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1章13話 見知らぬ天井

「……ここは……」


 頭がボヤっとする。

 えっと……真っ白い天井……ああ、こういう時は知らない天井だって言えばよかったかな。匂いや雰囲気からして与えられた俺の部屋ってわけでもなさそうだ。となれば……医務室か何かかな。伊藤さんとかは……まぁ、いるわけないか。無理やりに体を起こして周りを見てみる。


「医務室……じゃないな」


 体を起こして初めて分かった。

 完全に医務室ではない。周囲にあるのは机やクローゼットなどの必需品ばかりだし。薬品が入っている瓶とか、医務室にありそうなものはどこにもない。もっと言えば生活感があるから誰かが暮らしているように見えるな。とはいえ、少しばかり質素に思えてくるけど。


「……外へ出ていいのかな」


 部屋を出るべきか分からんなぁ。

 ここへ運んだ人、もとい、恐らくここで生活をしている人が来るまで待つべきか。そうだとすれば後どれだけ待てばいいのだろうか。出ていったところで何かを言われるとは思わないけどさ。それでも申し訳ないと思ってしまうよね。


 確か……俺はグランに負けたはずだ。

 気絶した俺をここまで運ぶっていうのは割と重労働だと思う。ガリガリでも、痩せているって訳でもないからさ。お腹が少し出ているから重く感じてしまうだろう。感謝の一つは言っておかないと嫌な印象を覚えそうだからね。


「待ちますかぁ」


 待つのは得意だからね。

 恐らく、メイビーだけど何故か、そんな気がするんだ。それに模擬戦のことも思い出しておきたいからさ。何がダメで、何が良かったかを考えておくのは悪いことじゃない。少なくとも無理やりに距離を詰めることは間違いなく悪かった。結果論になるかもしれないけど転んだ状態でも蹴ることは出来たわけだからね。遠距離から短剣を投げ当てていればより良かったと思う。


 後は何だろうなぁ。

 とりあえずベットの上で胡座をかく。やっぱり、考えるのならこの体勢が一番だね。正座は足が痺れるし、椅子とかに座るのは腰を痛めてしまう可能性がある。それに胡座だと何故か安心するんだよなぁ。俺だけかもしれないけど。


「……まぁ、無理ゲーだったからなぁ」


 これに関しては間違いない。

 近距離戦なら即負けていただろう。遠距離で尚且つグランが俺の動きを見ていたからこそ、俺は粘って攻めに転じられた。仮に途中で伊藤さんが魔法を使ってくれなかったら、最初から勝つために動いていなかったら……恐らく速度の前に何も出来ずに負けている。


 そう考えると伊藤さんには感謝しないと。ある種の命の恩人だからね。元から魔法を使えたわけではないと思うからさ。だって、最初から使えていたのならもっと前から炎を放っていた。攻撃するチャンスは幾らでもあったわけだからね。


『得たばかりの力に酔い、立場に酔い、ただ剣を振り回すだけの勇者様とやらに、十何年と剣だけを振るい続けた俺に勝てる要素があると思うか』


 結果的に無かったなぁ。

 俺は勇者ではないけどさ。それでも持てる全てを用いて勝ちに行った。最初から試すことをせずに本気で来ていたなら……数回は躱し切れるかもしれないけど最後は一撃を貰って負けている。模擬戦だからこそ、勝てる可能性がほんの少しだけあったに過ぎない。


 力や立場に酔う、か。

 使ってみて分かったけど俺にも言えることだったなぁ。多分だけど死なないために俺は得たばかりの幸運を使うだろう。使って使って、擦り切れるまで使い続けるだろうね。それだけの価値があるものだっていうのをグランとの戦いでよく分かったからさ。


 そして立場に酔ってしまう。

 元から俺は女神から直で力を貰った稀有な存在だからね。そこで優劣は付けずとも優位には感じていたかもしれない。このまま俺は戦って強くなるだろう。逃げるために、死なないために簡単に負けない力は必要だからね。もし、そこで人外のような力を得たとしたら……俺は立場に酔ってしまうのだろうか。


 この言葉は心に留めておこう。

 俺は俺でいたい、そのために新島と同じような人間になってはいけないんだ。きっとコレを忘れて生きていたら新島達と変わらない屑になってしまう。俺は屑かもしれないけど人の心を殺すほどの屑では決してない。


「さて、と」


 腰元に手を回してみる。

 短剣は……あるな。回復の方を手に取って胸元に刺した。危なっかしいけどコレが回復を使う最低条件だからさ。刺した存在の傷を癒すっていう短剣の見た目からは想像が出来ない使い方。アイテム欄で見ていないと分からなかっただろうね。


