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“苦”

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 儀式の間に続く扉は、前と変わらず然として細道の奥に存在していた。


「……妙だな。

この扉は王家の人間にしか開けられないはず……」

「アクアマ朝時代の魔力感知式の鍵扉であるな」


 カラレスは扉のあちこちを観察して言った。


「迷宮の奥にある割に保存状態が良い。

簡単には……それこそ大地震を起こす威力の魔法でなければ壊すことは難しいだろう。金庫によく使われる技法である。

吾輩は金庫を作ろうとしてこれを再現しようとしたが失敗したのである」


 カラレスはノブの部分をぺちぺち叩いた。


「この鍵の部分は、『特定の魔力波』を流すことで作動する魔道具である。

話を聞くに王家の血に反応するものではあるが、利便性の都合上王家の者でなくとも動くようにできている」

「つまり、ヴァイでなくても開けられるってこと?」

「然り。実験を試みるか?」

「まぁどうせ開けるしな」


 ヴァイは無造作に親指の腹を切って血を滲ませた。


「では、今回はヒカルが実験台である」


 ヒカルはカラレスに言われるまま、ヴァイの血を手につけ、ノブを回した。

 カチリ、と音が鳴り、扉が開く。


「おおー」

「王家の血さえあれば開く故、血や血縁の子を託すことで信頼する部外者を招き入れられる。

乾いたり劣化した血では反応しないため、当時最高水準の安全性を搭載しているのである」

「ふーん……でもヴァイの血ぐらい簡単に手に入るような」


 ヴァイはアクティブに活動する人というイメージがヒカルにはあった。


「迷宮彷徨くのが少なくないとは言わねぇけど、他人に介抱されるほどの怪我を負ったのはそれこそ40年前以来ねーよ。あれから気をつけてるからな。

そんなことより先行くぞ」


 半開きの扉を大きく開くと、サウナ室の扉を開けたかのような熱気が吹き出した。


「っ!?」

「なにこれ」

「前来た時よりも暑い……?」

「儀式のなんかだろ。薪持ってくっていうし」


 ヴァイが平気で入っていくのを見て、ヒカルも続く。

 前たどり着いた場所から見下ろすと、祭壇の前にシトリと王が倒れているのが見えた。その手前には、白い杖を持ったフードの人物がいる。


「!!」


 途端、ヴァイは壁の隙間から飛び降りる。


「あなたは……!」


 ヒカルにもヴァイの言わんとしていることがわかった。


「賢者様!

儀式の護衛に来ていたんですね!」


 フードの男は静かにシトリの様子を見ている。


「色々話したいことはあるんですが、とりあえず警戒してほしいんです!

革命軍を名乗る緑の仮面の人物が、ここに向かっているはず……で……」


 ヴァイは話している間に、何かに気づいた様子で言葉を詰まらせる。


「どうしたんだい、ヴァイ君」


 フードの男は静かに尋ねた。

 ヴァイは一歩下がり、杖を構え、魔力の刃を向ける。


「……俺があなたに救われたのは、40年前でしたね」

「そういえば、もうそんなにも前になるか」

「あれ以来探していましたけど、全然会えませんでしたね」

「そりゃあ、多忙な便利屋“賢者”サマだからね」

「この前あなたの姿を見ました。ここの祭壇に繋がる扉で姿を消すところも。

どちらも“祭”の前のタイミングで、どちらもこの祭壇に繋がる扉の近辺だった」


 ヴァイがフードの男を完全に怪しい人物として見ていることをヒカルは察した。


「王にこっそり護衛を頼まれたんだ。そんなにおかしいことかな?」

「護衛を頼んだ割には、あっさりとやられてるんだなって」

「残念ながら、間に合わなかったようなんだ。気絶で済んでいるのが幸いだね。

この祭壇に出入り口は3つしかないが、袋小路の洞窟は多い。どこかに潜んでいることだろう」

「あなたが実行犯なら、こんなに簡単な状況は無い……俺はそう思う」


 ヴァイの声は震えている。


「嫌だな。僕は君の怪我を治してあげたじゃないか。そんなに僕のことを恨んでいたのかい?」

「憧れていた!」


 ヴァイは苦しげに言った。


「ゴミみてぇな“大人”の中にも、あなたみたいな人格者がいるんだと、初めて知った。

あれ以来、ずっと俺はあなたみたいになりたかった!」

「……なら、どうして疑うんだ」

「靴と仮面」


 その言葉に、フードの男はピクリと身を震わせた。

 

