1章17話 グランの案
「とりあえずは片付いたな。それで他には何をしたいとかあるか。話の途中だったから聞きたいことがあれば話すし、戦いたいのであれば敵の場所へと連れていくぞ」
どっちがいいかな、悩んでしまう。
この世界に関する情報は俺達には無いから聞くのはアリだよね。でも、それって別にここで聞く必要性もないしさ。だったら、戦うために敵を探してもらうか。……それはそれで伊藤さんに負担がかかりそうだから何とも言えない。
「後、どれくらいココにいられるんですか」
「二刻程度だな、帰りは帰りで全員に話さなければいけないことがあるから無駄な時間を取りたくはない」
二刻か……短いなぁ。
王国だと二時間を一刻って纏める慣習があるらしい。もちろん、全員が使うわけではないらしいんだけどね。これは情報に小さく書かれていた。他にも幾つか王国の慣習はあったけど……そこまで重要ではないかな。
四時間って長そうで短いからね。
特にダンジョンに入って十分は経っているだろうから、まだまだ時間があるって考えて動くと何も出来ないで終わる可能性がある。説明を聞くのだって時間を取るからね。それにここは話を聞くには落ち着かないだろうし。
「まぁ、盗聴される恐れは無いですからね」
「確かにそうだが……まぁ、任せる。俺は二人の成長を見たいから敵を倒して欲しいけどな。早いうちに下へ下へと進むことになるから強くならないと置いていかれるぞ」
それは……ガチャで何とかするんで。
そんなこと言えるはずもなく……周りに探られずにレベルを上げるには戦う必要はあるか。個人的には戦うこと自体はしておきたいけどね。もう少しだけ動ける範囲とかを理解しておかないといけなさそうだし。注意として下へ行くことをあげる当たり下の階層の敵はココよりも強いんだろう。わざわざ強い敵と戦って理解するよりは今のうちに知っておきたいかな。
「伊藤さんはどうしたい」
「え?」
「見た感じゴブリンには慣れていなさそうだからさ。魔物を見たくないのなら話を聞けばいいかなって。もちろん、戦った方が良いって思うのならそっちでもいいよ」
ここは俺が決めるべきではない。
他人任せって言われるかもしれないけど知らない存在に簡単に慣れるわけもないからね。俺はまだアニメとかの知識が頭に残っているから耐性はあるけどさ。伊藤さんに関してはアニメ知識はほぼゼロって言ってもおかしくないだろう。記憶は無くなっても知識はあるらしいからね。これだけは感謝しているよ。……その残っている知識の中にグロい物が多くある理由はよく分からないけど。
「ショウさんに」
「それは困るかな。俺よりも伊藤さんの方が異世界の知識が少ないからさ。俺に合わせられても伊藤さんの分からないこと、辛いことを無視してしまうことになるんだ」
Gを嫌いな子にその動画を見せるかって話。
俺なら別に見ていられるけど大概の人はそうでは無いだろう。それは生理的に、本能的にGを嫌悪しているからで『慣れろ』って言われて『あ、慣れました』ってなる人はいない。よく例え話で言われるけどゴブリンはGと同じ扱いだからね。繁殖力は高いわ、人に害を与えてくるわで良いことが限りなく少ない。
「なら……って、おちおち話もしていられないな」
何か折衷案でも浮かんだのか。
グランが俺達の間に入ってくれたけど水を差すようにゴブリンも現れてきた。……うん、やっぱり戦いたいって言わなくて良かったよ。また伊藤さんの体が強ばってプルプル震えている。苦手なものはどこまでいっても苦手だよな。
「始末します」
今回は五体か、ちょっと多いな。
たださっきの戦いからしてステータスは俺よりも確実に低い。グランと戦った経験からなのかもしれないけど倒せなくはないかな。少しダルそうではあるけど……そうも言っていられない。早く倒して伊藤さんの不快感を払わないと。
同じ行動ではあるけど短剣を投げてみる。
同時にナイフも投げてみた……が、これは即殺できるほどの力は無いかな。刺さるだけで貫いてくれはしない。短剣で貫いた二体は殺せたのにナイフを刺した三体は激高しただけだ。それでも伊藤さんへ色情の籠った視線を向けているんだからゴブリンを好きにはなれない。従魔は欲しいけど弱い、使えない、気持ち悪いの三拍子が揃ったゴブリンは要らないかな。
刻印で毒の短剣、ナイフ三本を戻す。
ナイフ自体は短剣ほど大きくはないから片手で三本とも持てるな。そこまで計算してやってはいなかったからちょっと安心した。片手のナイフ三本を投げつけて一体の頭と体に刺す。あの一体だけ伊藤さん目掛けて走っていたし倒せたようで良かった。
残り二体は……思ったよりも近いな。
刻印でナイフを戻している暇も無さそうなので毒の短剣を構えてみせた。距離を詰めるのは……無しだ。投げるのは得物を無くすだけで危険過ぎるから……片方を躱すのがベターかな。ベストは分からないから何とも言えない。
躱せ……はするか。
手に持つナイフの振りは見てからでも何とかなる速度だ。いや、比較相手がグランだから当たり前なんだけどさ。ここまで思考が持っていかれないのは本当に戦い慣れていない今、ありがたいね。上半身を仰け反らせて横振りを躱す。
「躱したら、刺す」
そのまま短剣を横へ振って首を断った。
当然、ゴブリンの首が中へ浮いて煙になってくれたよ。短剣様々だ、最初は剣や刀のような攻撃範囲の広い武器の方が良かったとは思ったけど今は違うね。遠距離にも近距離にもなる短剣は俺にはピッタリかもしれない。ただ短剣の熟練度を上げるなら速度はもう少し欲しいかな。
「もう一体」
こっちは……ああ、逃げようとしている。
まぁ、逃がすわけもないんだけど。逃がしても別の人に狩られるだけだし、何より仲間を連れて来られても面倒だ。主に伊藤さんへの負荷が大き過ぎる。仕方ないから短剣を投げて殺しておいた。
「美しいな」
「男に褒められても嬉しくないですよ」
可愛い男の人なら……いや、微妙か。
やっぱり、可愛い女の子に褒められて嬉しくない人はいないからね。ゴツくて戦うことが大好きな人に褒められるよりも伊藤さんに褒められたい。メガネを外した状態で「カッコイイです」みたいに褒められたいね。あ、上目遣いも追加で。
言われる前にドロップ品を回収しておく。
予想通り落ちたアイテムはさっきの物と違いは無かった。ゴブリンから落ちるアイテムはアレだけなんだろうね。これでゴブリンのナイフが高く売れればかなりありがたいんだけど。まぁ、そこら辺は売れる時に教えてもらえばいいや。今のところは緊急で資金が欲しいというわけでもないし。
「それで何を言いたかったんですか」
「何を……ああ、二人がどうするか悩んでいたみたいだからな。だったら、次は戦闘をしてみて考えればいいんじゃないかって」
「それだと変わりないと思いますよ」
今の二戦と何も変わりない。
伊藤さんは俺の後ろにいてもらって、気持ちの悪いゴブリンは俺が殺す。今のところはこの戦い方で困ることはないからな。縛りをつけるとしたら俺の短剣を使わずに、とかだろうがグランがそんなことを言うとは思えない。……まさかね。
「言葉足らずだったな。戦闘をするのはイトウ一人で、だ」
危惧していた考えが当たってしまった。
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