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十回目の人生、華麗に生きてみせましょう  作者: 真崎 奈南
第二章

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新しい出会い 1

 小さく息を吐いて数秒後、ロザンナはハッとし、ベッド脇のサイドテーブルへと慌てて歩み寄る。アルベルトからの真っ白な贈り物と自分の手のひらを交互に見つめながら、もしかしたらと胸が高鳴り出す。


 初めて得たこの力を、今まではアカデミーに残るための手段にならないかとばかり考えていた。しかし、それよりももっと、大切なことがあった。光の魔力とは治癒能力のこと。この魔力をしっかり扱えるようになっていたら、今度こそ両親を助けられるかもしれない。


 思い切って、真っ白なディックに手をかざす。すると、あの時と同じように花が輝きを放ち始め、隣にあった赤い花まで光を発し出す。


 かもしれないなんて嫌。諦めない。助けたい。絶対に助けてみせる。


 思いに呼応して花が輝きを増す。力強い光に導かれるように、ロザンナははっきりと自分の進むべき道を見つけた。




 花嫁候補に決まってからもうすぐ半年が経つ。城からの帰り道、ロザンナは馬車に揺られながら、不思議な気持ちで髪飾りに触れる。


 城にはアルベルトに会いにきた。婚約者候補は、希望すれば約半年ごとに王子との時間を持つことができ、ロザンナにとって今日はその二回目だった。

 半年ごとということになってはいるが、婚約者候補は四十人もいて、アルベルトも誕生日を迎えると同時に第二騎士団を率いる立場に就き忙しい身になり、実際は一年に一度で会える程度である。


 この人生でも一度目の約束は、候補に決まってすぐに取り付けることができた。皆が一斉に申し出る中、優先的に決まるのは宰相である父の存在が大きい。

 しかし贔屓はそこまでで、半年後に再び願い出ても、二回目は四十人との顔合わせが一通り終わったあと。本来ならばしばらく待たされるのだけれど、……なぜかこの人生では、二回目の申請がすんなり通ってしまったのだ。


 そして別れ際のアルベルトの言葉が「近いうちに、会いに行く」で、言葉通りにすぐにまた彼と会う予感がロザンナにはあった。

 と言うのも、城に来るのは二回目でも、アルベルトと顔を合わせるのは実は三回目。

 ディックと共にもらった手紙に書かれていたように、あれから程なくして、アルベルトがお供もひとりだけと実に気軽な様子でエストリーナ邸を訪ねてきたのだ。


 その時のことを思い返して気怠くため息をついた時、向かいに腰掛けているトゥーリと目が合った。笑みを堪えきれていない彼女の目線が、髪飾りに触れている自分の手に向けられているのに気付いて、ロザンナは慌てて姿勢を正す。


「その髪飾り、アルベルト様からの贈り物ですか?」

「え、えぇ」

「ロザンナ様によくお似合いですよ」


 トゥーリの表情から、彼女がどう誤解しているかが手に取るように分かり、ロザンナは「違うの」とため息まじりに否定する。


「勘違いしないで。これをもらったことに深い意味はないの。お父様に無駄な期待をさせたくないから、いただいたことは内緒にしておいて」

「本当に勘違いでしょうか? このような素敵な髪飾りだったりあの特殊な花だったり、私にはアルベルト様が他の候補者の皆さんにも同じように贈り物をしているとは思いません。お嬢様を相当気に入っていらっしゃるとしか」


「違うんだってば」とロザンナが繰り返しても、トゥーリのニコニコ顔は崩れない。まさかこんなに早く言うことになるとはと途方に暮れながら、毎回のように口すっぱく言っている台詞を囁きかける。


「アルベルト様には心に決めた方がいらっしゃるから」


 彼が選ぶのはマリンである。それに、この髪飾りも愛情のこもった贈り物では決してない。彼の口から、そうではないことをしっかり聞いているのだ。


 先日、アルベルトがエストリーナ邸にやって来たのは、婚約者候補としてではなく光の魔力を持っているロザンナに用があったから。

 来て早々、アルベルトはロザンナとふたりっきりで話したいと人払いをした。その行動がスコットを喜ばせたのは言うまでもないが、実際、応接間で紅茶を飲みながらの会話に甘さは皆無だった。


 研究に協力して欲しい、第一声はそれだった。魔法薬用のディックに力を溜め込んでくれないかと言われ、そこでロザンナはあの鉢植えが贈られた意図を知る。

 自分が何かの力になれるのならとロザンナが快諾すると、アルベルトが嬉しそうに顔を綻ばせた。

 そして口外しないのを条件に、実は王立の魔法薬研究所にも自分は関わっているのだとアルベルトがロザンナにこっそり打ち明ける。

 もうこの頃には、彼が第二騎士団に関すること以外にも次期国王になる身としてさまざまな仕事をこなしていたのを知っているため、ロザンナはそんなことまでとただただ驚くばかりだった。


