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 ミカエルの言う通り、その後も私達を狙う人間が現れた。


 一度最強と呼ばれたミカエルに勝った私にとっては、ループを使えばどれも雑魚に感じる程の人間しか現れなかった。前みたいに独りで戦わず、いつもセルジュに相談をし、支えあってきた。


 もっとも、セルジュの魔法は自分に打つことができないから、戦っているのは主に私だったのだが。


 しかし、こんなんじゃ私達はのんびりと暮らせやしない。だから小屋を置いて、二人で旅に出た。

 時々刺客が現れるも、幸せな旅だった。砂漠でサボテンから水分を取ったり、山の上で流星群を眺めたり、川で魚を釣ったり。

 私の人生の中で、最も幸せな時間と呼んでも過言ではなかった。




------



 ある時、川の近くで一人の男が現れる。その姿は、青年と少年の中間と言ったところだ。彼は、薄く淡い青色をした髪で、高い服を着ていることから、貴族であることが分かった。


 また刺客が現れたのかと考え、身構えるも……。


 その男は、地面に膝をついた。

 そして地面に手をついた。

 頭もついた。


「自分を……自分を愛してください!」


 私も、セルジュも。返事をしない。まだ脳が理解を追いついていないから。

 セルジュが「知っている人?」と聞くが、勿論知らない人なので私は首を振った。




 数分後。

 近くの石に腰掛けながら話を聞くとことにした。この男の名前は、ヴァレンティーノと言うらしい。以後略してヴァレンと呼ぶ。


 ヴァレンはまくしたてるように言う。


「自分を愛してください! 二番目でいいんで! 愛してもらわなきゃ自分も追放されてしまうんですよ! お願いします! なんならもう自分、貴女の事を愛していますんで! 愛しています!」

「……あのね、随分と嘘くさいし……私は二番目なんていらないの。もう愛する人は……」


 いるから。という言葉にするのは恥ずかしかったので、胸の中にしまっておいた。

 しかし、ヴァレンは土下座までする男。そう簡単に諦めるわけない。


「じゃあ愛してもらうまで一緒にいますね!」

「いや迷惑だから。帰ってくれないかしら」

「役に立つので何にでも使ってください!」

「いや本当にいらない……」

「よっしゃああ! やるぞおおお! 頑張るぞおお!!」


 ……どうしよう。話の通じる雰囲気じゃないし、うざい。


 セルジュの方をちらりと見ると、いつもに増して笑顔だった。


「好きにすればいい」


 ……あ、これはかなり切れている。


 セルジュは、怒りを人に向けない。

 だが、怒らないわけではない。

 怒っている時は、いつもの百倍の笑顔で肯定するのだ。私も、転んでセルジュの気に入っていた服を馬の糞に突っ込んだときは、三日はこの笑顔だった。


 しかしそんなことを知らないであろうヴァレンは、「ありがとうございます!」と元気に返事をした。




 宣言通り、ヴァレンは私達について来る。


 役に立つとも宣言した通り、人目につかないよう行動している私達のために、街で食べ物や調味料、狩りをするための武器や、綺麗で清潔な服。必要なものを色々買ってきてくれた。


 一週間も経てば、うざい迷惑人間との評価が徐々に変わっていく。思ったより私達の生活の邪魔をしているわけでもないし、刺客に狙われる私達にとっては、有難くも思ってきた。




------




 そしてヴァレンと出会って一週間後の朝。

 セルジュが立ち上がった音で目が覚める。

 セルジュはずかずかと歩いてヴァレンに近寄ると、肩を叩いて起こす。


「ヴァレン。話がある」


 その言葉の後、セルジュとヴァレンは私に声が聞こえない位置にまで移動し、話し合いを始めた。




------




 一時間後。

 戻ってきたヴァレンは、笑顔で親指を立てて私に言う。


「正式に、傍にいる許可もらえました!」


 ……どうやって説得した!?

 押し切られたのかと思いセルジュの顔を見たら、まったく不快そうな表情は見せていないし、怒りの笑顔でもなかった。




------




 それからというもの、ヴァレンは正式に私達の仲間になった。


 うるさい言葉で、わめきたてるも、それでも和やかな空気は乱れない。思ったより悪くない。


 一つ変わったものがあるとすれば……。セルジュがよくどこかに消えるようになった。

 やっぱりヴァレンと一緒にいるのが嫌だったのではないかとも聞いてみたが、回答は「大丈夫。別の理由だから」とのこと。その理由はまた今度教えてくれるらしい。


 ちょっと私は、サプライズを期待した。




------




 一週間後。セルジュとヴァレンが二人でどこかに行ったので、私が一人住処にしている森の中で待っていると……。


 一人の男が現れた。


 フードを被っており、フードの中からは僅かに黒髪が見えた。


 ……また刺客か。セルジュのいない時に……!


