら二つの短剣に使ってみるのもアリか。まぁ、それは寝る前にすればいい。


 五日目、これは覚えている。

 というか、出てきたアイテムが驚くことに風の魔石が二つだったんだよな。効力を見たら出てきた理由も分かったけど。風の魔石で出来ることは音の遮断だったからね。正に情報が筒抜けの俺にはピッタリのアイテムだった。


 六日目、昨日のアイテムは……。

 お、これだね。アイテム欄を見るまで思い出せなかった。まずは自然治癒、これに関しては何も言うことはないか。昨日の朝に引いて付けてすぐに能力の強さに驚いたわけだし。これで少し無理をしても何とかなるようになった。対して片方は折れた片手剣……こっちはどうするべきなのかすら悩んでいる。売ることも出来ないからさ。


 そして七日目、つまり今日だ。

 これで何が出るか。すごく楽しみだな。実際、限定ガチャが今日いっぱいで終わりらしいからね。明日から他の限定ガチャが出てくるかも分からないから少し悲しさも覚えてしまう。一日二回が一日一回に変わるわけだしね。幸運が高ければ尚更だ。だから、最後に相応しいアイテムが出てくれることを願うよ。まずは平常のガチャから回そうか。


 ここまで期待を寄せているんだ。

 出ないなんてことは無いよな。フィラのような意地悪い笑みを浮かべてみる。チラッと見えたガラス窓に映る俺はすごく気持ち悪い顔をしていた。こんな顔を伊藤さんに見られていたら……この顔はもう封印だな。


 演出画面……止まることはなし。

 つまり……お、黒。てっきり赤とかかと思っていたから少し嬉しい。まぁ、どれもチート級の能力である金に比べたら微妙だけどね。出てきたのは何かな……って、スキル玉か。出てくれるのは嬉しいけどアイテム欄を見るまで能力が分からないからドキドキが……これは寝れないかもしれない。


 そして本命の限定ガチャ。

 何が出るかな、何が出るかな。……ああ、ヤバい。指が震えてしまう。今までだって俺が求めれば望んだ能力を持つアイテムが出てきたからね。スキル玉は兎も角としてこっちは出てくれないと困……りはしないけど、悲しくなる。


 演出は飛ばさない。

 代わりに一分間は目を閉じておく。効果音も無いから、これで目を開けるまでは何が出たか知る術はない。楽しみはゆっくりと味合わなければいけないからさ、知らんけど。さてさて、何が出たのだろうか。


「金……」


 いや、待て待て!

 見掛け倒しの可能性は僅かながらにある。まさか本気で俺の願いに応えてくれるとは思わないだろう。来いって行ったら本当に来るなんて……今ならソーシャルゲームで良いキャラを出せるような気がする。ピックアップが一パーセントよりも低かろうと出てくれるな! まぁ、これといって欲しいものが無いから回しはしないけどさ。


 タップして続きへ進む。

 開いて出てきたのは……え……こっちもスキル玉なのか。いやいやいや、ここまで来てそれですか。どれだけガチャというスキルはエンターテインメントを理解しているんだよ。俺のドキドキをより強めてきてどうするんだ。まさかね、ここまで来て能力を見たら俺にとって価値が無いスキルなんてことは無いよね。


 このドキドキ感……凄いな。

 これなら課金する人の気持ちも分かる気がする。まぁ、それでも抵抗はあるけどね。というか、スキルのガチャに関しては課金なんて要素はないからな。運営が儲けなければいけないとか制約がないから課金機能は不必要なんだろうけども。


 えっと……あったあった。

 少しずつ下へズラして全部を見ないようにしていたから未だに俺も直視はしていない。アイテム欄の仕様上、中に入れたアイテム順に最初は並んでいるからね。スキル玉なんて稀有なアイテムは今日以外で手に入れた記憶がないから頭文字だけで分かる。


 さてさて、何が出たのか。

 口をしっかりと閉じて最初に出た黒色の名前を見つめる。スキル名は……『固形化』か。固有スキルではなくただのスキルの一つらしい。能力は……あれ? 弱くないか?


 固形化って名前だから固めるんだろうなって予測はしていたんだけど……そのままだったよ。直接か間接的に触れたものを固める、ってだけのスキルみたい。なんと言うか……使い方次第なんだろうけど俺には要らなさそうだなぁ。


 そうするにしても何を固める?

 魔法があるのならワンチャン、使い方は思い浮かぶんだけど無いからね。自分が放つ魔法を固めて強度を上げるとかさ、やりたくても俺には魔法の才能なんてものはないんだよ。幸運が俺のことを虐めてきているのか? 伊藤さんに頼んで慰めてもらわないと精神的に……。


 まぁ、それはいいか。

 覚えておいて損は無いからな。伊藤さんにあげるのも手だけど城にいる間でガチャの説明はしたくないからさ。申し訳ないけど俺が使わせてもらおう。いつも通り割って……おし、覚えた。固形化……役立つ日が来るんだろうか。


 深呼吸を一つする。

 黒が駄目そうだったけど……問題はよりレアリティの高い金の方だ。そっちが良ければ固形化なんてどうでも良いからね。今の俺に必要そうなものが出るはずだから……何が出るんだろう。ちょっと予想してみるのも良いけど……いや、今日中にやりたい事があるからな。無駄な時間は使わないようにしないと。


 震える指で下へスライドさせてみる。

無言

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