 魔力を使うからMPはガンガン無くなるけど眠ったおかげで完全回復しているから問題無し。対してHPは半分まで回復しているかって程度だから出来る時にしておかないと。手持ち無沙汰っていうのもあるけど単純に暇なんだよね。考えたいことが無くなったら他にやることもないし。


 クルクルと短剣を抜いて上に投げてみる。

 案外と曲芸師の才能があるかもしれない。自画自賛出来る位には短剣の扱い方が上手いな。どれだけ力を入れれば、この位は飛ぶみたいなのが感覚で分かる。不思議だね、短剣術みたいなスキルは持っていないのにさ。


「お、意外に元気そうだな」


 入口の方から声が聞こえてきた。

 えっと……ああ、グランだ。まぁ、凡そグラン以外にいないとは思ったけどね。男の人で俺に話しかけて人なんて限られているし。……何でグランがとか思うのはやめておこう。部屋の物を的確に漁っている当たり多分ここは彼の部屋だ。目の前にコップとお茶を出してくれた。


「まずは謝ろう。本気でやって済まなかった」

「いえ、何で本気で潰しに来ているのかは俺でも分かりましたよ。勇者へ向けたあの言葉を聞けば誰でも納得はすると思います」

「……そうか、初めて言われたな」


 表情が一気に緩和した。

 あの言葉を聞いて何も感じない転移者はいないと思うんだが。というか、転移だ転生だと日本ではブームになっていたけどさ。そういう話の大概は主役が日本人ばかりだったからね。異世界の人の気持ちは書かれていなかったから、これが率直な異世界の人の感想なんだなって感じたけどね。


「でも、痛め付ける理由にはならなかったな」

「俺からすれば痛み付けなければ付け上がっていたと思いますよ。口に見合った力を持っていることを身をもって感じることは必要です」

「なるほど、君は本当に面白い存在だな」


 面白い、か。

 まぁ、グランに好かれるような言葉を選んで口にしているからね。これで嫌われはしないとは思っていたけど興味を抱くほど面白いと思ってもらえるとは。別に嫌な気はしないから構わない。あの時の模擬戦をもう一度、やろうと言われれば気は変わるかもしれないけどね。


 完全肯定をする気は無い。

 もちろん、多少の恨み節は言いたいよ。ステータスの低い俺に対して本気で殺しにきたのは馬鹿だと思うからさ。でも……グランが殺しに来なかったら俺は《《なあなあ》》で済ませていた。勇者に媚びへつらうだけの兵士なら話したいとも思わなかっただろうね。もしかしたら異世界人に対して偏見を抱いていた可能性もある。


「……やはり、最初から睨んでいた通り君達二人は面白い人間だった」

「二人?」

「ああ、ショウとイトウの二人だ。名前を聞いた時から二人には勇者とは違う何かを感じてな。予想通り二人は強かった。初めての戦いだというのに俺を倒す手前まで持っていったショウと、論理も知らないであろう魔法を使い一人になっても戦い切ったイトウ。面白いと思うなと言われる方が無理な話だ」


 違う何か……ねぇ。

 否定はしない、俺は勇者とは違う意味で神様から加護を貰っているからね。所謂、チーターだとかチート持ちって言われる存在なわけだから、そう感じてしまうのも不思議ではない。ただ、伊藤さんも俺と同じく違う何かがあったのか。そこに関しての情報は無かったから気になるな。


 まぁ、勘が外れた可能性もあるけど。

 だけど、確かに伊藤さんは初めての戦闘で魔法を放てていたわけだし、何かしらのチートがあってもおかしくはないかな。あったとしたら魔法に関する何かだろう。……憶測を並べても意味は無いか。どうせ、一緒にいれば分かることなんだ。考え込む必要は無い。


「貴方にそう言って貰えて光栄です」

「ああ、これからは俺が二人を教えることになるからな。敬われて嫌とは思わない。が、あくまでも俺は君達と仲良くなりたいだけだ。他の人がいない時くらいは堅苦しくならなくていい」

「分かりました」


 敬われるのは得意ではないと。

 気持ちは分かるな、俺だって年下から敬語で話されるとムズムズするからね。尊敬されること自体は嬉しくても人前以外ではラフに話される方が気は楽だよな。話して分かったけどグランの性格は結構、好きだ。にしても……二人を教える、ね。


「グランさんが俺達のパーティの指南でもするんですか」

「ああ……そう言えば話していなかったな。君が気絶しているうちに全員に話していたんだ。……あい、分かった。それも含めて全部、説明しておこう」


 グランが笑顔を見せてきた。

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