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1章25話 空気を嫁

「おし、今日はこの位でいいだろ」


 グランの声がダンジョンに響く。

 こういう反響しやすい場所こそ、その大声を止めて欲しいが言っても生返事されるだけだった。要は諦めろってことだろう。少しだけイラッとはくるけど……我慢我慢。


「まだ戦えますけど良いんですか」

「ああ、いい。次は五階層だからな。勉強していたショウなら言っている意味が分かるだろ。今日やるよりは明日の方がいい」

「……ボス戦だからってことですよね」


 グランは首を縦に振った。

 まぁ、確かにボス戦には準備が必要だろうね。このダンジョンは初心者向けって話をグランからされたけど、それでも初めてのボス戦をナメてかかる理由にはならない。あの新島ですら、二日前のボス戦で苦戦をしたらしいし。ステータスがというよりは戦い方に難があったようだけど。


 俺達で五番目らしいからなぁ。

 指輪を渡して三日経った今、伊藤さんは魔物を怖がることはなくなった。だけど、戦えるようになったわけじゃない。ステータスに関しては良い感じに上がっているけどね。片手間にステータスを開いてみる。




 ____________________

 名前 ショウ(仮)

 職業 魔物使い

 年齢 17歳

 レベル 52

 HP 122/122

 MP 82/112

 物攻 F

 物防 F

 魔攻 F

 魔防 F

 速度 F

 幸運 SSS

 固有スキル

【ガチャ】

 スキル

【短剣術2】【自然治癒3】

 魔法

【刻印】

 加護

 ミカエルの加護

 ____________________




 うーん、見れば見るほど俺って弱いな。

 これだと確実にボス戦で苦戦するだろう。俺の場合は新島達のようにパワーでではなく、手数の多さで圧倒することしか出来ないからね。その点で言えば幸運の高さはありがたいが……如何せん、速度が低すぎるんだよなぁ。


 調べてわかったことはなんだけどさ。

 ステータスのアルファベットって数値と関係性があるんだよね。これだと訳が分からないんだけど簡単に言うとFとFでも違いがあるって感じ。本だとこの位の説明しか無かったから言葉にしづらいけど。


 例えば俺の初期ステータスであるG。

 これは内部的なステータスの数値は1〜9のどれからしい。その次のFは10〜99と言った感じで同じアルファベットでも違いがある。つまりはレベルが上がった俺のFは貧弱だけど前よりは強くなっているってこと。


 それでもF、伊藤さんに関して言えば魔攻がCだからね。俺とは比べ物にならないほどに強い。ちなみに聞いた話ではグランでオールBらしい。詳しくは聞いていないから分からないけど疑えないくらいに強いからさ。だから、比べてしまうんだよ。二人が相手なのが悪いんだけどね。でも、一応はチートを持って転移させられた一人なんだよ。それでも勝てないって……悲しくならない人はいないと思う。


「どうした? 浮かない顔をして」

「いえ……自分のステータスを見て打ちひしがれていただけです」

「……そういえば魔物使いだったもんな。それは仕方がない、魔物使いなんて薬師や錬金術師と同じくらいに不遇職業だからな」


 そう、それも問題なんだ。

 俺のステータスが上がりづらいのにも理由がある。例えばチヤホヤされている新島のジョブである勇者、この職業に就いている人の初期ステータスやレベルアップ後の上昇値は並の人よりも数段と高い。その分、レベル上昇は遅いらしいけど上げずとも強いからな。


 対して俺の魔物使い。

 ミカエルが悩んだのもそのためなんだろうが圧倒的に弱い。例えば従魔、つまりは俺に従属した魔物ってことな。これは一人につき一体しか従えさせられないと聞く。まだ従魔を手に入れていないから分からないけど俺も同じだろうね。そして魔物を従えさせようにもステータスは雑魚。今の俺のステータスを見れば一目瞭然だろう。


 もちろん、個人差はあるらしいけどね。

 元々の俺が運動とかをしなかった人で、加えてそこの素質が無かったんだろう。だからこそ、こうやってレベル上げを頑張っても大してステータスは上がってくれやしない。


 レベルは圧倒的に高い。

 これはガチャで引いた経験値魂や腕輪で増加させた経験値でようやく上がった数値だ。ちなみに上がりやすさは半端じゃなかったよ。それでも上がり幅が低かったらレベルが高いだけの無能。これで短剣が無ければ俺は四階層でギリギリだっただろうな。


 運良く戦いの中で短剣術は得た。

 ガチャで自然治癒なるスキルも手に入れた。それでもギリギリなのが魔物使いの弱さを浮き彫りにさせているんじゃないだろうか。……ちなみに従魔はダンジョン内でゴブリンしか見ていないから作っていない。伊藤さんが嫌がるのは明白だからね。我慢してもらいたくはないから後回しにしている。


