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1章22話 既視感の中で

「それでそのショウとやらが何か用かい」

「フィラさんに、というよりは図書室へ用があった来ました。転移してきたばかりなので、この世界の知識が極端にないんです。それでグランに頼んで知識を得られる場所を教えて貰って来ました」

「おやおや、それは良い事だ。多くの転移者を見てきたつもりだが知識を得ようとした人は少ないよ。ましてや、転移してきて二日と経たずに行動したものはゼロに近いかもしれないね」


 また値踏みをする目を向けてきた。

 本当にこの目は嫌いだ。人に価値を定められているっていうところがどうも苦手なんだよな。限界は自分が定めたハードルだ、みたいなことを言う人とかがいたけどさ。それに近いものを感じてしまうんだよ。俺の価値は俺が定めるものであって人が定めるものじゃないって。


「……良い目をしているじゃないか」

「良い目?」

「ああ、私に対してその目を向ける人は今までだっていなかったよ。怒らせてしまったのなら謝ろう。どうも歳のせいか、面白そうな人というだけで強い興味を抱いてしまうんさね」


 その目を向ける、ね。

 無意識のうちに睨んだりしていたのだろうか。もしそうだったとしたら謝るのは俺の方だけど。ただ良い目をしていると言っているから怒っているわけでは無さそうだ。だとしたら、尚更どんな目をしていたのかが気になるな。


「本を読みたいだったね。それなら私の権限で幾らでも読んでくれていいよ。文句を言う奴は私を連れてこいと言えば黙るさね」

「おいおい、本当に言っているのか」

「こんな時に冗談を言う理由があるのかい。お前がショウを買ったのと大差ないさね」


 つまりはフィラも俺を買った、と。

 嬉しいような嬉しくないようなって感じだね。別に力や立場のある人から能力を買って貰えるのは嬉しいことだ。だからと言って、俺は王国の下で働く気は無い。フィラが後々、俺の邪魔にならないとは言いきれないから複雑な気分だ。良かれと思って上に推薦する可能性だってあるし。


「買ってくれるのは嬉しいですが来るなと言われれば足を運びませんよ。目立ちたくないので」

「……その若さで目立つのが嫌いとね。転移者にしては珍しく謙虚な子だ事」

「謙虚じゃないですよ。自分の力を理解しているからです」


 俺の持つ力は俺本来のものでは無い。

 短剣だって何だって幸運を上げてもらったから手に入れられたものだ。元々、持っていたガチャを初期のステータスである幸運Gで回したところで大したものは出てこない。もし、ミカエルにしてもらったことが全部なかったとしたらグランと対等に戦うことも出来なかっただろう。それら含めたチートがあったからこそ、新島と戦ったって七割くらいの確率で勝てるくらいの力はあるんだ。


「まぁ、自分で言うくらいだ。そういうことにしておくよ。でも、ショウが何と言おうと評価は勝手についてくるものさね。目立ちたくないのであればそれ相応の行動を取らなければならない。知識を得ようとしている時点でそんなこと出来ないと思うんだがね」

「そう言ってやるなよ。ショウが言いたいのは過大評価して他人に離さないでくれってだけだろう。それなら話す時は低い評価で、自分の中では高い評価って使い分ければいいだけのことだ」

「馬鹿に言われずとも真意は分かっているさね。これは長い時を生きてきた婆からの忠告。馬鹿には分からんかったろうがショウは理解しているさね」


 フィラの言葉に首を縦に振る。

 分かっている、フィラは長い時間を過ごしてきた人だ。その中には俺のような人が一人や二人はいたんだろう。その人達がどうなったのかは俺にはわかるわけが無い。でも、言葉振りからして良い結果になったとは思えないかな。一番有り得そうなのが目立たないという願いが叶わなかったか、最悪は……。


「そうならないためにも知識をつけるのは良い考えさね。図書室の中の本なら好きに読んでくれて構わないよ。だから、時間があればこの老耄の相手をしておくれ」

「待て待て待て! 図書室の本全てということは禁書庫の中も見せるって言うのか?」

「別に構わんだろ。私と馬鹿が黙っていればバレることはないんだからね」


 禁書庫……ってなんだ?

 これはミカエルの情報にも無かった話だな。仮に予想するとすれば……この焦りっぷりからして普通の人には見せられない何かだろうか。書庫って言っているんだから本が多くある場所なんだろうけど……うーん、考えれば考えるほどに訳が分からなくなるな。


「ハァ……つまりは黙っていろってことかよ」

「何度も助けてやったんだ。それくらいはやってくれなきゃね。知っているだろう、私は可愛い子が大好きさね。ショウのような可愛くて愛で甲斐のある子は特に」


 うっ、この目はこの目で嫌だな。

 舌なめずりしながら俺の方を見てきた。悪いな、婆さん。俺には伊藤さんというかけがえのない存在がいるんだ。他の女に目を奪われるわけにはいかないんでね。


「有難い話ですが愛でるのを許すか許さないかは俺が決めますよ」

「いいや、ショウは許すさね。まぁ、今は許してくれないだろうが……そのうち」


 不敵な笑みを浮かべて扉の奥へ戻っていった。

 そのうち……そんな瞬間が来るのかね。悪いけど俺の好みの女性は年齢の幅が十歳までだ。五十も六十も離れたレディに好意を持ったりしない。ただ一緒にいる時間が長ければ長いほどに好意を抱きやすくなるとかいう話を聞いた事があるし、もしかしたら有り得ない話ではないのかもしれない。


 フィラが俺をどう思っているかは分からない。

 でも、仲が良くて悪いことは少なくともないだろう。それだけの力がある人だということだけは話していて分かったからね。グランもフィラの言葉を否定することはなかったわけだし。とりあえず禁書庫の話は別に知りたい情報だけは頭の中に入れておかないとね。


「悪いな、俺は俺でやらなきゃいけないことがあるから図書室の案内は出来ない」

「別に良いですよ。調べ物を探すのは得意なんで」


 勘がそう言っているからね。

 まぁ、教えてもらわなくても幸運が高いんだ。だから、割と簡単に見つかりそうな気はする。知りたい情報が書かれた書物を今日中に全て読みきることは出来なさそうだけどね。時間に関しては有限だし。


 グランと分かれて中に入る。

 外からはちゃちく感じられたけど中に入ったら一変した。目の前に広がる本の山、その数は百、二百で済むとは到底、思えやしない。軽く見渡しただけでそれだけの数があるんだ。奥の部屋とかへ行くともっと本が増えるんだろう。この中から知りたい情報が書かれた本だけを読む。


「中々にハードだな……」


 ため息が漏れてしまう。

 まぁ、王国の拠点である城の図書室なわけだし多くても何ら不思議ではないか。仕方ない……とりあえず手近な本から方を付けていこう。適当にやっていれば最低限の知識は手に入るだろうしね。これだけあるのなら明日以降も来る必要があるかもしれない。

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