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異世界転校生〜同級生は6千歳!不老の異世界で永遠の快適学園ライフ!  作者: セロクナ
第一話:異世界転校生と“Z組”の仲間たち
4/44

“賢者”

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 洞窟は、完全に凍りついていた。天井と床を多くの氷柱が繋ぎ、淡い水色の光を薄らと放っている。


「ヴァ…ヴァイ?

ロア?」


 ヒカルは立ち上がり、辺りを見回した。ヒカルの足元だけは円形状に土と石の床が残っていた。

 ヒカルの問いかけに、誰も答えない。冷たい空気だけが流れる。

 と、ガシャン、というガラスが割れるような音が響く。


「ヴァイ?」

「ヒカル君、無事だったんだね!」


 答えたのはロアだった。

 服の裾が飲み込まれた氷柱に、ロアは介錯用のナイフを突き刺した。溶けるように氷柱が消え、ロアはどうにか解放される。

 ヴァイは上半身だけが氷柱から出ていた。足元は完全に氷柱に埋もれ、動けなくなっている。


「ご、ごめんなさい!

うまくいくと思ったんです…!」

「次からは相談してからやって欲しいかな……

っ、伏せて、ヒカル君!」


 ヒカルが訳がわからないまま伏せると、頭の上を光線が通過していった。ヒカルの背後にある氷柱が溶ける。


「ガァァァァァア!!!」

「マズい…お怒りだ!」


 咆哮が聞こえる方を見れば、オオトカゲが身を周囲の氷柱に打ち付け、自由になろうとしている所だった。まだ足は解放されていないが、時間の問題であるのは明らかだ。

 オオトカゲは口を大きく開け、二発目の光線の準備をしている。


「ヤバっ!」


 ロアとヒカルがかけより、ナイフでヴァイを閉じ込めた氷柱を溶かそうとする。しかし、氷の量が多過ぎてなかなかヴァイは抜け出せない。

 そうこうする間に、オオトカゲの光線のチャージが完了した。


「まずい、逃げろ……!」


 その時、ヒカルの知らない第三者の声がした。くたびれた、大人の声だ。


「だから、力を持ったガキは手に余る」


 オオトカゲは光線を吐き出す。しかし、光線は光の大盾で防がれた。

 ヒカルは振り返った。

 洞窟の道のうちの1つから、ヒョロ長い人影がカツカツと足音を立てて歩いてくる。


「マジック・エンド」


 ヒョロ長い人影は左手を床にかざして言う。

 すると、ヒカル達の周囲の氷が溶け消えた。


「あなたは……ウィローさん!」

「チッ……」


 ロアにウィローと呼ばれた男は、舌打ちをし、ヒカル達を睨む。ヒカルは並々ならぬ敵意をウィローから感じた。


「さっさと失せろ、未熟者共が!」

「なんだと、テメエ……!?」

「ヴァイ、今は争ってる場合じゃないでしょ!」

「ガ……ガァァァァァアアアア!!」


 突然、オオトカゲは身をねじり、苦しみだした。光線は弱まり、代わりに口から血を溢れさせた。


「ガフッ、ガァア……!」

「ウィンド!」


 ロアが叫ぶと、オオトカゲは風で洞窟の奥に飛ばされる。続いてガラガラ、ガッシャン、という音が聞こえて来る。どうやら足を踏み外して落ちたようだった。


「やれやれ。出来損ないが揃いも揃ってこんな所に遠足かい?

いっそアレに踏み潰されれば、魔物としてそれなりに強くなれたかもしれないね」


 ヴァイが激昂し、殴りかかろうとしたのをロアが羽交い締めに止めた。


「ウィロー、あなた何をしに来たの?

こんな上層、あなたみたいな“賢者”が来る場所じゃないはずよ」

「アレを追ってきたんだ」


 ウィローは肩をすくめ、オオトカゲが落ちていった洞窟の奥を示した。

 それから、オオトカゲが吐いた血溜まりに近づいていく。


「おい、それは俺達の戦利品のはずだ、だってあいつと一番戦ったのは俺達だろう!」

「ハッ、この戦闘でどうして生き残れたのか、よくよく考える事だ」

「お前の手助けが無くたって……!」


 ウィローが手をかざすと、地に散らばった血液が宙に浮かび、小瓶の中に注ぎ込まれていく。

 周囲に血が一滴も散っていないことを確認してから、ウィローは小瓶のフタを閉めた。


「フン、屁理屈は大人になってから言うんだな」


 ヒカルはヴァイが物凄い形相でウィローを睨むのを見た。

 ウィローはそんな睨みも気にしない様子で、オオトカゲが消えた洞窟の奥に歩いていった。


「畜生!」

「ご……ごめんなさい、僕のせいだ」

「……謝らなくていい」

「魔法の範囲を間違えるのなんて、誰にでもあるミスだよ。気にしなくていい。

ただ……次からは新しく魔法を使おうと思ったら、あらかじめ言っておいてね」

「……はい」

 

 沈黙の後、ロアは曖昧に笑って言った。


「そろそろ……探索もひと段落、って感じじゃない?