 この自然治癒は強いと思うよ。

 MPを使うことで減ったHPや傷を癒してくれるんだ。それにMPが減るっていっても大した量じゃないからね。ゴブリン如きから受けた傷なら数秒で治る。これのおかげで戦う回数を増やせたのもデカい。……それでもステータスが低かったら意味が無いんだけどね。


「弱くてもショウさんはカッコイイですよ」

「問題はそこじゃないんだけどね」


 伊藤さんの成長は著しい。

 指輪で俺に寄生してもらっているんだけどレベルはもう十まで上がったと聞いた。ゴブリンという低経験値相手でそこまで上がったのもすごいし、何より数値が馬鹿げているんだ。物攻とかは言わずもがな、HPでさえ五百を超えたとも言っていたよ。


「……ジョブチェンジも視野に入れるべきだな。ここまで戦っていれば戦士程度になら簡単になれるだろう」

「まあ……そうなんですけどね」


 それはあまりしたくはない。

 無知だったとはいえ、魔物使いは俺が無理を言ってミカエルに就けてもらった職業だ。なのに、弱いからで俺がやめてしまったら意味が無い。弱くてもいいからって言って就けてもらったからには魔物使いのままで強くなりたいんだ。……まぁ、手が無くなった訳ではないからさ。そこら辺を試してみて駄目だったら、かな。


「まだ行き詰ってはいないんで後々、考えます。もしかしたら魔物使いらしい強さも見つけられるかもしれませんし」

「それなら……俺は何も言えないな。分かった、俺は見つけるための手助けをしてやる。だから安心してダンジョンで戦え」


 グランはすごくいい人だ。

 ダンジョンで戦っていて分かったけどフィードバックは的確で、そして自腹を切ってでもポーションなどの回復薬もくれる。本気で努力する人なら全力で後ろから後押しをしてやるんだって笑って言っていたよ。他の兵士なら適当にやって終わりだったかもしれないね。グランがいたから無理をせずにここまでレベル上げが出来たわけだし感謝はしている。


「ショウなら本当に魔物使いの良さを見つけられるかもしれないな。何事にも動じず、表情を変えずに戦況を変える一手を考えつくショウなら本当に」


 うーん、そういうことは言って欲しくない。

 褒められるのは嬉しい、ただ問題はそこじゃない。そこまで言わせる魔物使いの方だ。魔物使いの良さを見つけられるかもしれない……ってことは今までの人達は良さを見つけることが出来なかったってことだよな。えー、カッコイイことを言った手前で悪いんだがジョブチェンジをしたいんですが……まぁ、無理だよねぇ。


 グランの後をついて転移門に入る。

 昨日から食事は各自、自由に取っていいって話をされたから……早めに済ませてもいいけど食堂を覗いたら新島と池田がいたのでやめた。伊藤さんも良い顔はしていなかったから行きたくはないんだろう。グランは……アイツ、俺達を気にせずに食堂に入っていきやがった。


「本、読みにいかない?」

「え」

「今はご飯を食べたい気分じゃなくってさ。伊藤さんって本を読むの好きって前に聞いたから行くのはどうかなって。俺が頼めば伊藤さんも図書室に入れるだろうからね」


 王国の中を駆け回れたら。

 それだけでもいいから叶えてもらっていたのなら二人でデートに行けたんだけどね。金貨程度ならガチャで出ているから心配は要らない。城の中は良くも悪くも窮屈だし娯楽が無さすぎるよ。時間を潰すってなったら部屋にだけど、ゲームもないのに二人っきりは少し辛い。付き合っているわけでもないからね。


 図書館デートなんて言葉があるくらいだし、二人で静かに時間を潰すのなら図書室に行くのが手っ取り早いだろう。フィラに頼めば本を読むくらいなら許してくれそうだし。池田のような脳内お猿さんの馬鹿ではないからね。フィラが人を入れない理由である『本を粗末に扱うから』っていうことは起こらないと思う。


「本を読むのは嫌いだった?」

「いえ、読むのは好きですよ。ただ気を使わせてしまったのかと」

「だって、何かを食べたいって思えないんだ。多分だけどゴブリンとかの血を見たからかな。それで食欲が湧かないんだと思う」


 そう言った途端に腹が鳴った。

 俺だけじゃない、伊藤さんも同時にだ。伊藤さんの方を見たら俺の方を見て笑みを浮かべてくれる。伊藤さんの笑顔を見れて嬉しいけどさ、こういう時くらいは空気を読んで鳴らないで欲しかったな。


「ほら、行こう」

「はい!」


 伊藤さんの手を取って図書室に向かった。

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