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1章18話 菜奈の覚悟

総合PV5,000を突破しました! ありがとうございます!

この調子で伸びてくれると嬉しい限りです!

「それはさせられません」


 グランには悪いが却下だ。

 確かに戦ってみてからの方が得られるものは多いかもしれない。でも、それで怪我や怖い思いをしては元も子もない。そのせいで戦いになる度にフラッシュバックして死んでしまうなんてことも有り得るからね。だったら、経験値魂を与えて安心出来るレベルまで上がってからの方が安全でいい。


 戦闘面では……俺が何とかしよう。

 経験が浅いから教えられることは少ないけどアニメとかの知識で幾分かはマシに出来るはず。辛いことを無理してまでする必要は一切ないんだ。少なくとも俺にはそれを回避するだけのチートスキルがあるわけだしね。


「なぜ、とは聞かんよ。ショウはイトウのことが好きだもんな」

「好きということは否定しません。ですが、一番の理由は全然、違います。ただただ単純に俺の考えに反するからです」

「分からなくもない……が、何もしないと置いていかれるだけだぞ」


 置いていかれる、別に悪くは無い。

 元より王国の目的は新島だ。俺達に目をかけているわけでもないのだから無理をする理由はない。仮に弱くて追い出されるのであれば好都合、他の転移者に虐められたのであれば最悪は殺しあってもいいからな。まぁ、幸運が高い分だけ下手に俺の立場が危うくなることはないと思うが。


「その分、俺が強くなるだけです。伊藤さんが危なくなれば俺が守ればいいだけ。俺にはそれを出来るだけの力があります」

「それは慢心じゃないのか。ましてや、それでイトウは成長するのか。考えてみろ、お前のその考えは間違いなくイトウのためになるのか、と」

「出来ます、いや、させてみせます」


 要は運が良ければ全て解決する話だ。

 デイリーガチャで経験値魂を引いて、もしくは俺がつけている装備品でも良い。そこら辺を引いて安全な状況を作り出せばいいんだ。ラスボスを倒す前の装備があればドラゴンでも出ない限りは死ぬこともないだろう。成長だ何だはそこから始めていけばいいだけの事。


 体の傷はすぐに癒えるだろう。

 でも、心の傷はそうはいかない。伊藤さんは今まで苦しんだんだ。それを俺は情報として詳しく知っている。転移するという不幸も味わって、それでも早く早くと成長し強くなる必要はあるのか。いや、あるわけないだろ。体を鍛えるときに休息が必要なように、伊藤さんの心にだって安らぎや休みはいる。


「すいません、ショウさん」

「うん……?」


 呆れたようなグランの顔。

 睨み合いにも近い状況を壊したのは話題にも上がっていた伊藤さんだった。振り向いて見えた伊藤さんの顔は……どこか悲しげに見える。もしかしたら俺の言葉のどこかに伊藤さんの心の傷を抉る何かがあったのかもしれない。そう思って伊藤さんから何かが発せられるのを待った。


「そこに私のいる意味ってありますか」

「いる意味……はあるよ。俺が安心する」

「そうじゃないです。戦う時に私がいて助かることがありますか、という話です。誤魔化さないでください」


 伊藤さんに睨まれてしまった。

 戦う時に助かることか、それは今のところは無いかもしれない。でも、何の問題もない。だって、悪いのは準備も何も無くダンジョンへ行かせた王国側だ。初めての魔物を怖がるのもおかしくないからね。逆に慣れ始めている俺の方がおかしいんだ。普通はこうもいかない。


「考えるということは無いということではありませんか。今の私って足手まといになっていませんか」

「そんなことはないよ」

「でも、即答出来ませんでしたよね。考えないと必要かどうかも分からないのは足手まといと変わりないじゃないですか」


 それは……確かにそうかもしれないけど。

 いやいや、だからといって危険かもしれない魔物との戦闘を許すわけには……いかないよな。俺のワガママなのかもしれないけど怪我なんてされた日にはどうなる事やら。新島が怪我をしようが死のうがどうでもいい。でも、伊藤さんを新島と同等には扱えそうにないからさ。