 そう考えたのも束の間。違和感を得て下を見てみると、足が凍っていた。


 これは、私も使った氷魔法。だが、私と確実に違うのは、いつこの男が魔法を放ったのかも分からなかったことだ。それほどまでに一瞬で、魔法を放ったんだ。

 男は私に笑いかける。


「これはご機嫌麗しゅう。バフ効果を持つお嬢様。我はダヴィデと申すものだ。……わざわざ世界で二番目に強いと呼ばれる我がやってきて、お嬢様を捕まえに参った所存だ。さあ、一緒に世界を滅ぼさないか?」


 世界で一番目は、ミカエルだった。そしてミカエルは、私の力により百倍の魔力になっていた。

 ならば、であるならば、現状このダヴィデという男が一番強いのではないか……?


 油断していた。

 セルジュと少しでも離れてはいけなかった。


「世界を滅ぼすって、何……?」


 焦りながらも、私はセルジュの姿を探す。セルジュさえいれば、私は過去に戻れるのだから。


「言葉通りさ。我の力が百倍になったら、もう誰も我に抵抗できない。我はそんな世界が欲しい。気に食わない人間は殺して、……あ、妻も百人欲しいな。王にでもなって、国民を奴隷化するのもありだ」


 やばい。こいつはやばい。


「さぁ、お嬢様。今すぐ眠りについて、我に従え」


 セルジュ……。早く来て、セルジュ……!


 その時、セルジュが来た。上から。

 木から飛び降りながら、ナイフをダヴィデに振り下ろした。


 気配を察してダヴィデは避けるも、肩が僅かに切れた。

 瞬時にダヴィデは反応し、連続して魔法を打つ。炎。氷。雷。光魔法。闇魔法。様々なものを。

 セルジュは、それを全て避ける。右へ、左へ。時には飛び、時にはしゃがみ。


 私はこの戦い方を知っている。私はこの戦い方をしてきた。


「セルジュ……今、何回目……?」


 セルジュは、自分へ向けて過去に戻る魔法を打つことができない。だから、私はセルジュの代わりに戦ってきたんだ。

 何故、セルジュが過去に戻れている……?

 私に答える余裕もない中で、セルジュは戦い続ける。


 だが、押し負けている。圧倒的な魔力と体力によって、じわじわとセルジュが追い詰められていっているのだ。


 最後には、轟音と共に落雷がセルジュに直撃して、彼は叫び声をあげた後、よろついて背中に木があたるとそのまま地面に尻もちをついた。


「セルジュ!」


 私は凍っていた足に炎の魔法を打ち、やけどしながら氷を解かすと、セルジュに近寄ろうとした。


「おっと、お嬢様。待ちな」


 ダヴィデに服の首元を掴まれて、セルジュに近づくことができなかった。


「お嬢様はこのまま我と一緒に暮らそう。きっと楽しい監禁生活になるぞ?」

「離しなさいよ!」

「まったく我がこんなにもお嬢様を必要としているのに、強情な女だ。今転がっているこの男でも殺せば、諦めがつくか?」


 私は怒りで身体が震えあがり、ダヴィデを睨めつける。


「あんた……!」

「いや、やめよう! おめでとうやめよう。今こいつと愛し合っているのならば、我とお嬢様がベッドで愛し合っている姿を毎週見せつけて、こいつが絶望に浸る姿をじっくりと観察しようそれがいい!」


 ダヴィデをどうやって殴ってやろうかと考えていると、視界に入ったセルジュは、涙を零していた。

 ぽろぽろと、悔しそうに、歯を噛み締めながら。


「なん……で、泣いているの……?」


「無理だ。無理なんだ。何回やっても。君がさらわれて、監禁される。僕は……君のようにはなれない。君のようにミカエルを倒せない。いやだめだ。諦めちゃだめだ。もう一回。もう一回。もう一回もう一回もう一回もう一回もう一回もう一回……」


 その言葉から、既にセルジュの精神は限界が来ていることが分かった。


 セルジュをこんな状態にさせたミカエルに怒りが沸く。セルジュがこんな状態であることに気が付かなかった私に悔しい。

 きっと、ミカエルを倒したときセルジュも同じ気持ちだったんだ。


 なら、今度は私がセルジュの支えにならなければ……!


 私は、ダヴィデの方を向くと、頬に手のひらを向けた。


 すぐにダヴィデは笑って魔法防御術を展開するが、私はその手の平を思い切り頬にぶつけた。


 ぱちん。と、いい音がした。


 思わずダヴィデは、私を掴む手を放す。

 私はセルジュに近寄る。このパターンは初めてなようで、セルジュは心底驚いた表情をした。


「セルジュ。私を戻して。反射の魔法があれば、私の魔法が百倍になり……愛する人を一万倍にする能力になる。そうでしょう? 貴方はもう、よく頑張ったわ」


 セルジュは涙を零したまま頷き、私の頬に手を添えた。


「反射の魔法が使える人間は……ヴァレンティーノ。彼と一緒に……一万倍の能力であいつを倒してくれ」


 その言葉を聞いた途端、突風が舞った。

 戻るのだ。過去に。

この度は本小説をお読みいただき誠にありがとうございます。

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