王の遺産
「なんだ! あれは……」
そこにいたのは大きなドラゴンであった。
私の世界でもドラゴンに勝てる者は極わずかだ。
そんな存在に私は出くわしてしまった。
ドラゴンが私に気づく。
そして、炎を吐きながら襲ってきた。
「くっ!」
間一髪でその攻撃を避ける。
炎が突き抜けた道は、大きく焼け焦げ、後ろの木々は燃え盛っていた。
「まさか、 こんなことになろうとはな」
私は手にヒドラの短剣を持つ。
この剣は人間であればかすり傷でさえ即死するが、ドラゴンであれば複数回深く突き刺さなければ倒せないであろう。
ドラゴンが尾を振って攻撃する。
一振りで大きな風が巻き上がり、木々が折られていく。
「くそっ!
これでは近づくこともできない」
私は一旦退くことを選ぶ。
猛スピードで走り抜ける。
私は倒れた木々などの障害物をよける中、ドラゴンは破壊しながら追いかけてくる。
「まさか追ってくるとは……
危害を加えようとしている者を攻撃しているのかと思ったが、 そうではないようだな」
だが足は私の方が速い。
ある程度の距離をとり、短剣から黒い長弓に持ち帰る。
そう、レヴェルト王の遺産。
光の弓だ。
私は重い弦を引く。
そして周りから光が集まり、矢の形を作っていく。
(まだだ!
まだこれでは足りない!!
もっと魔力をこの矢に込めなければ)
これ以上込めれば魔力の枯渇によりしばらく動けなくなるかもしれない。
「ぐっ!」
腕がメキメキと音を立てる。
どうやら、今まで出したことのない魔力の放出により体が悲鳴を上げているようだ。
集まる魔力により、暴風が吹き荒れる。
それは追いかけてくるドラゴンでさえも近づけないほどだ。
眩しいほどの光が矢として形を作っている。
「うおぉぉぉぉぁぁあああ!!」
矢を持つ手の皮膚が破れていく。
集まる魔力の暴走で雷が鳴り響いた。
私もここまでの威力ではこの土地がどうなるか分からない。
(すまない)
私はこの土地に住まうものに心の中で謝る。
確かにこのドラゴンは私の世界のドラゴンから見ればそこまで強くはない。
だが私はただの弓兵なのだ。
力を持つ特別な存在ではない。
ただ、我が王の遺産で強化されているにすぎない。
だが、私はこの武器の担い手として無様はさらせない。
──数多の王が残した意志
──それを受け継ぐ担い手
──これは世界を救う戦いである
名を……
「ルクスプルヴィア!!!」
矢を支える血だらけの手を離す。
その瞬間に大きな爆発が起きた。
その矢は矢というより大きな光の光線として飛んでいく。
着弾するまでに周りの大地を焼いて吹き飛ばした。
そしてドラゴンに彗星のごとくぶつかっていく。
そして着弾すると大きな光の柱となって上空に打ちあがった。
ドラゴンは灰すら残さず消え失せる。
緑豊かな森は一瞬で溶解した大地がむき出しの地獄と化していた。
「これは……」
ここまでの威力とは思わなかった。
私の凡庸な魔力量でさえこれならば、これを操っていた王はどれほどの威力だったのか……
考えるだけで恐ろしい。
「最大出力で撃つのは止した方がいいな」
私は心の中で禁戒を作る。
自分の大切な場面以外絶対に最大で撃たないと……
「ハァ。
魔力が枯渇している。
これは、 しばらくはこの弓を使うことができないだろう」
私は魔力がないことによるダルさで足を引きずり、フラフラになりながら歩く。
体は自分の血で濡れている。
全身が痛い。
魔力の一斉放出で髪の色素は抜け落ち、栗色の髪は白髪に変わっていた。
「ここまで一般の者に影響が出るとは……
私がなぜこの弓に選ばれたのか、 やはり分からない」
そうして、歩き続けて荒れてしまった大地から抜け出す。
丘に上がると、自分が荒らしてしまった大地が良く見えた。
夜であったため燃えてる様子が明るくてよく見える。
「あっ」
私はフラっとして木に倒れ込む。
「はぁ。
……少し疲れた」
木にもたれかかったまま、私は自然と眠りにつく。
(早く元の世界に帰らなければ……
姉さんと兄さんも心配しているかもしれん)
当分は賢者の石探しだろう。
無償の触媒となる石があれば、元の世界に戻れる。
(まずは、 街に行かなければな……)
『ここは……』
濃い霧に包まれた宮殿のような場所だった。
ところどころ金で飾られている。
横にはこれも霧で包まれているが、きれいな街並みが一望できた。
そして目の前の階段の上にある玉座には一人の男が座っていた。
褐色の肌に紫の髪、そして金色の目の男を・・・
『ふっ。
これは夢だ。
私が作り出した幻だ』
そこに座っているのは亡き王……
レヴェルト様の姿だった。
〈どうした。
余を前にして、 臆することは無いぞ。 レヴェルタス〉
自然と涙が零れ落ちる。
『我が王、 レヴェルト様。
私に名付けしていただいた以来、 ちゃんとお会いできました』
〈ほう、 余は貴様のことをしかと覚えているぞ。
あの芽すら出ておらぬ赤ん坊が、 よくここまで成長したものだ〉
『まだあなたの隣に立つには未熟者でございます。
なので……
私はまだそちらには……』
言葉に詰まる。
私はまだレヴェルト様の隣に立つにはふさわしくない。
レヴェルト様はレヴェルト様の戦場で散っていった。
ならば、私は……
私の戦いを続けなければならない。
〈そうか。
ならばこれは!
貴様の夢の人物である余のただの戯言だ〉
笑顔を見せないレヴェルト様が精一杯の笑顔を作る。
そして優しい口調で話しかけた。
〈立派になったではないか。 レヴェルタス〉
涙が溢れる。
夢の中とはいえ、自分の名付け親に言われることとしてこれほどうれしいことは無い。
『はい。
ありがとうございます!』