「グランさん、私戦います。ショウさんの足手まといになりたくはないです」

「いいのか?」

「いざと言う時に戦えないとパーティを組む意味はありませんよ。ここまで助けて貰っているのにショウさんに甘えっぱなしではいられません」


 甘えっぱなしで良いと思うんだけど。

 それでも伊藤さんはそうしたくはないらしい。オドオドしてゴブリンに怯える姿とかは可愛いから良いと思うんだけどなぁ。そんな姿を見たら男なら守りたいってなると思うよ。


「俺に甘えるのは嫌なの」

「違います……言葉だけだとショウさんに甘えたいんだって捉えられそうですね。ただ甘えたくないわけではないですよ。私は……ショウさんの力になりたいだけです」


 それは存在価値が欲しいのかな。

 だったら俺の傍に居てくれるだけでいいのに。というのは……まぁ、違うよな。本当は分かっている。きっと動けないままでいるのが嫌なんだ。虐められた時のままでいるのが嫌なんだ。俺の力になりたいのだって、異世界に来て最初に伊藤さんを助けた俺から嫌われないためだろう。


「いるだけでも十分、力になっているよ。伊藤さんがいたからグランさんと戦う時だって勝ちたいって思えたんだ。きっと君がいなかったら俺は一人孤独に王国で生きていた」


 その言葉は嘘ではない。

 伊藤さんがいなければ俺は誰とも接触することなく細々と活動して、目立たず王国から抜け出していただろう。グランとの戦闘だって死んでも問題がないのだから本気を出す理由もなかった。それだけ短い時間の中で伊藤さんの存在が大きくなっていたんだ。ミカエルもこうなることを予測して俺に伊藤さんの情報を渡したんだろう。今ならそう思えてしまうほどに伊藤さんは良い人だ。


「でも、勇気を出せなければ今みたいに無駄な時間を使うことになりますよ。ショウさんに必要とされるのは嬉しいです。だけど、それで赤鳥みたくなるのは嫌なんです」

「赤鳥……そっか」


 ああ、俺は勘違いしていたみたいだ。

 伊藤さんが気にしているのは甘えているとかではない。よくよく考えてみれば分かったことだったね。伊藤さんは赤鳥達が大嫌いだ。虐めてくる人達を好きになる人はイエス・キリストみたいな存在くらいだからおかしくない。


 その赤鳥達は動けなかった。

 命の取り合いでも何でもない、グランとの模擬戦で威圧に耐えられず。その時だって伊藤さんは勇気を出して攻撃していたんだ。それも赤鳥と同じだって言われるのが嫌だったからだったんだね。そして未だに赤鳥達の行動を引き摺っている。


「伊藤さん一人で戦わないと駄目かな」

「ショウさんは一人で戦っていましたよね。だから、私も一人で戦えないといけません。それに」


 それに……何だろう。

 含みのある言い方をしてくる割には要領を得ないというか、頬を赤らめてくるばっかりで続けてはくれない。まさか……何かエッチな想像でもしているのではなかろうか。果たして、その相手は俺なのか俺じゃないのか……個人的にはかなり重要だぞ。


「危なかったら……ショウさんが守ってくれますよね。だから、一人で頑張れます」

「まも……うん、守るよ。絶対に死なせたりなんかしない。危なかったら遠くからでも君を守ってみせるよ」

「なら、私を信じてください」


 ここまで言われてしまうと何も言えないな。

 この目は本気で覚悟しているんだ。自分の嫌いなゴブリンを殺すための覚悟を秘めている。同時に俺から目を離さない当たり頼っているんだろう。死にたくないのは誰だって同じだ。伊藤さんだって死なないために安心感を得ようとしている。それがゴブリンを瞬殺出来た俺なだけ。


「分かったよ、でも」

「でも?」

「無理はしないでね。死ななければ幾らでも俺が治してあげるからさ。死んででも殺すみたいな考えはやめて危険だと思ったら俺に頼って欲しい」


 この言葉は……正解かな。

 嬉しさからか、頬を赤くしてうんうんって首を縦に振っている。大丈夫、戦う覚悟さえあれば伊藤さんなら簡単にゴブリンを倒せる。怪我をして欲しくはないけど、それも俺の回復の短剣で楽に治せるからね。ここまで言っておけば無理をすることはきっとない。


「なら、決まりだな。着いてこい」


 長年の経験で魔物の位置が分かるんだろう。

 俺達は悠々と歩くグランの後ろを着いていった。

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