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異世界転校生〜同級生は6千歳!不老の異世界で永遠の快適学園ライフ!  作者: セロクナ
第一話:異世界転校生と“Z組”の仲間たち
5/44

座学の時間

5/8

 翌日、ヒカルが教室に行くと、担任のヤマが嬉々として話しかけてきた。


「聞いたよ、ヒカル君は昨日あのあと氷の魔術を使いこなした上、創作魔法すら発動したんだって?」

「えっと……その、すみません……」

「どうして謝るんだい?

もっと胸を張りなさい。魔法の創作なんて、プロの魔法使いでも発動させるまで1年以上はかかる偉業なんだ」

「そう…なんですか?

創作といっても…ロアさんのやっているものを真似ただけですが……」

「普通に魔法を取得するだけでも大変な事だ。ましてや、真似でだって、魔法を作り出すのは何年かかってもおかしくないんだよ。

今日の授業は、魔法の基礎についてをやろう。

次から、もっと上手く魔法が使えるように」


 ヒカルは頷いた。

 ウィローに一泡吹かせるのもそう難しい事ではないのかもしれない、などと思う。


 5人の“Z組”クラスメイトが揃い、ヤマは授業を開始した。

 全員にプリントが配られる。プリントの中身はそれぞれ違い、生徒の進度に応じた難易度になっている。

 ヒカルに配られたプリントは何も書かれていない。メモ用の紙らしい。


「今日は“魔法”と“魔法生物”について、簡単な所から知っていくよ。

まずは魔法について、基本的な事を学ぼう」


 ヤマはヒカルの机の前に椅子を持ってきて座る。

 ヒカルは1対1はやりづらいなと思ったが、口にはしなかった。


「基本的に、魔法は術者の想像を形にする力、と考えるとわかりやすい」


 ヒカルは、プリントに【魔法=想像を形にする力】とメモを取った。


「魔法を使う時に呪文を唱えるのは、術者の想像を上手く調整する為に必要だからに過ぎない。

たとえば…“りんご”って言ったら、どんなものを想像する?描いてみて」


 ヒカルはプリントの端に、丸く赤い果物を描く。


「そうだね。“りんご”と聞いて、オレンジを想像する事は無い。

こんなふうに、僕らは想像を補助するものとして呪文を扱っている」


 “ファイヤー・ボール”、“アイス・アロー”…言われた通り呪文を唱えたけど、その言葉は意味として単純だ。


 ヒカルは段々ヤマが言いたいことがわかってきた。

 同時に、昨日のロア達の行動を思い出す。


「想像に慣れると、もしかして呪文が要らなくなる場合がありますか」

「飲み込みが早いね。

そうだよ、慣れると呪文は要らなくなる。

けど、使い慣れていなかったり、複雑だったりする場合は、想像を安定させる為に必須だ」


 想像を安定、というところで、ヒカルは昨日の失敗を思い出した。


「想像が安定しないと…たとえば、床の一部を凍らせようとして、氷の洞窟を作ってしまう、とか?」

「そうだね。ちゃんと一部分だけに範囲を絞ろうとしたかい?」


 ヒカルはその時は魔法を作るのに精一杯だった事を思い出した。

 ヒカルは首を横に振る。


「次からは気をつけるといい。

細部まで想像すると、魔法はそれだけ緻密になって、上手くコントロールができるようになる。

それに、始動時も大事だけど、終わる時にきっちり“おしまい”を想像するのも大事だ。

昨日の授業では、それを伝える事を忘れてしまって申し訳ないと思ってる」


 ヒカルは、初めて魔法を使った昨日の訓練の時も、炎を上手く止められなかったのを思い出した。

 理由を知って納得する。あの時も、魔法を作り出すことだけに思考がいっぱいで、他のことは何も考えていなかったからだ。

 【細部まで想像すること、“おしまい”を想像すること】とヒカルはメモした。


「想像することが魔法の基本だけれど、魔法でもできないことが2つある」

「魔法でもできないこと?」

「1つは、術者から離れた場所に魔法を使うこと。たとえば、“ファイヤー・ボール”の炎は、術者から離れると消えてしまう」