明日も授業があるし、今日のところはここで帰ろうよ」

「ああ……そうだな」


 ヒカルにも、反対する理由は無かった。

 帰り道、ヒカルはヴァイから離れ、こっそりとロアに話しかける。


「ウィローさんって、何者なんですか?」

「……ファイヤ王国が誇る、最高の魔法使い……“賢者”の1人。

本当はあんなトゲトゲした人じゃないんだけど……去年、愛娘がこのダンジョンに入ったっきり行方不明になっちゃってさ」

「あんなヤツ、“賢者”なんて呼ぶのも腹立たしい。あんなのに“賢者”の座が汚されるぐらいなら、俺が“賢者”になってやる」


 コソコソ話はヴァイにも聞こえていた様子だった。


「また始まった」

「また?」

「ヴァイは将来“賢者”になるって聞かないんだ」

「不可能な話じゃないだろ」

「とは言ってもさぁ」

「“Z組”の生徒なら、魔力量に心配は無いし…とにかく、あんな不届きなヤローが国最高の魔法使いを気取ってんのが理解できねぇ。

“賢者”ってのは、国の皆の為に才を使う、最高の魔法使いに贈られる称号のはずなのに」


 ヴァイは負に落ちない様子で足元の石を蹴り飛ばした。


「まぁまぁ……さっきだって守ってもらったろ?」

「……どうだか。あのまま防がなかったらウィローのヤツも消し飛ぶ場面だったかもしれないぜ」

「……確かにそうかも」


 そんな話をしている間に、一行は入り口カウンターに戻ってくる。


「おお、お帰り。身体は五体満足かい?」

「ああ……まぁ、いろいろあったけど、無事だよ」


 ヴァイはまだ動揺を隠し切れていない。余程ウィローに腹が立っているようだ。


「これ、換金お願いできるかな?」

「ガッテンだ」


 ロアが、蜘蛛の内臓と狼の毛皮をカウンターに置く。女主人が鑑定する中、ロアは掲示板に貼り出されたパーティ表の1枚を示す。


「あれが、ウィローの愛娘。【マリー・ゴールド】。

まだ帰還していないけど、死亡も確認できてないから、掲示板から剥がされていないんだ」


 言われて見ると、【マリー・ゴールド】のパーティ表は古ぼけている。


「マリー・ゴールド。当時17歳。

魔法使いとしては平凡な方だけど、誰より熱意とやる気、根気を持った女の子。学園の生徒で、一昨年の学園高等部では首席も取ったような子。

“賢者”をやってる父親のようになりたくて、この“迷宮”に挑んだ、それが最後の目撃だ」

「おや、なんだい。マリーの捜索に興味があるのかな」

「ううん、残念ながら…。

探索していたらウィローに会ってね。こういう背景があるって事を知ることも大事じゃん」

「まぁ…そうだねぇ。

あの人の最近の口癖は『子を愛さない親なんていない』だっけ?

それで毎日毎日“迷宮”に挑むんだから、ご苦労様だよ」


 ヒカルは、急に「ウィローの鼻を明かしてやひたい」と思った。ヒカル自身、何故そう思うのかは理解できなかった。ただ、ウィローを酷く傲慢な大人だと、魂の底で認識した。


「……行方不明者の探索って、何か申請とか必要なのかな?」


 素材の鑑定が済んだ女主人が、会話に加わってきた。


「まさか、マリーを探しに行くつもりかい?」

「……少し、興味を持ったので」

「ふぅん……まぁいいや。もしかしたら偶然手がかり見つけるかもしれないし、教えとくよ。

行方不明者の帰還条件は3つ。

1つ目は、行方不明者の身につけていた杖、または衣服などの荷物が全体の2/3以上発見されること。

2つ目は、行方不明者の遺骸が全体の3/5以上、または首が発見されること。

3つ目は、行方不明者当人が帰還すること」

「……1年以上前の行方不明者が生きていたことなんてあるんですか?」

「稀だけど、無いわけじゃない」

「20年以上囚われてた人が出てきたこともあったよ」


 ロアの言葉は実感に溢れている。

 流石は魔法がある世界だ、とヒカルは納得した。


「私としても、行方不明の子が見つかった方が嬉しい」


 女店主は素材の代金をヒカルに渡しながら言った。

 ヒカルは、明日から頑張るぞ、と決意を固めた。


「ああそうそう、伝え忘れてたんだけどさ、レキサさん」

「何?」

「なんでかはわかんないんだけど、1400年代の“固有種”オオトカゲが20年辺りの超上層まで来てたよ。

ウィローが追っかけていったから大丈夫だとは思うけど、今日一日閉鎖しといた方がいいと思う」

「あら、それ本当?

ありがとね、ロアさん」


 一通り情報交換が終わり、ヒカル達は“迷宮”を後にする。

 ヒカルが入り口の扉を閉める時、女店主は確かに呟いた。


「しっかし……1400年も前の“固有種”が上層に、なんて、珍しいこともあるものね」

賢者(けんじゃ)

国王が任命し直轄する組織の名称。

一般人では手がつけられなくなった“固有種”の討伐や“迷宮”の探索などが主。

名前を公開している者と非公開の者がいる。

非番時は市民の悩み相談なども行なっており、よく「子供の憧れのヒーロー像」として扱われる。

“ニホン”で言う消防士に近いポジション。

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