“重”
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走馬灯の末、ヒカルは意識を取り戻す。まるで長い悪夢から覚めたかのようだった。
自身に刃を突き刺すペインの左手を掴み、逃げられなくしてからヒカルは拳を滅多撃ちに叩きつけた。
型もなく、技もない、稚拙で純粋な暴力。しかし、ヒカルの記憶に気を取られていたペインに防ぐ余裕はなかった。
また、ヒカルは記憶を取り戻したことによって、自身がこの手の暴力に慣れていたことも思い出した。拳が痛むのも鑑みず、ヒカルは夢中で拳をふるう。
「ぐ、がはっ!ゔっ!」
一方的に殴られ続けたペインだったが、攻撃の隙を見つけ、刃を振るう。
「“苦”!」
ヒカルは少し顔を歪める。拳が止まったその隙に、ペインはヒカルを跳ね除け距離を取る。
床に口の中の血を吐き捨て、ペインは笑う。
「君は最高の転生者だ。
これほど面白い奴は初めてーーー」
ペインの台詞が終わる前に、ヒカルは右手をかざす。ぐい、と宙を掴み引くと、ペインのみにグラビティが作用し、ペインは自由落下の速度でヒカルに引き寄せられる。
引き寄せられている間に、ヒカルは周囲にあった瓦礫の中で最も大きなものを選び、左手をかざして持ち上げ、ペインの引き寄せられる方向に向かってグラビティをかける。
ペインは対応もままならないうちに、自由落下の2倍の速度で瓦礫に激突した。瓦礫が粉々になって砕け散るが、ペインも骨が何本か折れ、まともに立ち上がれなくなっていた。
「あはは。楽しいなぁ。
こんなに痛みを感じたのは、父さんの折檻を受けた時以来だ」
ペインの口から大量の血が溢れる。
「帰りましょうペイン。少々分が悪いーーー」
フリーズが言い切る前に、ヒカルはフリーズの仮面を殴りつけていた。グラビティで自身を落下させ、ヒカルの体重と落下速度を加えることで、ヒカルの拳は何倍もの威力を持つ。
殴り飛ばされ、余裕がなくなったフリーズは周囲に展開していたフリーズを解除する。
「言い直しますペイン。これはかなり分が悪い」
「ええー、僕としては是非彼の記憶を覗きたいんだけど」
「仕方ありません、あなたを生贄に逃げましょう」
「それは勘弁」
ペインは左手の刀を抜き、右手の手のひらで刃を握りしめる。
「プレス。バーン。ハング。聞こえるかい?少し戦況が悪くなってしまってね。回収を願いたい」
「クソッ!逃すか!」
ヒカルは殴りかかったが、氷の猛攻を受け近づくことができない。
その時、上空、火口の淵から長い薄汚れた布が垂れ下がった。
布を伝って降りてきたのは、黒い山羊の仮面を付けた人物だった。首にマフラーのように巻いた布が、質量を無視して伸びているようだった。
「……バーンから様子は伝え聞いている。
やれやれ、とんだ初戦になったものだ」
「収穫はあったさ。
また遊ぼう、ヒカル君」
ヒカルはグラビティを発動して追いかけようとした。しかし、それを駆け寄ってきたヴァイが止めた。
「ヒカル!その辺りにしろ!」
「何で止めるんだよ!」
「シトリも王も無事だ。これ以上深追いするのは危ない」
そうこうするうちに、ペイン達はあっという間に消え失せていた。
頭に上った血が引いていくと、ヒカルは身体のあちこちに不調を感じる。
頭痛、めまい、吐き気、拳の痛み、だるさ、寒気、疲労。
立っているのもままならず、ヒカルは地に座り込む。
ヴァイが回復の魔法をかけるが、傷ついた拳以外に良くなる所はない。
「王宮の医務院で診てもらうか?」
「……いや、いい。耐えられる。
それより、俺達も早くこの場から離れよう。すぐに王宮の人間が来るだろう」
「離れるって……何で?」
「ここは部外者立ち入り禁止の場だろ。王宮の人間がどう判断するか」
「非常事態だし、王を助けたから許されるんじゃ……」
「秘密の抜け穴から侵入したと聞いて、俺達の首が無事に繋がっている保証はあるか?」
「そうなるだろうと思って、私もシトリ達を運ぶのは廊下までに留めておいたよ。シトリの意識戻りかけだったし、そろそろ王宮の人達に見つかる頃じゃないかな?」
いつの間にか戻ってきていたロアがそう言った。
ロアの経験上、口封じの名目で子供が殺された事件の数は両手でも収まらない。
「俺の他に、怪我をしてる奴はいないか?」
ヒカルは一向を見た。シトリ達を逃していたロアは戦闘には関わっておらず、ヴァイ・イチゴ・カラレスは途中から氷に阻まれ戦えなかった為大きな怪我もしていないようだった。
「よし、それじゃあ行こう」
ヒカルは身体が重い中、率先して先を走り、“迷宮”へと向かった。