「どれぐらいの距離で消えてしまうんですか?」

「それは術者の力量に依存する。

一般的には2メートル程度が限度だ。君なら5メートルは可能だろう。

今やってみるかい?」


 ヤマは教室後方の窓を開ける。

 ヒカルが炎の玉を放ると、2メートル辺りから端がブレだし、4メートルを過ぎる頃には形が保てなくなり爆発した。

 ヒカルはプリントのメモに、【距離があると魔法は使えない】と書き足す。


「魔法ではできないことのもう1つは、命を生み出すことだ。

“りんご”を想像することはできても、魔法で“りんご”を作り出すことはできない」


 しかし、ヒカルは昨日の訓練の時、樹の魔物と戦った事を思い出した。


「けど……昨日の訓練で戦った“樹”は、魔法で呼び出していましたよね?」

「いいところに気付いたね。

確かに、魔法では命を生み出すことはできない。けど、生み出すことが出来ないだけだ。成長を促したりすることはできる。

その応用で、身体の傷を治すことができるんだ」


 ヒカルは【命は生み出せない。成長促進は可能】と書き加えた。


「これで魔法の基本は終わり。

何か質問はあるかな?」

「いえ、特には」

「じゃあ、次の魔法生物についてをやろうと思う。休憩は必要かな?」

「いいえ」

「わかった」


 ヤマは大きな図鑑を取り出した。ヒカルの知らない文字で書かれているが、表紙に大きな翼のあるトカゲ……“地球”ではドラゴンと呼ぶ怪物が描かれているのはわかった。


「この世界では魔法が使える動物を総じて“魔法生物”という。

“魔法生物”は2つに分けることができる。

“魔物”と“魔獣”の2つだ」


 ヤマは図鑑の最初の方のページを開く。

 黒いオーラをまとった骸骨と、炎を吐くドラゴンが相対するように描かれている。


「死者に魔力が宿ったものが“魔物”、生物に魔力が宿ったものが“魔獣”と呼ばれる。

広義では僕たち魔法使いも“魔獣”の1種だ」


 ヒカルはこの話は知っていたので、なるほどと相槌を打ちながら聞いていた。


「昨日戦った“樹”は“魔獣”に当たるね。

あれは、種子で保管ができるし調整が出来るから、練習用の魔獣として丁度良いんだ」

「“樹”なのに、けものの方なんだ…」

「“魔物”か“魔獣”かは、一般でも割と間違えやすい問題だ。

だけど本質的には、死んでいるものを動かしているのか、生きているものが動いているのか、の違いしかないことをよく覚えてくれ」


 ヤマは図鑑で“樹”に似た怪物が描かれたページを開く。


「左が魔物の“樹”、右が昨日戦った魔獣の方の“樹”だ」


 左の魔物の方は枯れ葉が付き、表面も割れているなどの違いがある。


「“魔物”の特徴は、暴力性と不滅性にある。

強者に会っても逃げることは無いし、生者を執拗に追い、殺そうとしてくる。また、ある一定の大きさ以下にならなければ、たとえ上半身が吹き飛んだとしても動きを止めることは無い。

タチの悪いゾンビみたいなものだ」

「ある一定の大きさ?頭を消しても無意味なんですか?」

「そう。ゾンビと違って、魔物はだいたい5センチぐらいまで小さくならなければ、魔力が抜けず動き続ける。

例外的にその短剣では終わらせる事ができるけれど、そういうやり方以外では滅多に倒せないんだ」


 ヤマはヒカルが腰に下げた短剣を示して言った。

 ヒカルは疑問に思っていた事を言う。


「この短剣は何故魔物を倒せるんですか?」

「操り人形と繰り師を想像して欲しい。

魔物の身体、遺骸は操り人形の方に当たる。一方で、魔物そのものは繰り師だ。

魔物の身体を切っても意味はないが、この短剣は操り糸を通して、魔物そのものにダメージを与える。結果、一撃で魔物が倒せる。

ゾンビ化するウイルス自体を殺すようなものだ」

「わかったような気がします」

「そして、今度は魔獣についてを説明しよう」


 ヤマは、チョウとサナギとイモムシが描かれたページを開いた。


「“魔獣”の特徴は、“羽化”することにある。

ヒカル君のいた世界では、時間が経てば勝手にイモムシがサナギになっていただろう?

