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1章9話 要らない考え

「……あー、朝か」


 寝覚めが悪い、というか軽く頭が痛い。

 昨日は……ああ、情報を見ている最中に寝落ちしてしまったのか。ページが幾らか読み進められている……なるほど、ピックアップされていた人の情報を読んでいたんだな。ただ、あまり記憶には残っていないから無駄だったかもしれない。


 時間は……六時半か。さすがにこんな早くから動けとは王国側も言わないだろう。それなら暇な時間もあるし軽く流して読み返しておこう。伊藤さんへのイジメ関連以外の話は読んでおいた方が絶対にいい。


 えっと、まずは新島と組めた女子からだな。

 一人目がイジメの主犯格である金髪ロングの化粧が濃い女だ。いわゆるギャルって奴かな、個人的には好みじゃない。清楚が好きってわけではないけど写真を見た感じ清潔感が皆無なのがちょっとね。普通の顔をした俺が言えたことじゃないか。ただ一つだけ言えるのはコイツより伊藤さんの方が絶対にいい。名前は……赤鳥あかとり青葉あおばね。


 次いで取り巻き一号さん。

 この人は……うん、良くもなく悪くもなくって感じの見た目だ。黒髪おさげの普通の子、ただ父親が小さな工場を経営しているみたいで資金援助している新島の言う事は絶対らしい。隠れてそういう関係にもなっているみたいだね。性格がすごく悪いわけじゃないんだけど標的が自分にならないように手助けしているようだ。まぁ、板挟みで可哀想だとは思うが虐めに加担した時点でアウト。名前は自工じこう光幸みゆきか。珍しい苗字だな。


 取り巻き二号さんも金髪ギャルか。

 この人は……特筆すべき点はないなぁ。強いて言うのなら化粧が少し薄めってくらい。可愛いって感じもしないな。あ、この子だけ新島を好きな理由が書いてある。……中学の時に虐められていたのを助けてくれたから、か。なら、なんで高校に入ってから違う人を虐めているんだか。これは確かに屑だ。名前、は……井橋いばしなつ


 どの子も伊藤さんには叶わないな。

 それに……全員がどこか頭がおかしい。一人目は伊藤さんを虐める屑で、二人目は自分の環境が悪いと思うだけで受け入れる馬鹿、三人目に至っては虐められていたはずなのに違う人を虐めるとかどうなっているんだ。……この子達だってステータスが人並み以上で無ければ新島と組め無かっただろうに。いや、都合のいい女達だから無理にでもパーティを組んでいたか?


 まぁ、俺には関係が無いか。

 他人の色恋沙汰に興味を持っても面白いことはないからね。そんなことよりも他のピックアップされた人達を見た方がいい。出来れば見たくはないんだけど……読んだ中身を覚えていないから今のうちに済ませないといけないよなぁ。何で男なんかの情報を知らなければいけないんだか。


 まず一人目はゴリラゴリラゴリラ。

 身長の高い筋肉ムキムキの肌黒、これに限る。ちなみに性格はクソ最悪だ。後輩の女の子を襲ったり新島と組んで女の子とパーティーしたりとしてきた事が終わっている。ピックアップ理由も伊藤さんを狙っている男らしい。それなら守るしかないだろう。……でも、コイツ確か女の子とパーティを組んでいたはずなんだけどな。なんで伊藤さんに声をかけなかったんだろう。名前は……池田いけだ大吾だいご……もといゴリラゴリラゴリラでいいだろ。


 二人目はヒョロくてガリガリな男だ。

 死んだ魚の目をしていて載せられている写真も見るだけで不快感を覚えてしまう。家庭環境があまり良くなかったようで生きる喜びを探しているみたいだ。詳しいことも書かれているけど読みたいとは思わないな。……最初だけで池田と同レベルのヤバい奴なのが分かるし。名前は遠山とおやまりょう


 三人目はこれといって特徴がない。

 顔も体型も人並み、装飾品などをつけているわけでもない。身長は……ああ、これくらいか。身長が男性にしては低めの百六十位しかない。これを指摘すると誰であろうとブチ切れるようだ。高校では新島と殴りあって勝ったこともあるくらいにはパワー系の男らしい。名前は……鬼塚おにづか飛鳥あすかか、可愛らしい名前だこと。


 最後は長い前髪のメガネだな。

 コイツは……ああ、なるほど。池田達とは違う意味でヤバそうだ。自称サイコパスの選ばれた存在らしい。親が熱心な宗教家のようで名前も救済と書いてメシアと呼ぶヤバい奴。でも、ステータスは確かに高いし固有スキルまで持っている。固有スキルも中身までは分からなかったようだけど名前と同じ『救済』らしい。……苗字は普通で佐藤みたいだ。確かに関わらない方が良さそうだな。