 秘密を教えてもらったからか、ロザンナも観賞用のディックが輝いていたのはどうしてだろうかと、ずっと気になっていた疑問を思い切って口にする。

 するとアルベルトは「へぇ」と感心げに呟き、「断言はできないけれど」と前置きした上で「能力値が飛び抜けて高いせいかもしれない」と考えを述べた。

 しばし呆然とするも、徐々にロザンナは自分の気持ちを止められなくなる。

「本当は魔力に関して学びたいのです。でもお父様はわかってくれなくて」と泣き言を漏らすと、アルベルトが少し考えてから「わかった。うまくいくように力を貸そう」とにやりと笑った。


 そのあと、新たに持って来ていた魔法薬用のディックをロザンナの部屋にある以前贈ってきたそれと交換して、アルベルトは上機嫌で城へと帰っていったのだった。


 そして今日、数時間前、静かな部屋の中、周囲に侍従やら護衛がたくさんいる状態であの日の話の続きをするわけにはいかず、他愛ない世間話を淡々と続けていたのだが、ロザンナが紅茶を半分ほど飲んだところでアルベルトが「庭を散歩しないか」と席を立った。


 庭を並んで歩いている間は、お付きの者たちが距離を置いてついてくる。そのため、小声にはなるものの先程よりは気軽に話ができた。

 魔法薬用のディックを昼間は棚の奥へ隠しておいたのだが、それをトゥーリに見つけられてしまい、光っているのはアルベルトのせいだと咄嗟に嘘をついてしまったと、ロザンナは懺悔する。

 そのせいでスコットから、「王子の非凡さは神同然。いや、もはや神。お前は神に嫁ぐ覚悟を持ちなさい」と訳のわからないことをしつこく繰り返される羽目になったと打ち明ける。アルベルトは肩を震わせて笑ったが、ロザンナは彼のせいにしてしまったことへの後悔で「迷惑をかけてしまったらごめんなさい」と表情を曇らせた。

 するとアルベルトが「貴重な力だからね。能力が高いと利用しようと目論む輩も現れる。今はまだ公にしない方がいい。そのまま俺のせいにしておけ」と優しく話しかけながら、ロザンナの髪に触れる。と同時に覚えた違和感にロザンナも彼が触れた場所へと手を伸ばし、掴み取ったものに目を大きくさせる。


 髪飾りをもらったのはこの時だった。蝶々の模した形で、羽の部分にはロザンナの瞳と同じ青色の宝石が散りばめられてあって、高価なのは見れば容易に判断できた。

 なぜ自分がこれをもらうのだと動揺を隠せないロザンナの耳もとで、アルベルトが「報酬だと思って受け取れ。これからもよろしく頼む」と囁いた。ロザンナは思わず頬を赤らめながらも「もうすでに、利用されていたみたいです」と微笑んだ。


 ロザンナはアルベルトといると、まるで友人と話しているような気持ちになる。そして、彼からは婚約者候補というよりも仲間みたいな扱いをされている気持ちに時々なるため、相手にとってもそんなところだろうと予想する。

 しかし、その様子を後ろから眺めていたトゥーリには仲睦まじく見えていたようで、アルベルトとの間にある事情を詳しく説明できない以上、誤解を解くのは難しい。


「髪飾りのお礼は何がよろしいでしょうね」とうっとりと頬を高揚させているトゥーリに、ロザンナはお手上げだと軽く肩を竦め、窓の向こうへと目を向ける。

 視界を掠めた診療所の看板と、入り口側の花壇に向かってしゃがみ込んでいる後ろ姿にハッとし、「止めて!」と御者へと大きく声をかけた。声に反応し馬車が停止すると同時にトゥーリが夢から覚めたかのように「お嬢様?」と怪訝な顔になる。


「お返しは本がいいわ。アルベルト様は読書家ですもの。絶対に喜ぶわ」


 診療所の隣に本屋があるのを横目で確認しながらなんとか言葉を並べつつ、ロザンナはそそくさと戸を開けて馬車を降りた。もちろんすぐにトゥーリが「お待ちください」と追いかける。

 通り過ぎたばかりの本屋へとロザンナは小走りで向かうも、入り口手前で足を止めた。


「お嬢様、入り口はこちらですけど」

「うん。わかってる」


 しかし足はなかなか店の中へと進まない。ロザンナが見つめる先は本屋ではなく、その隣にある診療所。もっと詳しく言うなら、診療所の花壇の手入れをしている男の背中だ。


 実は散歩中にアルベルトから、ゴルドン診療所の所長の話もされている。今は小さな診療所で町の人々と向き合っているが、昔は王族の主治医を務めていたこと。光の魔力を使って治癒行為をする聖魔法師たちにはまさに神のような存在であり、アルベルト自身にとって今なお信頼の置ける人物であるとも。

「その人に話をしてある。同じ力を持つもの同士、彼からたくさんのことを学べるはず。本気で学びたいなら訪ねると良い」。そう言った彼の力強い表情が躊躇うロザンナの背中を押した。


「……すみません。所長のゴルドンさんはいらっしゃいますか?」


 振り返った男は朗らかな声で「はい、私ですが」と返事をし、ゆっくり立ち上がった。


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