この世界では違う。

幼体から成体になったり、成体が幼体になったりする。その現象を“羽化”と呼んでいる」

「なんでわざわざそんなことを?」

「理由は種によるけど……傾向としては、成体の姿の方が魔法が強い傾向があるけど、幼体の方が消費するエネルギーが少なめで済むとか、そういう理由が多いかな」

「へぇ……

人間もそうなんですか?」

「……まぁ、そんな感じだよ」


 ヤマは不自然に言い淀んだ。


「じゃあ、今の僕が幼体になったり、成体になったりできる……?」

「今の君の状態は幼体だ。

しかし、成体にはまだ成れない」

「どうしてですか?」

「正確には、一度成体に成れば“羽化”は簡単だが、その一度目を起こすのが難しい。

少し話が脱線するけど、この学園ではその一度目を起こす手伝いをしているんだ」


 隣で話を聞いていたロアが話に入ってくる。


「その一度目が起こせない限り、ずっとこの学園にいることになってるんだよ」

「ロア君はそうやって5000年以上学生をしているんだ」

「実際の年齢とかより、“羽化”を迎えたか迎えてないかで大人か子供かが決まるんだ。

だから、20歳の大人もいれば、5000歳の子供もいる」


 すごい世界だ、とヒカルは思った。価値観がこれまでとは違い過ぎて、いまいちピンとこない。


「とりあえず、“魔獣”には“羽化”があるってことだけ覚えていればいいよ」

「は……はい」


 ヒカルはメモに【“魔獣”は“羽化”をする】と書き込んだ。


「これで魔法生物についての基本的な話も終わりだ。

さて、何か質問はあるかな?」


 ヒカルは1つ質問があった。


「昨日遭遇したのですが、あのオオトカゲについて知りたいです」

「ああ、そういえば出遭わしたみたいだね。1400階層の“固有種”」


 ヤマは図鑑をめくり、1つのページを開いた。

 見開きで、あのオオトカゲが現れる。改めて全身を見ると、首の小さいティラノサウルスのようなシルエットをしている。


「固有名はグランデ・ヴォルガン・ファイヤ・ラガルド。

“固有種”についてはもう知っているかな?」

「はい」


 食物連鎖の頂点にいて、ピラミッドの安定を図る為保護を推奨されている存在だ。

 ヒカルは図鑑のオオトカゲのページを見た。言語はヒカルの知らないもので書かれていて、読むことはできない。


「ここには、何が書いてあるんですか?」

「ラガルドの特性とか、使う魔法とか、色々だ」

「知っておいた方がいいんじゃないかな?」


 隣の席のロアがまた話に割り込んできた。


「覚えといて損な物なんてないし、ましてや昨日上層で出くわしたんだ。また出遭わす事が無いとは言い切れないじゃん?」

「なるほど。じゃあ、まずは攻撃器官の所から……」


 ヒカルはヤマが解説する事を、必死になって覚えた。人生の中で、ここまで一生懸命勉強をしたことなんてなかったかもしれない、とヒカルが思うほど、真剣に勉強をした。

 それは、授業が終わる頃には頭が痛くなるほどですらあった。けれど、ヒカルはいつにない満足も感じていた。

魔獣(まじゅう)

“地球”における生物のくくり。

数百年前までは人を分けた魔人(まじん)の項目があったが、学術的に違いが無いという意見が押し通り現在のくくりに統合された。

この統合を巡り何度か戦争が勃発した。

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