 大体は読んだし覚えたぞ。

 まぁ、二度と読みたいとは思えない内容だったけどね。男子も女子も書いてある事が腐り切っていて好めない。本当にヤバそうな所だけは読み飛ばしているからな。少なくとも一つだけ思ったのは確かにコイツらならばいなくなっても困る人は多くないだろう。ってか、俺が被害を受けていた側なら消えて清々するような屑ばかりだ。


「終わり、かな」


 これ以上の情報は今は要らない。

 そっとステータスを消して、もう一度ベットに体を預けてみる。時間は……二十分しか経っていないのか。情報を見たせいで少しだけ寂しさを覚えてしまったみたいだ。なんでコイツらには日本にいた時の記憶があって、俺には記憶が無いのかってね。こんな屑でも記憶を引き継げたんだ、もしかしたら俺はコイツら以上にヤバいことをしていた存在なのかもしれない。


 そう考えてみたけど……まぁ、ないか。

 狂った人と関わる機会が無かったから詳しいことは分からないよ。でも、そういう人達ってどこか人格か思考に難があると思うんだ。伊藤さんと話してみたけど自分で自分の考えが変わっているとは思えなかったし。……自分で気が付けていない可能性も考えてみたけど例えそうだとしても現実味がなさ過ぎるな。


 ボーッと天井を眺めてみる。

 特に他の考えが浮かぶわけでもない。寝ようと思えば眠れそうだけど……さすがに寝るわけにもいかないからね。初日から寝坊とか目を付けられるに決まっている。それこそが俺にとって一番に嫌な事だ。まぁ、伊藤さんのクラスメイト達から変な目で見られているわけではないし有名人ってこともないかな。


 体を無理やり起こしてシャワー室に入る。

 軽く顔を洗って水と共に嫌な考えを排水溝に流し込んだ。初めてしっかりと自分の顔を見たが少しだけ汚く見えてしまった。日本にいたであろう俺の顔もこんな感じだったのかな。今更になって記憶を返して欲しく思えてしまうよ。


「シュウさん、おはようございます」

「……ノックはして欲しいかな」

「したん、ですけどね」


 部屋から出ると伊藤さんがいた。

 昨日と変わらない笑顔を見ると、自分の考えが無駄だったように感じられてしまう。いや、本当に無駄だったんだろうね。考え込むのも馬鹿らしくなってきたよ、単純に性にあわない。この世界に来て、記憶も失ったんだ。元の俺とは違う存在に変わったんだろう。


「おはよう、伊藤さん」

「はい!」


 元気な挨拶、そしてノックの音が響いた。

 外から聞こえる兵士の朝食を知らせる声を聞いて伊藤さんに笑いかける。伊藤さんもお腹が減っていたんだろう、その瞬間にグゥと可愛らしい音が聞こえてきた。恥ずかしそうな顔に余計に笑みを隠せなくなってしまう。


「笑わないでください!」

「俺もお腹が減ったからさ。恥ずかしがらなくていいと思うよ」

「そういう問題じゃ……あー! もう行きますよ!」


 怒って先に行ってしまった。

 伊藤さんを一人にするわけにもいかないので離れない程度の距離を保ってついていく。伊藤さんとパーティを組んで良かったと強く思った。これだと一人で逃げるなんて出来なさそうだね。二人で逃げるための準備をしないといけなさそうだ。




 ◇◇◇




「本日から皆様には戦闘訓練に参加していただきます」


 一番前に立ったメサリアが胸を張り言う。

 朝食を食べる前の開口一番の言葉がコレだ。まぁ、いつかはすることになるだろうとは思っていたけど昨日の今日か。まだ転移して一日も経っていないのに平和ボケした人達に戦闘のイロハを教えるって、かなり急いでいるように感じられるな。戦力増強のために呼んだから仕方ないとは思うが……あからさま過ぎないか?


 まぁ、別にいいか。

 部屋にいるよりは伊藤さんとナイショの話をしやすいし、もしかしたら魔物と戦えるチャンスが巡ってくるかもしれない。逃げる時までに幾らかは戦えるようになっておかないと、どんなに逃げで使えるアイテムがあっても難しいだろう。それは低レベルな伊藤さんも同じだ。……伊藤さんも俺も戦えるかは分からないけどな。


 今回は居残りを命令されてしまったので早く食べるなんてことはしない。勇者に気を使っているのか、朝食は味噌汁のようなものと白米モドキ、そして漬物と焼き魚だった。城で出すものだけあってか質素に見える食事だったが、味は今まで食べてきた朝食の何よりも美味しかったよ。まぁ、今までの朝食の記憶が無いから言えるんだけど。

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