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1章14話 自由気ままに

「まずもって俺が模擬戦を担当した理由は分かるか」

「調子に乗らせないためだと思っています」

「その通りだ」


 グランがフンと鼻を鳴らす。

 絶賛、調子に乗っている勇者の鼻を確実に折れるのは名だたる兵士くらいだろう。それ位には癪だけど彼等も強いからさ。となると、そんじょそこらの兵士では確実に倒すことは難しくなってしまう。殺しても良いのであれば出来なくはないだろうけど、あまり望まれてはいないはずだ。そこまで考えると、かなりのステータス差が無ければ手加減もままならなくなってしまう。


 そこでグランだ。

 性格的に勇者達に怒り等は覚えていても話しぶりからして命令に背く可能性は薄い。加えて戦っだからこそ分かるけど、かなりの強さを所持していて如何なる場面でも冷静だ。相当な場数を踏んできたグランならば楽に勇者達のお守りも出来るだろう。


「俺は酒が飲みたかったからな。高い報酬を出してくれるのであれば仕方なしに依頼は受ける。所詮は見せかけだけの雑魚ばかり。高くてもCと踏んでいた。確かに勇者はC未満のDだったが」

「何か」

「お前だよ、俺の中での想定外は。戦ってみて公にしたステータスとは大差無い。だというのに俺を倒す手前まで追い詰めやがった」


 はぁと大きなため息を吐きながら笑う。

 見た感じ怒っているとかの負の感情があるわけではないんだろうね。どちらかというと俺達が旅行前に感じるようなドキドキに近そうだ。そこから来る続きが気になるような笑み……じゃないかな。


「まぁ、どうせ適当なことを言ってはぐらかすんだろうから続けるつもりは無い。だが、俺はショウが他の人に見せられない強さを持っていることだけは直感で理解している」

「……一応はありますよ。毒という力をね」

「それ以外でもだ」


 おっと、これはバレているのかな。

 ワクワクしたような目で俺を見つめてきた。どこまでバレているんだろうね。もしくは、この目も詳しく俺に話させるためのカマかけか。どちらでもいい、例えバレていようと詳しく話すつもりは無いからな。


「安心しろ、この部屋に盗聴の類はねえよ」

「いえいえ、そんなことは最初から承知の上で話していますよ」

「盗聴って聞いても驚かないんだな」


 うん、別にそこは考慮しているし。

 自室だからといって下手なことを言っていないし伊藤さんにも話していない。元から俺の力をグランに話すつもりが無いだけだ。逆にニヤニヤしながらでもバラしてくれて助かったよ。これからは盗聴前提で伊藤さんとコソコソ話するだけだ。


「まぁ、いいか。今は続きだ」

「時間が無いですもんね」

「いや、俺は結構、暇だぞ」


 ここは笑うべきなのかな。

 異世界人ジョークだと思って一応、笑って見せておいた。兵士の職務を詳しく知っているわけではないからさ。単純に忙しくない可能性もあるし笑わせるためのジョークでもあるから何とも言えない。


「それで、だ。ショウ達を含めた転移者達には実戦訓練を積んでもらう必要がある。そこで俺達のような戦闘経験を多い兵士達が何れかのパーティを担当してダンジョンに潜り込むことになったんだ」

「そのためにも模擬戦が必要だった、と」

「それは知らない。俺は金を積まれたから受けただけだしな。もし仮に興味を持てる存在がいなければパーティの担当につく気もなかった」


 で、俺達がいた、と。

 なるほど、確かにグランが俺達の担当になる理由はよく分かるね。下手に勇者につくよりも自分が楽しんで教えられる人の方がストレスは薄そうだし。何よりグランからすれば俺の力が気になるんだろう。話を聞けば聞くほどに俺達に肩入れする理由が分かってくる。


「まぁ、ショウ達は割と担当したい兵士は多かったからな。だから、お前の評価はかなり落として言っておいた。アレだけ戦えて前に出てこない当たり目立ちたくないんだろうと思ったからな」


 ふむふむ、それは助かるね。

 他の兵士に関しては俺は知らないわけだし、何より評価を下げてもらえて大助かりだ。よくもまぁ少し話しただけで俺の気持ちをここまで汲めるな。口や態度が悪い割には人の気持ちがよく分かるオッサンらしい。まぁ、そうでもなければ高い地位につけるわけもないか。


「ちなみにどんな感じで話したんですか」

「ああ、かなり手加減して戦ってやった。それでもめげずに向かってくる根性は評価するが無謀だから本気を出したに過ぎないってな。もしかして高い評価をした方が良かったか?」

「低い評価で正しいですよ。変に勇者達と対立したくないんで目立ちたくないんですよね。ましてや、王国のために働きたいわけでもないですし」


 ポカーンとした顔をしている。

 そしてすぐに大きな声で笑い始めた。何がそんなに面白かったのか分からないけどツボに入ったらしい。一分経っても豪快に笑い続けていた。


「何か面白かったですか」

「はっはっは、済まないな。ここまで俺の考えと似ていると笑えて仕方がないんだ。確かに王国に仕えるのは面白くないよなってな」


 それは……否定しない。

 そんなに自分と似た考えの人が少なかったのか。ライトノベルとかの知識のせいで過去に転移してきた人の中には、俺のような奴がいてもおかしくないと思えるんだが。もしかしてグランが転移者と会うのは俺達が初めてなのかな。それなら理解は出来る。


「精神面でも肉体面でも面白い。それでいて機転も利くっていうんだから興味を持つなと言われる方が難しいだろ。なんて言ったって俺を追い詰めたショウなんだからな」

「それは過大評価です。グランさんが俺の動きを見定めようとしたからこそ、あそこまで戦えたわけで」

「お前と同じだけの力で戦った勇者様とやらは一瞬で気絶していたが?」


 うっ……それは否定出来ないな。

 だってさ、アレは幸運が高かったのと防具があったからってだけで……いや、それは言い訳にはならないか。確かに結果として俺はグランと対等に戦えたんだ。人前で話さずともグランの前で隠す必要は無いだろう。


「それに君は俺の攻撃を躱してみせた。あのステータスで躱せる奴なんて滅多にいないぞ」

「運が良かっただけです」

「運も実力のうちよ。それも含めてショウは俺好みってだけだ」


 嬉しいが言葉は選んで欲しい。

 俺好みとか背筋が冷たくなるって。悪いけど俺にはそう言った趣味は無い。どうせ、言われるんだったら伊藤さんに言われたいな。ショウのこと好きだよって……いやいや、今は関係の無い話か。


 とはいえ、運も実力のうちね。

 きっと俺と勇者の会話を知っていれば、そんなことも言えなくなるんだろうな。ただ……少しだけグランの言葉に甘えさせてもらおう。そう思っていれば本番の戦いでも勇気を出せるだろうし。


「ところで、ダンジョンは何時から」

「ああ、この後すぐだよ」


 違う意味で俺の背筋が凍った。

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