「イチゴ。タイト国の収穫祭では、子供に『山羊の仮面』と『山羊のひずめの靴』をあげるんだよな?」

「はい。間違いありません」

「さっき出くわした、プレスと名乗った奴は緑色の山羊の仮面と、爪先が割れた靴をつけていた。奴が踏みつけた床と壁には、山羊のひずめの形の足跡がついていた……」


 ヒカルはそこまでは気づいていなかったため、ヴァイの観察眼に驚くしか出来なかった。


「そして、あなたが今履いている靴も同じデザインに見えるんです」

「……要するに、顔を見せろと言いたいんだな」

「はい。

俺はあなたを信じたいんです……!」


 フードの男はすっと立ち上がった。

 少しの間黙り込み、呟いた。


「あーあ。だからチームの証なんて作るもんじゃないんだよ」


 そう言って、背負った杖の端を持つ。


「仕込み杖である!」


 カラレスが叫んだのと、男が杖から刃を抜いたのはほぼ同時だった。

 ヴァイは一歩下がる。しかし、男は斬りつけてくることはしなかった。


「改めて自己紹介させて頂こう」


 ゆっくりとフードを外すと、その顔には紫色の山羊の仮面がある。


「僕は“ペイン”。革命軍“カグツチ”の伝令役にして最強の刺客……ということらしい。よろしくね」


 そう言って、芝居がかったお辞儀をしてみせた。

 ヒカルはペインという文字列に聞き覚えがあったが、どうにも思い出せない。


「しかし、まさか追ってくるのが“Z組”のみなさんだったとは。この幸運をテメブリスに感謝しなければね」


 ペインは右手に持った長い刀を手首だけでくるくると振り回す。

 その鋭利な刃を警戒するヴァイにペインは言う。


「この刃は、少し特殊でね。殺傷力が無いんだ。

このように」


 ペインは無造作に刃を左の手のひらに突き刺した。


「!?」

「ッーーー!」


 歪むペインの口元から、痛みに耐える呼気が漏れる。


「何を……!?」

「言っただろう。この刃は、特殊なんだ」


 刀身を手のひらに飲み込ませ、手を貫通した刃は甲から棘のように伸びる。しかし、その刀身に血の痕は無い。

 根元まで突き刺した後、刀の塚を裏側から掴む。すると、白い刀身が真っ黒に染まり、異様な雰囲気を放つ。


「さあて、誰から学ぼうかな」


 ペインは、ヴァイ、ヒカル、カラレス、イチゴ、ロアを順繰りに品定めする。


「ヴァイ君のはもう知っているからーー」


 瞬間、ペインの姿が消えた。目にも止まらぬ速さで移動したのだと気付いた時にはもう遅い。

 次に見た時は、ペインはカラレスの顔を覗き込んでいた。


「まずは君かな」


 カラレスが声を上げる前に、ペインはカラレスを斬りつけた。左手で胸ぐらを掴み、拘束しつつ手の甲から伸びた刃がカラレスを貫通する。

 ヴァイが炎の玉を放つも、ペインが右手で全て防いでしまう。


 カラレスは痛みに身を震わせ抵抗していたが、やがて身体から力が抜け、ぽろぽろと涙をこぼしはじめた。


「何故、吾輩は、報われないのであるか……?」

「うんうん。育ての親があれほど簡単に見捨てるとは、君自身思ってなかったんだね。なるほど、それは悲しいな」


 ペインの仮面端から、同じように涙が伝う。


「そうかそうか、これが君の“痛み”なんだね」

「カラレスを離せ!」


 カラレスに気を取られたペインに、ヴァイは全力で魔力の剣を振り下ろした。

 剣は片手間では防ぎきれず、ペインの腕は人差し指と中指の間から、ぱっくりと2つに裂ける。

 しかし、ペイン自身はみじろぎもしない。


「何っ……!?」


 動揺するヴァイを、ペインは無造作に蹴り飛ばして撃退する。

 十分な距離が取れた後、ペインは興味なさげに裂けた右腕を見る。ついた血を振り払うように何度か腕を振ると、断面はぴたりとくっついた。

 ヒカルはその有り様におぞましさを感じる。


「化け物……?」

「いや、痛覚遮断の魔法か何かだろう。

タイト国の上級兵がよく行う戦術だ」

「それは違うよ、ヴァイ君」


 ペインは淡々と否定した。


「僕はね、全ての痛みを知りたいんだ。

仲間を失った痛み、内臓が腐り落ちる痛み、認められない痛み、四肢が裂ける痛みーーー

それら全てを味わいたいんだよ。遮断なんてとんでもない。

もっとも……この程度ではぬるくて無いに等しいけど」


 ペインはカラレスに突き刺したままの刀を、ぐりぐりとねじって見せた。カラレスは叫び声をあげ、苦しげにもだえる。


「彼女はなかなかに良い教材だ。

未来永劫搾取される運命を悟りながら、薄氷の上の絆を保つのに苦心する日々。

工作と異世界への空想で空虚な現実を紛らわせているなんて、ありがちだが上質な悲痛さだ」

「カラレスを離してやれ!」

「そうだね、そろそろ粗方探り終わった所だ、やめてあげよう」


 ペインが手を離すと、カラレスは立っていられず、床に崩れ落ちた。


(グラビティ)!」


 次の動作をされる前に、ヒカルは転生秘法を発動させる。倒れたカラレスの元に飛び込み、空に落ちていかないようしっかりとかかえる。

 ヒカルの行動を予期していたヴァイはシトリと王の身体を落ちていかないよう植物のツタを操って繋ぎ止めていた。

 徐々に転生秘法に慣れてきたヒカルは、逆さまの世界で意図的に浮遊したまま待機することもできるようになっていた。


「やはり、君が“転生者”なんだね」


 ペインは床を右手で掴み、握力だけで落下を防いでいた。涼しげな顔で辺りを観察して言う。


「環境上書き型の“転生秘法”か。

間合いは自身の視認できる範囲といったところかな?

“グラビティ”と唱えた所からも、想起方針は重力操作で間違いなさそうだ」

「想起……?」

「再現の質が荒いからそんなことだろうと思ったけど、案の定、何も知らないんだね」

「じゃあお前は何を知ってるって……」


 ヒカルはハッと思い出した。

 世に知られている“転生秘法”は3つ。詳細不明の“キャヴティ”と、ヤマの扱う“グリップ”。そしてもう1つがーーー


「“ペイン”。まさかその力……!」

「御明察。僕の“コレ”は『転生秘法:(ペイン)』の力だ」

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