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異世界転校生〜同級生は6千歳!不老の異世界で永遠の快適学園ライフ!  作者: セロクナ
第一話:異世界転校生と“Z組”の仲間たち
9/44

報告

初ブックマークがめちゃくちゃ嬉しかった記念更新


9/8

 ヤマは報告を読み上げ終わった。


「……なぁるほど。今回の新入生君はどうしようもなく強大なんだねぇ。

下手に“羽化”したりなんかしたら、どうなることやら。学園が吹き飛ぶどころじゃ済まなそうだ」


 部屋の真ん中、最も大きく重厚な机に座った少女は、ヤマの差し出した書類をペラペラとめくった。

 書類の余りを隣で見ていた、秘書の女性が言う。


「然るべき対策が必要でしょう。永久凍結も視野に入れるべき案件です、学園長」

「モルガ秘書官!」

「声を荒げないでください、ヤマ」


 永久凍結……それは対象を生きたまま凍結させ封印する一連魔術の事だ。実質上の死刑に値する。


「膨大な力を当人が使い熟せるか。

神の使いに匹敵するような魔術師が、国際情勢のバランスを崩さないか。

そして何よりーー“羽化”時の危険。

それらを天秤にかければ、選ぶべき道は自然と見えます」

「ですが……」


 ヤマは学園長と呼ばれた少女に助けの視線を求めた。

 少女は書類を眺めている。


「うん。

彼は…危険、だねぇ。

仮の杖に使った水晶は、魔力に抵抗を与え制御するタイプのクリスタルが3つだよね?

常人ならせいぜい火の粉1つ2つを出すので精一杯、ぐらいの杖だ。

それで“迷宮”の一帯が凍らせられるんだから、本当にとびっきりの才能の持ち主だよ」

「なら……!」

「でもね」


 学園長の少女は、秘書官の言葉を遮る。


「そもそも危険を承知で受け入れたんだ。

最悪世界ごと消える所までは想定済みでもある。

今更想定の2倍近い魔力だったからと怯えるものでもないさ。

ゴブレット以上のワインは飲めないーーー世界が消えてしまう以上の火力があったとしても、それ以上破壊する物は無いのだから」


 学園長は詩的な言い回しをする。


「というのが、私の率直な意見なんだけど。最年長者の意見はどうかな?ロア君」


 状況を静観していた紫髪の少女に、学園長は話しかける。


「どう、って言われてもなぁ……

私としては、見るべきはそこじゃないなって言うか」

「と、言うと?」

「確かに、私が見たこともないような前例の無い力の持ち主だけど……もっと“ヤバい”所はいくらでもあるよ」


 ロアは一歩前に出て、1つ資料を取る。


「まず、彼がヤバいのは、適応力。

飲み込みの速さって言った方がいいかな?

右も左もわからない世界で、いち早くマリーの“魔物化”に気付けたこと。

魔法も、多量の魔力で強引に呼び出している部分はあるけど、それでも体得が早い。

火の玉を出したり氷塊を飛ばしたりするには、1年……とは言わないまでも、1ヶ月はかかるはずじゃない?」


 学園長は静かに頷く。


「つまり君は、ヒカル・アサノには才能があると言いたいんだね。そして、その才能を…君は“適応力”と見ると」

「うん、そんな感じ。

……ヒカル君にも、ちゃんと“記憶処理”がかかってるんでしょ?

教室に来るまでの記憶は思い出せなくて、でも、思い出せない事を疑問に思えなくなるヤツ」


 学園長はまた頷いた。

 “記憶処理”とは、特定の期間の記憶を思い出せないようにする、一種の記憶喪失状態を意図的に作り出す術の事だ。

 受けた当人は“思い出せない”事自体忘れるため、違和感に気付くことは難しい。


「彼は、命のやり取りをしても怯えてなかった。“記憶処理”がかかってるとしても、モノの価値観までは変えられないじゃない。

それでいて立ち向かってる姿は、人並み以上に度胸があるとか、勇敢だとか、そういうものじゃない。

ヒカル君は無意識の内に、私たちに合わせようとしていて……ちゃんと合わせられた」


 ロアは学園長の目を見据えた。


「ヒカル君は、“羽化”する事も……多分可能だと思う」

「……そっか。それは良い報告だ」

「けど。もう1つ……ヤバい所がある気がする」

「と、言うと?」

「理由はよくわからないけど、ヒカル君には影がある。必要以上に、“大人”を敵視してる」

「敵視…ねぇ」

「多分、無意識下に刷り込み学習した、“記憶処理”も貫通する、ヒカル君の価値観の現れなんだと思う。

私が怖いのはそこかな、って。

彼がマリーちゃんを探しに行こう、って決めたところには、ヒーローになりたいとかの名誉欲とか、マリーちゃんが可哀想みたいな哀憫とか、そういうのなかった気がする。

ただ、ウィローのメンツを潰せれば、みたいな。

それって……すごく怖いなって」


 学園長は書類の端にロアの報告をメモした。


「ヤマ先生は今の話、担任としてどう思う?」

「……ヒカル君は“転生者”です。そのような特異性があってもおかしくないでしょう。

今のところ“適応力”が上手く働き、“大人への敵意”は派手に暴れてはいない。

ヴァイ君と仲良くやれているようですし、このままやって行くのに問題は無いかと」


 学園長はその言葉を聞いて満足げにうなずく。


「なるほどなるほど。

上手くやっていけているなら、処置は普通の“Z組”生徒と同じで構わない。

なるべく、普通に接してくれるといいな」

「……ええ、わかっています」


 ヤマは、言葉の端に含みを持たせながら言う。


「彼には、優しい夢を見続けてもらわなければ」

学園長

学園を代表し取り仕切る者。小国の国王とほぼ同レベルの権力がある。

世襲制であり、現在8代目。

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